人はなぜ男女差別をするのか:無意識の偏見の解決方法

写真はイメージ:男女平等はみんなの幸せなのに(提供:studiolaut/イメージマート)

東京オリンピック大会委員会会長であった森喜朗氏の「女性差別発言」「女性蔑視発言」。大きく問題視され、森さんは辞任することとなりました。この辞任には、74パーセントの人が適切だと考えています(ANN 2/14)。

現代社会では、言動が男女差別と判断されると、大きな非難を受けることになります。今回は、日本どころか世界からも批判が来ましたし、ネット上でも「#わきまえない女」など、活発な発言がありました。

それなのに、なぜか男女差別はなくなりません。不適切な言動は繰り返されます。どうしてそんなことになるのでしょうか。

今回の森氏発言問題は、各マスコミで大報道がなされました。こんなに男女差別問題が大きく取り上げられることは、そうはありません。ところが、男女差別の基本的な問題はなかなか語られません。

せっかく大きな話題になったのに、個人を責めるだけで終わるのはもったいないことです。この騒動を、男女差別問題解決への一歩にしたいと思います。

偏見差別は、決して悪い人、愚かな人だけの問題ではなく、また中高年者だけの問題でもありません。それは、私たちみんなの問題なのです。人間が抱える偏見差別の心理を解き明かし、問題解決への道を探りましょう。

■人は分けることが好き

人は、分類することが好きです。日本人・外国人、右翼・左翼、仲間・敵。そして人間が乳幼児期から意識する分類が、男と女です。人種も宗教もお金のことも理解できないころから、男の子女の子がいることを理解し、男の子、女の子として、育てられます。ベビー用品ですら、男は青、女は赤だったりします。

男女に分けるという考え方は、人間にとってかなり根源的な分類方法なのです。

■身内びいきからの男女差別

男女で分類し、自分は男であり女ではない、女であり男ではないと意識すれば、次に内集団バイアス(身内びいき)が起こります。アメリカ人と日本人がボクシングしているのを日本人が見れば日本人が勝っているように見え、アメリカ人が見ればアメリカ人が勝っているように見えます。

このような判断の偏りは、善人にもプロの人にも起きます。だから、アメリカの陪審員や、国際試合の審判などは、国籍や人種のバランスを取るのでしょう。

愛校心、愛社精神、郷土愛。自分が所属する団体を愛し、誇りを持つことは悪いことではありません。しかし、この身内びいきが他の集団への非難になってしまうと、相手への偏見差別が生まれてしまうのです。

■「女は〜」「男は〜」という見方

人間の認知、考え方の道すじには、2種類あると言われています(認知の二重過程理論)。一つが時間をかけない直感的な思考で、自動的で無意識です。もう一つが、時間をかけて冷静にじっくり判断する思考です。

人は普段は面倒な考え方を嫌います。人は「認知的倹約家」であり、できるだけシンプルに考えたいのです。

「女はおしゃべりだ」「男は気がきかない」。こんな言葉は日常的によく聞くでしょう。本当は、男でも女でも、人それぞれなのですが。

男女には違いがあります。差もあります。けれど、ほとんどのことは男女差よりも個人差の方が大きいのです。

男女の身長差はとても明確ですが、それですら、個人差が大きいのです。多くの男女差と言われるものは、差があったとしても平均値の微妙な差なのです。

■男性優位社会の中で生まれる男女差別

男女には違いがあります。ただ問題は、男性優位の社会では、男性の方が標準であり、男性の方が正しいとされやすいことです。

男性だけの会議と、男女の参加者がいる会議で、どちらが時間が長いかを調べたとしましょう。違いが出るかもしれません。しかし、どちらが良いのかは簡単に判断できません。

ただ男性は、男性のやり方が良いと感じることが多いでしょう。その男性の方が社会的に発言力があれば、彼の言葉が世に出ることになります。

男性が標準と考えてしまうのは、一部の男だけの問題ではありません。研究の世界でも男女差はよく検証されますが、気をつけないと、男性(標準的な人間)はこうだが、しかし女性は違うという見方をしかねません。

提供:tokumiyanuts/イメージマート

■女性の得意分野、不得意分野は?

