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野々村真さん2回接種ワクチンデマ拡散はなぜ起きたか:命と社会を守るための情報と人間関係の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:様々なデマが飛びかうコロナ禍(提供:koni/イメージマート)

■野々村真 2回接種の噂を事務所が否定

タレントの野々村真さんが新型コロナに感染し、闘病中です。一日も早いご快復をお祈りしたいところですが、野々村さんに関して、不確かな情報がTwitterなどのネット上のSNSで飛びかっています。

「野々村さんは7月1日と22日にワクチンを接種していた」

「野々村さんはワクチンを2回接種したとテレビで言ったのに、その発言がなかったことにされている」

「野々村さんが2回ワクチン接種をしているのに感染し重症化したとなると、誰もワクチン注射をしなくなるので、政府やマスコミが隠蔽している」

報道によると、野々村さんの所属事務所は、ワクチン注射の事実を否定しいます。

「野々村はワクチン接種について、1回目の予約を入れておりましたが、接種前に新型コロナウイルスに感染したため、まだ接種ができておりません」(「女性自身」2021年9月7日号

また同誌によると、「本誌が確認したところ野々村がテレビでワクチン接種を明言した事実はなかった」ということです。

■ワクチンデマはなぜ広がったか

ワクチン接種が進む中での、まだ若い芸能人のコロナ感染、重症化。これは注目されます。様々な情報が出ます。

私も、「野々村真は実は2回ワクチン接種をしていた」という情報に触れました。そこで、こんなツイートをしました。

私が知った情報(デマ)は、「政府による隠蔽」でした。まだ確信はありませんでしたので、「~しないだろうなあ」とツイートしたわけです。「マスコミによる隠蔽」も同様です。

もしも本当に2回接種しているのに、意図的に政府や大手マスコミが隠蔽するとしたら、その事実を知っている関係者全員の口を封じ、野党とか夕刊紙や週刊誌も抑えなければなりません。これは、大ごとです。

すでに2回接種したけれど感染した人がいるというニュースも流れているのに、こんな大規模な隠蔽工作は、大変コストパフォーマンスが悪いだろうと思ったわけです。

ところが、「ワクチンは危険だ」「政府やマスコミは何かを隠している」と最初から思っていたら、どうでしょうか。このワクチンデマを聞いた時、「やっぱり!思った通りだ」と感じます。

そのように感じれば、すぐにこの大切な情報を拡散したいと思い、リツイートしていたでしょう。

■デマの発生と広がりの心理

災害級の出来事が起きるとき、デマ(流言飛語、誤情報)は、いつも発生します。

人は不安になると、不安な情報を集めるのです。大地震の時には、大きな余震が来るとか動物園からライオンが逃げたといった「恐怖デマ」が発生します。さらに感染症の場合は、恐怖デマに加えて、こうすれば感染しない、治るといった「希望デマ」も広がります。

最初はあいまいだった情報が、しだいに具体的になっていくのもよくあるパターンです。

「自衛隊の○○基地の隊員が大きな地鳴りを聞き、余震発生の情報を町に伝えようとしている」などと言う根も葉もないウワサが流れたこともありました。今回も、接種した日付とか、テレビで話していたという情報が加わると、デマなのに真実味が増します。

デマを作るのは簡単なのですが、否定するのは、時間と手間がかかります。誰かが確認作業をしている間に、誤情報が素早く広がります。

今回も野々村さんのケースでも、「テレビで接種したと言っていた」という誤情報を、私個人が確認して否定することをできません。

そして不安な時に、命に関わるような情報を知れば、人はすぐに飛びつきたくなり、人々に知らせたくなります。こうして、デマは広がっていくのです。

■新型コロナとデマ情報と私たち

新型コロナが猛威を振るっています。私たちの不安は高まり、浮き足立ち、疑心暗鬼が広がろうとししています。

当初から、赤十字などが指摘していました。「恐怖」という怪物に飲み込まれるなと。

ウイルス感染の広がり→不安→不確かな情報、疑心暗鬼、陰謀論、人々の分断→恐怖に飲み込まれる→過剰な防衛本能、偏見差別、混乱。

世の中には、私たちの想像や常識を超えた悪事を行う人もいます。権力者による陰謀もどこかにあると思います。様々な隠蔽工作もあるでしょう。しかし、それがいつどこで起きているのかは、わかりません。

その見えない陰に怯えて、不適切な情報発信、リツイートをしてしまえば、混乱が生まれます。

政府やマスコミの問題点を監視し、指摘するのは、市民の大切な役割です。健全な批判精神は、とても大切です。けれども、だからこそ、デマや誤情報に振り回されなようにしたいと思います。

感染拡大を防ぐためにも、よりよい社会づくりのためにも。

~~~~~~~~~

*報道によると野々村真さんは、快復に向かっているとのことです。

*社会心理学的には、デマは、意図的に流された誤情報で、意図的でないものは流言と言いますが、ここでは一般的な言葉の使い方に合わせて、あまり区別しませんでした。

人はなぜ嘘(流言・デマ・都市伝説)を信じてネットで拡散させるのか:ネットデマの心理学

<補足8/24.17:00>

ご紹介したツイートは、かえってデマを広げるものではなかったのかとの指摘をいただきました。そんなことはないと思います。

たとえば「ライオン逃げた」という情報を知ったとき、明確に否定できる情報をもっているなら、「ライオン逃げたは誤情報」と断言できます。しかし、その確証がないときには、「ライオン逃げた情報は怪しい」とか、警察発表などもないし「そんなことは、ないだろうなあ」といった表現しかできません。

これは、デマを広げるツイートではありません。デマをやわらかく否定するツイートです。一方、「ライオンが逃げたらしいよ」とか「よくわからないけど、ライオン逃げたっぽい」などとツイートすれば、これはデマ拡散のツイートになると思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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