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自分が正しいと信じて攻撃してくる人の心理:夫婦げんかから国家間戦争まで:ウクライナの平和を祈りつつ

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:フランス、ノルマンジーの記念碑(写真:アフロ)

■争いが起きる時

争いが起きる時、人は自分が正しいと感じています。とはいえ、腰が低い人もいますし、素直に謝れる人もいます。一方で、自分の正しさを全く疑わず、強い主張、攻撃をしてくる人もいます。なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。

■自己正当化のもとになる「自己愛傾向」

自分を愛することは良いことです。自分は価値のある存在だと感じられることは、大切なことです。会社でも国家でも、自信と誇りを持つことは良いことでしょう。

愛社精神、愛校精神、郷土愛、愛国心。悪いことではありません。ただ、健康的な自己愛は(愛社精神、愛国心なども)、自分(たち)だけでなく、周囲の価値も感じられるものです。

自分(自分の会社や自分の国)を愛し、そして他の人(会社、国家)を尊重する態度です。

ところが、悪い意味の自己愛傾向は、自分は価値があるが周囲の人には価値がないと感じる傾向です。

さらに厄介なのは、自己愛傾向が強い人は、自信に満ち、エネルギッシュなのですが、自己中心的であり、しかも見た目とは違って本当の自信家ではなく、他者からの評価によって自己評価が簡単に揺らいでしまう不安定さを持っています。

このような自己愛傾向が強い人は、怒りを感じて攻撃するときに、自分は絶対悪くないと感じてしまうのです。自分の考えも行動も間違いないと正当化をするわけです。

■自己愛傾向が自分の正当化を強める2つの影響

自己愛傾向が、自分の正当化を強めるのには、二つの影響があります。

一つは、直接的な影響です。

自己愛傾向が強いと、自分は正しいと感じています。普通は、たとえ自分の考えや感情が正しいとしても、だからといって暴力や暴言を使ってはいけないと思うものです。「殴ったのは俺が悪かった」と。

ところが、自己愛傾向が強いと、普通なら非難されるような自分の行動も、正しいと感じてしまうのです。自分は特別な存在だから、怒鳴っても殴っても良いと感じるわけです。

もう一つは、間接的な影響です。

自己愛傾向が強いと、相手の態度への評価が歪みます。普通なら、常識の範囲内のクレームや、まあ許せるほどの小さな出来事も、ひどい侮辱、とんでもない出来事と感じます。

そのために、自分の怒りや攻撃も、正当なものだと感じてしまうのです。

■夫婦げんかからロシアによるウクライナ侵攻まで

赤の他人よりも、夫婦だからこそ激しく争うことがあります。国家間も、大体国境を接している国同士は対立します。全く違う文化の国よりも、文化的に近い国同士の方が争いになったりもします。

遠くの相手よりも、近くの相手の方が、いざこざのタネができますし、本当は一つになれるはずなのに裏切られたと感じることもあるでしょう。

本当はお互いに尊重できれば良いのですが、その余裕を失えば争いになります。

互いに自分が上だと思い、相手はもっと自分に敬意を示すべきだと感じれば、争いになります。

経済的な問題があるとか、為政者なら支持率が落ちているといったことも、余裕を失わせます。

ロシアのプーチン大統領も、年齢による健康不安や支持率の低下などで焦りがあるのではないかとも言われています。そうなると、対立する相手への不安や怒りを持ちやすくなります。

不安や怒りの感情は、相手に対する軽蔑と敵意につながり、感情の暴走を止めなければ、悲劇が生まれるのです(戦争と争いの心理学:認知、感情、信念:夫婦げんかから国際問題まで、なぜ争いは悪化するのか:Yahoo!ニュース個人有料)。

夫婦げんかから、高度に政治的な問題まで、その背景には人の心があるのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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