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香川照之氏性加害報道:なぜ擁護派が生まれるのか:被害者を守り全ての人の人権を守るために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:お酒の場ではトラブルが起きることも(写真:イメージマート)

■俳優の香川照之氏、性加害報道

8/24発売の「週刊新潮」(9/1日号)が、売れっ子俳優であり、トヨタなど大企業のCMや、情報ワイドショーの司会も務める香川照之氏の性加害行為を報道しています。

香川照之の性加害で被害者がPTSDに 下着を剥ぎ取り、胸部を直に触り…やりたい放題セクハラ:デイリー新潮8/24Yahoo!>

週刊新潮の報道を受けて、メディアによって、「性加害」「セクハラ」「わいせつ行為」など、表現は様々です。

週刊新潮の見出しは、「『香川照之』銀座高級クラブでワイセツの裁判記録」となっています。

この記事によれば、2019年に銀座のクラブで、香川氏がホステスさんの下着をはぎ取るなどの行為を行い、その被害を受けた女性が、香川氏の暴走を止められなかったとして、クラブのママを民事で訴えたというものです。ただし、訴訟はすでに取り下げられています。

■報道を受けての人々の反応

もちろん、香川照之氏を強く非難する声が聞かれます。

「好きだったのに、がっかり」

「許せない、許してはいけない」

その一方、「本人は訴えられてないからセーフ」など擁護する意見も多く見られます。

その擁護ぶりが異常だとする報道もあるほどです。

香川照之「銀座クラブで性加害」報道に「逃げられたよね」「3年も前のこと」ファンの擁護が異常すぎる:FLASH8/24Yahoo!>

■どんな相手にも性加害は許されない

ネット上の意見の中には、「ホステスなら、その程度のことでさわぐな」といった意見も見られます。

しかし、相手がホステスであれ、恋人であれ、誰であれ、同意のない、相手が嫌がる性的な行為をしてはいけません。

もちろん、二人の個人的な関係性や、そのお店によっては、許される行為があるでしょうが、しかし店内であれ、女性の自室であれ、相手が嫌がる行為をしてはいけないのが、大原則でしょう。

■性加害に対する私たちの態度

一般に、性加害に対しては、世の中の目は厳しくなっています。加害者への厳罰化が主張されたりもします。

刑事事件としては同程度の罪であっても、ケンカで相手を傷つけるのは許容されても、性犯罪は世間が許さない雰囲気はあるでしょう。

家族がその町に住めなくなり、転居することもあります。刑務所内でも、性犯罪者は周囲の囚人から辛く当たられると語る関係者もいいます。

加害者は遊び半分のときでさえ、被害者の心の傷はとても深くなるのが、性加害です。

その一方で、男女問題に絡む諸問題が出たとき、人びとの処罰感情は、その時々に変化するでしょう。

清純派アイドルの不倫報道は、大きく取り上げられ、日本中から大バッシングを受け、アイドルは仕事を失ったりもします。ところが、同じ不倫報道でも、ベテラン落語家だと、記者会見でも笑いが起き、大きなダメージを受けないときもあります。

日ごろ女性問題には鋭く意見を述べる人も、自分が支持す政治家の女性スキャンダル疑惑には妙に寛容だったりすることもあります。

泥棒や殺人とは異なり、性的行為は、それ自体が悪ではなく、双方が同意していれば問題がない行為というところが、対応を難しくしているでしょう。

■香川照之氏の擁護派が生まれる理由

香川照之氏の性加害報道が大きく出ているのに、批判だけでなく、擁護派も出てくるのは、なぜでしょうか。

もちろん、事実が不明な点はあります。それでも、「疑惑」だけでもバッシングが起こることも多いのに、今回は何が起きたのでしょう。

香川照之氏には、多くのファンがいること、見た目や役柄から無頼漢のイメージがあること、そして相手がホステスさんであること、これらのことから擁護する人々が表れるのでしょう。

週刊新潮の記事は、香川照之のワイセツ行為を報道しているのですが、記事を読むと、どこかユーモラスな表現をして茶化しているいるようにも私は感じました。そのことも、このニュースに関する社会的ムードに影響を与えているでしょう。

今回のことは、刑事事件にはなっておらず、香川氏が直接訴えられているわけでなく、すでに3年前の事件であることも、私たちの判断を迷わせるところでしょう。

心理学の研究(認知的不協和理論や原因帰属理論)によれば、人は自分の考えに合った情報を集め、自分の考えに沿った解釈をしてしまいます。自分の好きな俳優のネガティブな情報は、できれば聞きたくないのです(「私達は、自分が見たいように世界を見る:認知的不協和と原因帰属理論」:ヤフーニュース有料)。

ただ、多くの責任ある仕事をこなし、NHKで子供たちに昆虫の話もしている香川氏。報道が事実であれば、責任は、やはり重いと言わざるを得ません。

■被害者保護と全ての人の人権のために

ネット上では、このホステスさんを責める声も聞かれます。その意見に対して、「セカンドレイプだ」と批判する声も上がっています。

私達は、被害者を守らなければなりません。水商売の人だからといって男性の行為で傷つかないと思ってはいけません。

その一方、他の犯罪行為、違法行為や迷惑行為と比べて、男女問題、性的行為になると、正当な責任追及を越えた、社会的な私刑が行われてしまうこともあります。

どんな人にも、人権があります。もしも間違ったことをしてしまったならば、責任をとり反省し、必要な制裁も受けなくてはなりません。その上で、復帰への道を示すことが必要ではないでしょうか。

今回の報道が、どこまで大きな影響として広がるのか、まだわかりません。CM降板、違約金、トヨタの世界的不買運動といった声も聞かれますが、世論の動きと香川照之氏の対応次第かもしれません。

批判と同時に、多くのファンが待ってる。その批判を受け止め、期待に応えるのも、芸能人の社会的責任なのでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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