「女性は数字に弱い」。よく聞く言葉ですが、科学的には間違いです。身長差とは異なり、数学の点数差は国によってまちまちであり、女性の方が点数が高い国もあります。

ただ、女性は数字に弱いと考えるている人は多いでしょう。ところが、女性は数字に弱いと考える人も、家計は妻に任せたりします。サークル活動の会計係は、女性が多かったりします。女性が数字に弱いなら、なぜそんな仕事を任せるのでしょう。

「女性は料理が得意」ともよく言われます。それなら、板前やシェフは女性向きの仕事ですね。ところがそうは思わない人も多くいます。

サークル活動の会計係や家庭の料理は女向けの仕事、会計士やシェフは男向けの仕事。そう思っている人もいるでしょう。これは、男女のどのような差を見て言っているのでしょう。

ある研究者によると、男性優位社会の中で、結局高収入につながりやすい仕事は男向き、収入につながらず面倒な仕事は女性向きと人々は考えやすいとされています。ひどい話です。

ただ、このような考えをする人々も、多くの場合は悪意はなく、無意識の中で起こります。無意識だからこそ、直しにくいのです。

■マイノリティーとしての男女差別

社会の中で、少数派の人々は偏見差別の対象になりやすい人です。たとえば、男だけの世界に女性が入れば、目立ちます。そこで何か悪いことが起こると、人はその目立つ特徴のせいだと感じます(原因帰属の歪みの一種)。「だから女は〜」というセリフも出るでしょう。

男性が少数なら「だから男は」と言われやすくなりますし、職場に少数の高齢者がいれば、「だから年寄りは」とか「老害」とか言われやすくなるでしょう。高齢者の集まりに少数の若者がいる場合も同様です。「だから近頃の若者は」と非難されることもあるでしょう。本当は、男女も年齢も関係なく、その人個人の問題、個人の失敗の時も、目立つマイノリティーの特徴のせいだとされやすいのです。

特に少数だった人が力を持ち始めたときには、不安を感じた多数派からの攻撃が増えるでしょう。それは、自分の利益が減る恐れであり、現状が変化していく不安の表れでもあるのです。女性の進出を喜ばない人や、「アメリカは白人の国だ!」と考える人のように。

■女性は素晴らしいという女性差別

女性差別には、「敵意的差別」と「好意的差別」があると言われています。敵意的差別とは、女性を侮辱し、攻撃し、排除しようとするような差別です。一方。好意的差別とはレディーファーストや女性を守ろうとする差別です。

レディーファーストは悪いことではなく、適切にできる男性は女性から良い評価をもらえるでしょう。

でもたとえば、「この仕事は精神的にきついから、女性社員には任せず男性社員に任せよう」というのは、どうでしょうか。それは、優しい笑顔から生まれることですが、男性社員には与えられた活躍と成長のチャンスを女性社員から奪うことかもしれません。

■男女差別を解消するために:下手にやると逆効果

まず、男女平等社会は素晴らしいという考え方を、世の中に広げましょう。そして、間違いを正し、男女差別は良くないと発言し、ルールや法律も整えましょう。

ただしやり方を間違えると、心理的反発(リアクタンス)、リバウンドが起きることがあります。やみくもに強く発言すれば良い訳ではないでしょう。

男女差別だと責められた人の多くは、「その意図はなかった」と弁明します。もちろん悪意がなければ良い訳ではなく、社会的悪影響や不快に感じた人々の存在を軽視してはいけません。

それでも、そんな発言をした人を天下の極悪人として徹底的に叩くようなことをしすぎると、反論したくなる人も出てきます。あなたが(あなたの家族や会社や国家が)、謝罪しているのに、それでもなお悪魔のように見られ続けたら、反発心がわいたり、相手への敵意や恐怖が生まれることもあるでしょう。差別とは大いに闘いましょう。そして上手に効果的に闘いましょう。

偏見差別の解消のためには、多様な人と交流し、冷静にじっくり考えることが必要です。アメリカ人は嫌いだ街から出ていけと思っていた人が、色々なアメリカ人と接して悪い先入観が薄れ、ストレオタイプ的な見方から解放されれば、差別的言動は減るでしょう。

ただ、単に交流すれば良い訳ではありません。下手な交流でケンカになれば逆効果です。できれば、互いに協力する共同作業ができると効果的でしょう。ただ、男女差別解消のための交流には問題もあります。

男性の中には、優秀な女性秘書、女性部下、優しい女性看護師、高級店の仲居さん、ウエイトレスさんなどから、サービスを受け続けている人もいます。このような女性との交流が増えるだけでは、無意識の女性差別心は改善されません。同じ立場の女性との交流を増やすことが必要です(これは、日本在住の外国人への偏見問題も同様でしょう)。

そして最後に、男も女も自分自身が偏見差別をする人間だと知りましょう。これは辛いことです。誰でも、自分は正しい善人だと思いたいものです。しかし、その思いの中に、無意識の偏見差別が忍びこみ育つのです。

偏見は、いつも本人は気づけず、事実だとしか思えません。差別は、している側は鈍感で、されている側は敏感です。

私もまた、何かに偏見を持ち、誰かを差別をしてしまう人間の一人です。

簡単にはなくならない偏見、男女差別。だからこそ、意識的に、一歩一歩進めていきましょう。今回の騒動も、そのきっかけの一つになりますように。そして、様々な違いを乗り越えた素晴らしい平和の祭典が開かれますように。

写真:アフロ

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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