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来年のワールドカップは意外と快適? コンフェデ杯から見た開催国・ロシアの「今」

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
開幕戦と決勝戦が行われた、サンクトペテルブルクのクレストフスキー・スタジアム

7月2日(現地時間)、ドイツの優勝で幕を閉じたFIFAコンフェデレーションズカップ・ロシア2017(以下、コンフェデ杯)。今大会は日本が参加しなかったこともあり、国内での注目度は今ひとつであった。言ってみれば「仕事になりにくい」取材だったのだが、それでも現地に赴いたのは来年のワールドカップ開催国の「今」を取材者目線、そして観客目線で確認しておきたかったからだ。

いずれ大会が近くなれば(そして日本代表がアジア最終予選突破を決めてくれれば)、開催国や現地観戦に関する情報はいくらでも出てくるだろう。今回はあえてディテールには立ち入らず、コンフェデ杯の開催都市(モスクワ、カザン、ソチ、サンクトペテルブルク)での取材を通じて得た情報をざっくりお伝えするにとどめたい。来年のワールドカップ観戦を考えている皆さんの参考になれば幸いである(なお7月6日には都内でこんな報告会も予定している)。

■現地の治安は?

まず現地観戦で気になるのが治安。前回のブラジル大会、そして前々回の南アフリカ大会でも、開催国の治安が不安視されていた。ロシアでも今年4月、サンクトペテルブルクで地下鉄を狙った爆弾テロ事件があった。とはいえ、絶対にテロが起こり得ない国や都市など「どこにもない」のが今の時代。それにロシアに関していえば「ウザいくらいに警備が厳重な国」であり、海外からの旅行者に犯罪が及ぶリスクはそれほど大きくはない。少なくともブラジルや南アフリカに比べれば、リスクはかなり限定的であると言ってよいだろう。

■現地の物価は?

あくまで実感レベルで言えば「EU諸国よりも安い」といったところか。ホテルやモスクワやサンクトペテルブルクといった大都市でも、1泊6〜7000円くらいで泊まれる(ただしワールドカップ期間中は高騰する可能性が高い)。公共交通機関は(社会主義時代の名残からか)驚くほど安いし、タクシーも30分乗車して3000円もかからない。外食は少し高い印象(といっても日本と同じくらい)だったが、節約する手段はいくらでもある。

2年前の世界水泳では仮設プールが設置されてメイン会場になったカザン・アリーナ。
2年前の世界水泳では仮設プールが設置されてメイン会場になったカザン・アリーナ。

■現地の気候は?

開催都市によって異なるが、総じて言えば「日本と比べて涼しい」。今年のロシアは特に涼しかったようで、雨が降れば気温が10度くらいに下がることも珍しくなかった。南部のソチは暑いが、それでも30度を超えることはまずない。着るものに関しては、ポロシャツから薄手のダウンジャケットまで揃えておいたほうがよいだろう。

■現地のネット環境は?

驚くほど良かった。というか「2020年の東京五輪は大丈夫だろうか」と心配になるくらい、ロシアのネット環境は整備されている。空港、ホテル、レストラン、そしてスタジアムでもWi-Fiは無料。現地の携帯番号を入力すれば、パスワードがショートメールで送られてくるシステムが主流となっている。

ソチ五輪の開閉幕式が行われたフィシュト・スタジアムは4万7659人収容に改修。
ソチ五輪の開閉幕式が行われたフィシュト・スタジアムは4万7659人収容に改修。

■スタジアムへのアクセスは?

基本的にロシアは公共交通機関が充実しているし、中心街からスタジアムが遠い場合でもきちんと観客のことを考えた対応がなされている。今大会で言えば、ソチの会場から出る列車は午前3時まで動いていたし、サンクトペテルブルクのシャトルバスはスムースに地下鉄駅まで大量の観客を運んでいた。

■スタジアムの観戦環境は?

こちらも驚くほど良かった。かつてのロシアのスタジアムといえば、トラック付きの屋根なしでトイレが汚い、というのがスタンダード。ところが今大会の会場は、球技専用の屋根ありでトイレもきれいという、ヨーロッパ最新のスタンダードとなっていて、むしろ日本の競技施設のほうが遅れている印象を受けた。Wi-Fi環境も整っており、さまざまな面でストレスを感じることなく試合を楽しむことができる。

モスクワのスパルタク・スタジアムは見やすさ抜群でアクセスも良い。
モスクワのスパルタク・スタジアムは見やすさ抜群でアクセスも良い。

■現地でストレスに感じたことは?

まず、英語があまり通じない(モスクワの空港でも怪しいくらいだ)。キリル文字のみの表記も少なくない(さすがに公共交通機関ではラテン文字も併記されている)。また警備が厳重で、鉄道やメトロに乗る時は空港のような荷物検査があるのも厄介といえば厄介。それから飛行機は、国内便に遅れが出るのは日常茶飯事のようだ(2週間の取材で3回ディレイに遭った)。ロシアでは、とにかく早め早めの行動が肝心。あと、キリル文字は覚えておいたほうがいいだろう(33文字しかないので、すぐに覚えられる)。

■現地に持っていくものは?

今回、重宝したのがグーグルマップ。現地でバスに乗る機会が多かったので、これがなければスタジアムに到着するのは難しかっただろう。ルーターをレンタルして日本の携帯電話を使うのもありだが、ロシアでは現地のSIMカードを購入いたほうが何かと便利。よって、SIMの入れ替え可能なスマートフォンを確保しておいたほうがよいだろう。それから現地では、いきなり大雨が降ることがあるので、折りたたみ傘(それも丈夫なもの)を常備しておくことをお勧めする。

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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