なぜJ3クラブが「芝生×トライアスロン」なのか? ガイナーレ鳥取が芝生の事業化に取り組む理由

米子市のチュウブYAJINスタジアム。芝生の管理はガイナーレ鳥取が行っている。

■なぜトライアスロン? なぜ芝生化?

《鉄人野人 全緑挑戦!トライアスロン聖地 米子/境港 に芝生広場を》──。

 元日本代表でJ3ガイナーレ鳥取のGMを務める「野人」こと岡野雅行氏が、トライアスロンの「鉄人」こと小原工氏とタッグを組み、トライアスロン関係者や地元ケーブルTVと実行委員会を立ち上げて、7月22日からクラウドファンディングをスタートさせたことが話題になっている(参照)。目標金額は1200万円で、開始から5日目となる26日で163万円。初速としては、まずまずの数字であるといえよう。

 クラウドファンディングの主旨は、以下のとおり。鳥取県の米子市皆生(かいけ)は、日本のトライアスロン発祥の地として知られ、全日本トライアスロン皆生大会は来年で40回目を迎える。それと時を同じくして、皆生プレイパークと境港市の夢みなと公園広場が、全長約16キロのサイクリングロードで結ばれる。そこで皆生大会40周年事業として、両広場を芝生スペースにリニューアルする、というのがプロジェクトの目的である。

 鳥取の岡野GMといえば以前、境港で採れる海産物を返礼品として全国から寄付を募り、集まったお金で選手獲得資金に充てるユニークな活動を行っている(結果としてJ1プレー経験のあるフェルナンジーニョを獲得することができた)。しかし今回のクラウドファンディングは、それと比べてスケールが桁違いだ。そもそも、なぜ本業のサッカーでなくトライアスロンなのか? なぜ広場の芝生化なのか? 事情を知らない方は、いくつもクエスチョンマークが浮かぶことだろう。

 この「芝生×トライアスロン」の座組を立案したのが、ガイナーレ鳥取の経営企画本部長という肩書きを持つ、高島祐亮さん。実はベンチャー業界の出身で、これまで50以上の新規事業立ち上げに関わり、2社の上場に大きく貢献している。その後、Jリーグに転職して17年7月にガイナーレ鳥取に出向すると、すぐさまクラブの経営改革に着手。その具体的な成果のひとつが昨年の入場者数で、17年の1559人から2657人(前年比170%、リーグ全体で8位)に上昇させることに成功している。

クラウドファンディングのページに掲載された、ガイナーレ鳥取のGMを務める「野人」こと岡野雅行氏とトライアスロンの「鉄人」こと小原工氏のツーショット。
クラウドファンディングのページに掲載された、ガイナーレ鳥取のGMを務める「野人」こと岡野雅行氏とトライアスロンの「鉄人」こと小原工氏のツーショット。

■ガイナーレ鳥取が進める「芝生の事業化」

 一方で高島さんは、鳥取に着任してすぐに「芝生の事業化」というミッションにも取り組んできた。もともと米子市は、土壌が砂地で豊富な地下水が流れているなど、芝生生産に最適な条件が揃っていた。加えて、同市にあるチュウブYAJINスタジアムのピッチを自前で管理をしていたので、芝生に関するノウハウもある。そのノウハウを活かして、新たな事業を立ち上げられないか──。そう持ちかけたのは、クラブ社長の塚野真樹氏。今から2年前の出来事を、高島さんはこう回想する。

「鳥取のような人口が少ない県でJクラブが生き残っていくためには、広告料や入場料や物販以外での収入を考えなければならない。そこで出てきたのが、芝生の事業化でした。ただし、ほとんど無茶振りでしたね。塚野からアイデアを聞かされて『面白そうですね』と言ったら『じゃあ、やってみて』と(笑)。もちろん僕は、芝生の専門家でも何でもない。ただ、ビジネスとしての拡張性と継続性があって、それがクラブのためになるんだったらという思いはありました」

