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悪を見た時、私たちはどうすべきか:タバコを注意した高校生に暴行?:トラブル防止のために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:今回の事件とは無関係(提供:AFRC_092/イメージマート)

■タバコを注意した男子生徒が顔の骨を折るなど重傷

「高校生に電車内での喫煙を注意されたことに腹を立て、殴る蹴るの暴行を加えた男が逮捕されました。~『相手がけんかを売ってきた。暴行したことは間違いない』~男子生徒の友人3人は暴行を止めようとしました。しかし、他の乗客たちは誰も止めようはせず、声も掛けなかったといいます」(テレビ朝日1/24Y!)。

被害者の一日も早いご快復を祈っています。

■悪を目の前にして

上記の事件の詳細は不明ですが、私たちも悪を目の前にすることはあります。悪は正さなければなりません。ただ同時に、トラブルも避けたいと思います。

時代劇なら、強い主人公が悪者をやっつけます。しかし現実は、いつも正義の味方が強いわけではありません(強かったとしても、相手にケガをさせたりすれば、私たちの心情とは逆に、正義の味方が法的責任を問われるかもしれません)。

■完璧な正義の味方になるのは難しい

勇気を持って、違法行為、ルール違反をしている人に向かっていく。素晴らしい称えられるべき、英雄的行為です。

ただし、できればトラブルは避けたいものです。世の中には、人間関係がとても上手な人いて、中学や高校でも、掃除や練習をさぼる人に、上手にアプローチできる子もいましたね。

街中でも、相手をギャフンと言わせて退散させられれば、一番良いでしょう。

ただ、いつもそうは上手くいきません。

■みんなで少しずつ正義の味方に

どんな勇者でも、たった一人で正義の味方になることは難しいでしょう。でも、みんなで少しずつ正義の味方になることはできるかもしれません。

誰かが、ごみをポイ捨てする。一人が正義の味方になって注意する。その一人になるのは難しいですし、ケンカになっても困ります。

でも、だからといってみんなで見て見ぬふりをしてしまうと、悪い行為はさらにエスカレートします。だから、雰囲気作りです。ポイ捨てした人が居心地が悪くなるような雰囲気作りはできるかもしれません。

子供のクラスでも、いじめっ子に一人で立ち向かうヒーローにはなれなくても、「いじめなんかダメだよ」という雰囲気をみんなで作り出すことはできるかもしれません。

■正義の味方のサポート役を

正しい注意を受けただけなのに、「バカにされた」「ケンカを売られた」と怒る人は、子供にも大人にもいます。

心理学的に言うと、彼らは認知が歪んでいて、他者からの行為を敵意だと感じやすいのです。あるいは、威張ってはいても自己肯定感が低いので、人前で否定されたりすると、逆ギレする人もいるでしょう。

だから、彼らと関わると、トラブルが発生しやすいのです。

正しいことを言っているのに相手から反発されると、こちらも感情的になってしまうこともあるででしょう。そうでなくても、相手が素直に言うことを聞いてくれない時は、やっかいです。トラブルも悪化します。

そんな時こそ、勇者にはなれないけれど善はしたいと思っているあなたの出番です。

「110番しますか」「駅員さん呼んできますか」。そんなふうに声をかけることができるかもしれません。言葉がけ自体で気が鎮まったり、暴力が防止できたりするかもしれません。

ヒートアップした人の間に入って、「まあ、まあ」となだめることができれば、最高です。時代劇なら、「そのケンカ、俺が買った!」とトラブルを仲裁する人も登場します。ただ21世紀の現代では仲裁役も難しでしょう。

物語とは違って、いつも正義の味方が強いわけではありません。被害が出る前に、正義の味方の方を引き離すことが必要なときもあるかもしれません。

トラブルになりそうなときは、距離を取るのが大原則です。たとえこちらが悪くなくても、とても悔しくてもです。

暴力を振るおうとしている人を後ろから羽交い絞めにして止めるのは法的にも許されるとは思いますが、自分がケガをしては困ります。誰がケガをしても大変です。

■私には何もできないか

ルール違反、マナー違反は、やめてもらいたいと思います。でも、正義の味方にもなれないし、そのサポート役にもなれないと思う人も多いでしょう。

「他の乗客たちは誰も止めようはせず、声も掛けなかったと」としても、簡単にその人たちを責めることはできません。

事故、火事、ケンカなどに、喜んで近づいていく人がいますが、危険です。そこから離れ、逃げることも大切です。

それでも私たちは、何もできないのではありません。いち早く現場から逃げて、誰かにトラブルを知らせることはできるかもしれません。

ただの傍観者になってはいけないと思います。いじめに関する研究によれば、見て見ぬふりをする傍観者の存在がいじめっ子の背中を押してしまいます。

一人ひとりが、自分のできることをしたいと思います。住みよい社会にするために。トラブルや被害を防止するために、何かできることはきっとあるでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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