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注目のFC今治に立ちはだかる地域決勝の壁

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
FC今治の岡田オーナー。今季の最大の目標は「JFL昇格」と言い切る。

■今年の地域決勝の組み合わせが決定!

レギュラーシーズンも残りわずかとなったJ1リーグが各地で開催された10月24日、東京のJFAハウスでは第39回全国地域サッカーリーグ決勝大会(以下、地域決勝)の組み合わせ抽選会が行われた。全国9つに分かれた地域リーグ(J1から数えて5部に相当)の優勝チームに、全社(全国社会人サッカー選手権大会)を勝ち抜いた3チーム、合計12チームが3つのグループに分かれる今回の抽選会では、Ustreamでの配信も行われたこともあり、これまで以上にサッカーファンの注目を集めることとなった。抽選会の結果は、以下のとおりである。

Aグループ@中津総合運動場サッカー場(大分)

新日鐵住金大分(九州)、バンディオンセ加古川(関西/全社枠)、ブリオベッカ浦安(関東)、札幌蹴球団(北海道)

Bグループ@島根県立浜山公園陸上競技場(島根)

ラインメール青森FC(東北/全社枠)、松江シティFC(中国)、FC刈谷(東海)、FCガンジュ岩手(東北)

Cグループ:愛媛県総合運動公園球技場(愛媛)

サウルコス福井(北信越)、アルテリーヴォ和歌山(関西)、阪南大クラブ(関西/全社枠)、FC今治(四国)

今大会は11月6日から8日まで3会場で1次ラウンドが行われ、これを勝ち抜いた4チーム(各グループ1位と最も成績の良い2チーム)が、11月21日から23日まで高知県立春野総合運動公園陸上競技場で開催される決勝ラウンドに進出。この決勝ラウンドでの上位チームが、ひとつ上のカテゴリーであるJFLに昇格できる。何チームが昇格できるかは、現時点で正式なアナウンスはないが、おそらく2枠となる可能性が高いと見られる。前回大会は3チームが昇格しているが(奈良クラブ、FC大阪、クラブ・ドラゴンズ)、いっそう狭き門となった感が強い。

■地域決勝とはどんな大会なのか?

四国リーグを制して地域決勝に臨む今治。話題性では他の追随を許さないが…。
四国リーグを制して地域決勝に臨む今治。話題性では他の追随を許さないが…。

この地域決勝という大会が特徴的なのは、何と言っても連日3試合という過酷なレギュレーションである。仕事を持つ選手が多いため、週末に集中的に試合が行われるのだが、3日間連続でテンションの高い試合をこなす消耗度は尋常でなく、これに過度の心理的プレッシャーも加わる。また短期決戦であるため、一度チームの歯車が狂ってしまうと修正するのも容易ではない。「本命」と思われていたチームが、1次ラウンドであっさり敗退してしまう怖さがあるのもまた、地域決勝の特徴だ。

さらにもうひとつ指摘しておきたいのが、この大会の敗者が引き受けなければならない「痛み」である。各地域リーグでの戦い(さらには全社での出場権を懸けた戦い)を経て、ようやくJFL昇格のチャンスをつかんだとしても、それまで積み重ねてきた努力がたった3日間で水泡に帰するという結果にもなりかねないのが、地域決勝のしんどいところである。たとえばFC今治のように、どれだけ話題性があろうが、どれだけ有名なスポンサーがついていようが、あるいはどれだけモダンなサッカーを志向していようが、ここで負けてしまえば来季もまた四国リーグで戦うしかない。

今治といえば、地域決勝での今治の試合がスカパー!でライブ放送されることが発表された。元日本代表監督、岡田武史氏がオーナーを務めるこのチームは、こと話題性に関しては他の追随を許さない。しかしながら、彼らが順当に1次ラウンドと決勝ラウンドを勝ち上がり、首尾よくJFLに昇格できるという保証はどこにもないのが実情。個人的には、今年から今治の取材を続けているので強いシンパシーは感じているが、地域決勝を過去10大会追いかけてきた立場からすると、今回の組み合わせは「非常に厳しいグループに入った」と判断せざるを得ない。

■「非常に厳しいグループに入った」今治に勝機はあるか?

全社決勝に臨む和歌山(イエロー)と阪南大ク。今治はこの大会では2回戦敗退。
全社決勝に臨む和歌山(イエロー)と阪南大ク。今治はこの大会では2回戦敗退。

今治は、今月岩手県で行われた全社で、2回戦で敗れている。この大会で、3試合連続で戦うシミュレーションができなかったこと、そしてさまざまなタイプの相手と真剣勝負ができなかったことは大きな機会損失となった。加えて、他の3チームに対して「これ」という優位性が見当たらないのも厳しい。1次ラウンドは実質ホームで試合ができるが、たとえば松本山雅のような大勢のサポーターによる後押しが期待できるわけでもない。逆に今治が対戦する3チームは、それぞれに1次ラウンドを突破できるだけの強みを持っている。

北信越チャンピオンのサウルコス福井は、全社1回戦で今治が逆転勝利(3−2)した相手だが、当然ながらこの敗戦を糧に万全の対策を施してくるだろう。また、前回大会で決勝ラウンド進出を果たした経験は、彼らの自信とモチベーションの源泉にもなっている。阪南大クラブは、関西大学サッカーの強豪で知られる阪南大サッカー部のセカンドチーム。こうした大学生チームは、恵まれた練習環境と選手層の厚さ、そして若さゆえの回復力の速さという点において、地域決勝では非常に手強い存在だ。その阪南大クと全社決勝で対戦したアルテリーヴォ和歌山は、実質1軍半のメンバーで5試合を戦い抜き、見事に優勝を果たしている。09年大会の松本(現J1)や10年大会のカマタマーレ讃岐(現J2)のように、全社の優勝チームが地域決勝でも勢いを持続させることは、往々にして起こり得ることだ。

今治にとって幸いだったのは、対戦の順番に恵まれたことだろう。初戦は阪南大ク、2戦目が和歌山、3戦目が福井。初戦のプレッシャーという点では、若い阪南大クはやや分が悪いと考える。裏の試合で和歌山が福井に勝ち点2以下で終われば、さらに今治は優位に立つことができよう(地域決勝では90分で引き分けに終わった場合、延長戦なしのPK戦が行われ、勝者には勝ち点2が、敗者には1が与えられる)。お互い2試合を終えて迎える第3戦は、当然ながら今治も福井も綿密なスカウティングを終えているはずだが、ここでスタッフの数と質に恵まれている今治にアドバンテージが生まれるかもしれない。いずれにせよ、今治にとって(もちろん他のチームにとっても)シーズン最大の正念場となる地域決勝。今大会も、記憶に残る好勝負が生まれることを期待したい。

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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