天皇杯で実現した新旧JFL王者の対戦【4回戦】ヴェルスパ大分 vs Honda FC

4回戦が行われた大分市陸。スタンドはHonda FCの横断幕で埋め尽くされた。

■JFL4連覇のHonda FCと初優勝のV大分

 12月13日、天皇杯JFA第100回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の4回戦4試合が各地で開催された。3回戦までは関東勢同士や九州勢同士など、地域ごとの対戦が続いていたが、4回戦からは「地域代表」同士による、天皇杯らしい顔合わせが実現。勝ち上がった8チームは、この4回戦と5回戦で2チームに絞られ、準々決勝でJクラブと対戦する権利が与えられる。

 今回、私がチョイスしたのは、大分市営陸上競技場で開催される、ヴェルスパ大分 vs Honda FC。単なるJFL勢同士の対戦ではない。昨シーズンにJFL4連覇を達成しているHonda、そして今季のJFLで初優勝を果たしたV大分。新旧JFL王者が、雌雄を決する大一番である。今季のJFLは、コロナ禍の影響により1回戦総当たりとなったが、Hondaホームで行われた対戦では、V大分が1−0で勝利している。

 JFLの「門番」として知られるHondaについては、ここで多くを語る必要はないだろう。JSL(日本サッカーリーグ)1部に11シーズン在籍し、日本サッカー界に幾多の人材を輩出しながら、プロ化の流れには背を向けて企業チームとしての道を愚直に歩んできた。天皇杯出場は40回で、今大会に出場しているアマチュアチームでは最多。2007年と19年にはベスト8に進出し、いずれも準々決勝で鹿島アントラーズに敗れたものの、好勝負を演じている。

 対するV大分は、今大会が10回目の出場。2010年大会以降、ほぼ連続して大分県代表として出場権を勝ち取っている(唯一の例外は、J3だった大分トリニータが予選に参加した16年大会)。もともとは、地元企業の社員による草サッカーチームとして、04年に県4部からスタート。12年にJFLに昇格し、9シーズン目にしてアマチュアの頂点に立った。将来のJリーグ入りを目指しており、来年2月にJリーグ百年構想クラブに認定されるかが注目される。

87分の決定機を外して悔しがるV大分の瓜生昂勢。この日は最後まで1点が遠かった。
87分の決定機を外して悔しがるV大分の瓜生昂勢。この日は最後まで1点が遠かった。

■攻撃のパターンを完全に読まれていたV大分

 キックオフは13時。大分市陸のピッチに降り立つと、赤い横断幕があちこちに張られてあった。V大分のクラブカラーは赤。今季のJFLを制し、Jリーグ入りを宣言しているだけのことはある──。と思ったら、いずれの横断幕もHondaのものではないか。スタンドを見渡すと、アクティブに応援しているのは、遠方から来ているHondaのサポーターばかり。あらためて、歴史と伝統の差を痛感する。

 前半は、両者の力の差を感じさせる展開となった。ただし主導権を握ったのは、現チャンピオンでなく前チャンピオン。しっかりパスをつなぎながらビルドアップするV大分に対し、Hondaは相手の細かいミスを徹底的に突いてチャンスを作る。また、常に高い位置から潰しにかかるので、V大分はシュートさえも打たせてもらえない。そして14分、Honda FCが先制。堀内颯人のスルーパスから、富田湧也が相手DFを置き去りにして、ゴール右隅に流し込んだ。

 前半は、Hondaの1点リードで終了。しかし後半に入ると、前線をテコ入れしたV大分が押し込む時間帯が増えてくる。須藤茂光監督のベンチワークは、まずハーフタイムに長身の中村真人を投入して、前線を2トップから1トップ2シャドーに変更。そして70分からは、ドリブラータイプの利根瑠偉を起用し、左サイドからの攻撃を活性化させた。しかしHondaにしてみれば、この展開も織り込み済みだったようだ。キャプテンの鈴木雄也は語る。

「後半、相手の配給がロングボール主体になることわかっていました。18番(中村)をターゲットに放り込んで、11番(利根)が縦に突破してくる。攻撃がパターン化されていたので、対応はしやすかったですね」

 後半のV大分は、多くの時間帯を相手陣内でプレーし、前半ゼロだったシュート数も6本に増加。とりわけ、利根のドリブル突破からキャプテンの瓜生昂勢が放った87分のシュートは、相手守備陣に少なからぬ脅威を与えた。しかしボールは保持するものの、Hondaの的確な守備を崩せず、逆襲からたびたびピンチにも見舞われた。結局、1−0のスコアのまま試合終了。リーグ戦のリベンジを果たしたHondaが、5回戦進出を果たした。

V大分の須藤茂光監督。Hondaとの差は認めたものの「詰められない差ではない」。
V大分の須藤茂光監督。Hondaとの差は認めたものの「詰められない差ではない」。

■もし、大分県に第2のJクラブが生まれるならば

 試合後の会見は、感染防止のためのリモートではなく、ノーマルな対面式で行われた。もちろん、取材する側もされる側もマスク着用だったが、それでも面と向かって質疑応答ができるのはありがたい。「前掛かりの相手に、もう1点入れられなかったのは課題だが、次に進めたのは収穫」とは、Hondaの井幡博康監督のコメント。一方、相手との力の差について、V大分の須藤監督はこう語った。

「私はこのチームを率いて3年目なんですけど、1年目のHonda戦はホームで1−5、アウェーで0−3。まったく手も足も出ない状況でした。今年に関しては、JFL王者と対等にやれるという自信を、選手も得ることができました。それでも選手個々の能力では、Hondaさんのほうが上でしたね。ウチは組織でカバーしてきましたが、個の部分ではまだまだ差がある。ただし、まったく詰められない差ではないとも思っています」

 V大分の関係者に、今季のJFL優勝の理由を尋ねると、決まって返ってくるのが「須藤監督の3年間の積み重ね」。大分にやって来る以前は、JFAのナショナルトレセンコーチやJFAアカデミー熊本宇城監督など、ずっと育成畑を歩んできた。目先の勝敗だけにとらわれない、長期的な視野に立った監督の指導が、今季ようやく花開いたV大分。とはいえ、本当の意味で「門番」を超えるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 最後に、V大分のJリーグ入りについて、考察してみることにしたい。言うまでもなく県内には、大分トリニータという巨大すぎる存在がある。とはいえ近年、地方都市にも次々と「県内第2のJクラブを目指す」機運が生まれているのも事実。愛媛FCとFC今治、2つのJクラブを持つことになった愛媛県のような事例は、今後は珍しくなくなるだろう。もし、大分県に第2のJクラブが生まれるならば、両者の差別化が肝となる。

 官主導だったトリニータに対し、地元企業の草サッカー部から全国リーグまでたどり着いたV大分のストーリーは、十分に魅力的だ。ただしホームタウンについては、大分市は避けるべきだろう。県内第2の人口規模を誇る別府市は、その数12万人弱。大分市の48万人弱と比べると、かなりの差は感じられるが「温泉街のJクラブ」という打ち出し方は可能だろう。ヴェルスパのスパは「温泉」に通じるので、あながち夢物語でもないように思えるのだが。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>