 17年にスタートした芝生の事業化は、やがて『しばふる(Shibafull)』の名前で定着。昨年10月に高島さんに話を聞いた時には、保育園や高校の中庭に400から800平米の受注があったほか、個人住宅でのニーズも対応していくと語っていた。ただし、クラブが潤うことだけを考えていたわけではない。芝生事業が軌道に乗れば、農家の高齢化による耕作放棄地の活用という、地域課題の解決にもつながる。今回の「芝生×トライアスロン」も、実はそうした地域貢献の発想が原点にあった。再び、高島さん。

「しばふるの活動をしている中で、よりシンボリックな活動をすることをクラブのマイルストーンに置いていました。もっと地域の皆さんに直に見てもらい、知ってもらうことが、結果としてクラブのメリットになるわけです。たまたま岡野が、キッズトライアスロンのイベントに3年くらい参加していて、小原さんとの接点が生まれました。そこで皆生大会40周年事業の話を聞いて、トントン拍子に進んでいきましたね」

ガイナーレ鳥取の高島祐亮経営企画本部長(昨年10月に撮影)。2年前から「芝生の事業化」に携わり、今回のプロジェクトをマイルストーンと捉えている。
ガイナーレ鳥取の高島祐亮経営企画本部長(昨年10月に撮影)。2年前から「芝生の事業化」に携わり、今回のプロジェクトをマイルストーンと捉えている。

■「お金とクラブの価値、両方を一度に得られる」

 かくしてクラブ内、さらには地域の関係者や行政と協議を重ねた結果、「これはいける」となったのが今年の5月。6月には『鉄人と野人 トライアスロン発祥の地全緑プロジェクト実行委員会』を設立し、今月には満を持してクラウドファンディングがスタートする。その間、関連する行政や企業へのヒヤリングを1カ月ほど重ねながら、クラウドファンディングのページ作成を高島さんがほぼ独力で行った。本人いわく「クラファンそのものは初めてでしたが、ストーリーを考えて商品を売るというのはベンチャー時代にやっていたEコマースと変わらないですね」。そして、こう続ける。

「もともとクラブの新規事業として始まったしばふるですが、最近は『お金だけじゃないぞ』と確信するようになりました。ちょうど今年、ガイナーレ鳥取のバリュー(価値基準)を言語化したんです。『Professional(プロフェッショナル)』『Originals(独創的な)』『Connect(つながる)』。まさにしばふるによって、地域と密接につながることができて、そこでクラブの価値を高めることができる。お金とクラブの価値、両方を一度に得られるというのは、これは大きな武器ですよね」

 全国津々浦々に存在するJクラブは、単にサッカーの興行だけではなく、最近は地域にとって価値ある存在であることが求められるようになった。おりしも昨年、25周年を迎えたJリーグは「Jリーグをつかおう!」をキャッチフレーズに「シャレン(社会連携)」を打ち出している。今回のプロジェクトについても、Jリーグから「これこそがシャレン」と評価されているそうだ(クラウドファンディングのページにもシャレンのロゴが入っている)。

 クラブにとっては2年間続けてきたしばふるのマイルストーンであり、Jリーグからも注目されている「芝生×トライアスロン」のプロジェクト。主導してきた高島さん自身もまた、実は「地方クラブでの新しい働き方」を意識的に実践しようとしている。もともと鳥取には地縁がなかったが、このほど出向元のJリーグからガイナーレ鳥取への「完全移籍」を決断。家族を横浜に残しての単身赴任は、今後も続けるという。

「もちろん家族の理解があってのことですが、生活の拠点が2つある働き方があってもいいのかなと。今の時代、どこにいても働けます。それに地方を言い訳にするのではなく、むしろ地方クラブで働く意義を自ら示したいんですよ」とは当人の弁。実に潔い姿勢だと思う。全国人口最少県のJ3クラブによる壮大な挑戦の実現を願いつつ、高島さんが身をもって実践する「地方クラブで働く意義」についても、引き続き注目していきたい。

【付記】

高島祐亮さんについては、昨年10月に宇都宮徹壱ウェブマガジンにてロングインタビューを行っている。有料コンテンツだが、ご参考までに。

かーねる流「働き方改革」がガイナーレ鳥取を変える! 高島祐亮(株式会社SC鳥取経営企画本部長)<1/2><2/2>

※写真は2枚目を除いて著者撮影