手足3本失ってからの復活:美談に対して陰口悪口を言う人の心理

イラストはイメージ:心無い言葉に傷つく人もいる(提供:enra/イメージマート)

■手足3本を失った人の、どん底からの復活

先日、電車事故で手足3本を失ったサラリーマンが語る「どん底からの復活」という記事がヤフーニューストップページで紹介されました。

この人物は、体調不良のために駅のホームから線路に転落し、気が付いた時には、両足と右腕を失ってました。そして一度は人生をあきらめたものの、その後復活し、現在は力強く前向きに生きています。

■ヤフーコメント

上位に載っているヤフーコメントを見ると、次のような肯定的なコメントが並びます。

「その生命力の強さは社会をも元気にしてくれるでしょう。」

「涙が出ました。~ポジティブで大尊敬致します。」

「感銘を受けました。」

「彼を無条件に尊敬します!~この記事を読んで勇気をもらえました!」

私もそう思いますし、それが一般的な感想でしょう。

ただし、批判的なコメントもあります。

「絶望的すぎる。周りにも多大なる迷惑をかけるだろう。」

「お酒は怖いね~まず人の迷惑を考えるべき」

「自己管理不行届で親からもらった健康体をぶち壊した反省はないのかね?信じられんわ。」

記事を読むと、「夜には会社の飲み会があった。普段は酒好きの山田さんも、この日はなぜかまずく感じられ、飲むことができなかった。だが、~終電間際まで飲み会に付き合った」とありあります。大量飲酒したわけではなさそうです。

■ツイッター上での反応

この記事は人々の注目を集め、ツイッター上でも「手足3本」がトレンドにあがりました。

もちろん多くは、肯定的なツイートです。しかし、中には否定的なツイートも目立ちます。

「酒によって電車に轢かれて手足3本失った話が美談になる時代って最悪なのでは?」

「酒に酔っ払って勝手に線路落ちただけの迷惑男だぞ」

そんなツイートに対する次のような批判のツイートもあります。

「手足3本とか言う不穏なトレンド覗いたら、内容そのものよりも『美談にするな』とか『死ねばよかった』とか私刑加えたい人間多過ぎてそっちの方が怖かった」

■美談や感動話に反発する人々の心理

みんなと同じ言動をとるのは嫌だと感じる人がいます。みんながほめていればけなしたくなるし、みんながけなしていると逆にほめたくなることもあるでしょう。

また、どんなことにも、良い面だけということはありません。この記事で紹介されている男性も、自分の不注意を反省する内容も、ご自分のページでは述べています。

全ての面を同じ重さで扱っては、記事にならないでしょう。今回は、事故のことではなく、事故後の人生に焦点を合わせています。決して事故のことを無視しているわけではないのですが、それでも不快に思う人もいます。

確かに、報道によっては美談だけにしてはいけない内容もあるでしょう。隠された事実の究明が求められることもあります。しかし、美談や感動的な話にしても良い記事もあるでしょう。

それでも不快に思う人はいます。人がほめられている時、それを不快に思う人はいます。いえ、誰もがそんな心を少しは持っているでしょう。それでも多くの場合は、すごい人だ、立派な人だと思えます。

それにも関わらず、誰かがほめられると、まるで自分の価値が下げられたように感じてしまう人がいます。そうなると、なんとかその人を引きずり下ろしたくなります。陰口、悪口を言いたくなるのです。

成績で一番を取った人に対して、勉強はできても性格は悪いと言ってみたり、ビジネスで大成功した人に頭が悪いと言ってみたりしたくなるのです。

誰かを引き下げないと、自分の存在感が揺らいでしまうからです。

誰かが立派なことをしているのをそのまま認めてしまうと、立派なことをしていない自分が辛くなります。寄付やボランティアをしている人には、偽善者だなどとも言いたくなります。

このようなことは、特に日本で目立つような気がします。人命救助で警察に表彰されたような人も、マスコミに顔や名前が出ると嫌がらせ来るようになり、世間に出ることを怖がるようになってしまう人もいます。

以前であれば、嫌がらせの電話が来るところですが、現在だとそれに加えてネットでの否定的発言もあるでしょう。

■私たちの社会

日本は、和を重んじる社会でしょう。アメリカ的にヒーローを絶賛するよりも、みんなで協力して事を成し遂げる方が良いと感じる人々もいます。それも悪いことではありませんが、スポットライトが当たっている人に泥を投げつけることもないでしょう。

そんな事をしても、自分の価値は高まりません。

記事で紹介されている男性は、素晴らしい努力をしている人ですが、私はこの人だけが特別な人ではないと思います。今回はたまたま記事に取り上げられましたが、大きな困難を乗り越えて頑張っている人はたくさんいます。

障害を持って成功している人を特別な人と見てしまうと、だから自分にはできないと思ってしまいます。それではもったいないと思うのです。

身体障害はわかりやすいハンデですが、私たちはみんなそれぞれの問題と戦いながら、チャレンジしています。どんな状況の誰であれ、チャレンジャーはみんな素晴らしいと思います。

メディアに紹介されてもされなくても、目立っても目立たなくても、みんなが特別な存在です。そう思えると、人の足を引っ張らなくても済むかもしれません。

建設的な批判精神はとても良いことですが、やっかみや、嫌がらせになってしまうと、誰にとっても良くないことになるでしょう。誰かの成功を見て悔しいと思うことはありますが、その心を自分のチャレンジ精神につなげていきたいと思います。

みんなが自分なりのチャレンジを行い、互いに認め合うことができたなら、それはきっと素敵な社会になることでしょう。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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