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検温はバイキン扱いではない:コロナとの心の戦い、検温中止と新ルールとの付き合い方

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:世界各地に広がる検温(写真:ロイター/アフロ)

■ 岡山県が来県者への検温中止 「職員に危害加える」と多数の電話

日本各地で、世界の各地で、「検温」が始まっています。でも、トラブルも起きています。

 新型コロナウイルスの感染防止対策で、岡山県は〜予定していた来県者への検温実施について、「検温現場での県職員に危害を加えるといった内容の電話が多数入っている」として、一転して中止する方針を明らかにした。

出典:岡山県が来県者への検温中止 「職員に危害加える」と多数の電話 4/28中國新聞Y!

岡山の山陽道PAで実施予定だった検温が中止になりました。

このヤフー記事にはたくさんのヤフーコメントが寄せられていますが、多くはお怒りのコメントです。

そんな電話は脅迫だ、犯罪だ、逮捕しろ、県が屈服してはいけない、警察に警備してもらえなど、勇ましい投稿が続きます。

一方、検温される側の言い分もあります。

〜強制力はなく、帰省や観光に伴う移動自粛を求める狙いがあったが、「現場に行って妨害する」「関西の人を病原菌扱いするのか」などの電話やメールが約50件あったという。

出典:「関西人を病原菌扱いか」「妨害する」岡山県に電話やメール、高速道PAで予定の検温中止:4/28読売新聞

バイキン扱いされたら不愉快なのもわかります。

今回の出来事の背景に関する報道もあります。

伊原木知事は今月24日の会見で、「まずいところに来たと後悔してもらえれば」と述べるなど、感染拡大が続く関西などからの訪問を拒否する強いメッセージを繰り返し発信していました。〜

伊原木知事は28日の会見で、「感染拡大を食い止めたいという強い思いから発信してきたが、私の表現がつたなかったため多くの方に不快な思いをさせてしまい、おわびしたい」と述べ〜

出典:岡山の山陽道PAでの検温中止に “脅迫” 相次ぎ 新型コロナ:4/28 NHK

検温自体が間違っていたとは言っていませんが、表現に不適切な部分があったとおわびしています。

■各地の検温

昨日4/27の報道によれば、駅や空港などでの検温は、12の道県で実施または予定されています。「地方の強い危機感」があるとの報道もあります。

ただし、いずれも法的な強制力はありません。

県境だけでなく、離島に入る際に法に基づく約款による検温も実施されています。

たとえば、新潟市から佐渡島に行く時には、今は検温が必要です。佐渡は今日4/28現在、感染者を一人も出していません。

佐渡行きの船を運行している佐渡汽船のホームページには、次のように書かれています。

【サーモグラフィによる検温及び健康チェックの実施について】

〜ご乗船前にサーモグラフィによる検温チェック並びに健康チェックを実施させていただきます。37.5℃以上の体温があり、新型コロナウイルス感染症の所見がある方は、海上運送法に基づく当社「運送約款(旅客運送部 第2章第3条)」により、ご乗船をお断りさせていただく場合があります。また、検温並びに健康チェックにご協力いただけない場合は、ご乗船をお断わりさせていただきます。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、何卒ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

実際に船の乗り場に行くと同様の張り紙があり、文章を読むといかめしく、ちょっと緊張感もあります。

しかしそこには、笑顔のスタッフがいて、サーモグラフィーによる検温も、一瞬立ち止まるだけ。数メートル離れた場所から計ります。

トラブルが起きているようには見えませんでした。多くの検温場所も、同じような雰囲気でしょう。佐渡の人々が、本州の人間を嫌っているようなことは、決してありません。

また様々な建物に入るときにも、健康チェックや検温が増えています。外からの来館者には全員に体温計による検温をお願いしているところもあります。

少し面倒ではありますが、互いに礼節を失わなければ、何の問題も起きません。

今回の岡山のトラブルは、「関西の人間が病原菌扱いされた」と受け取られてしまったことが問題だったのでしょう。

■コロナによる新しい常識、ルール、マナー

まだ、誰も出会ったことのない新しいウイルスの登場です。日本も世界も、近代社会では経験がない感染拡大が起きました。

不安が高まる中、私たちは今、緊急事態宣言下の新しい社会の常識、マナー、ルールを作ろうとしています。

手を洗え、顔に触るな、距離を取れ。

あなたの顔を触るな:コロナ感染拡大を防ぐための行動科学

これが基本でしょう。でも新しいことですから、専門家も、政治家も、現場の人間も、何が本当の正解かはわかりません。混乱は当然です。

携帯電話が普及し始めた時も、ルールやマナーができるまで、時間はかかりました。

新型コロナ対策では「3密」はだめだと言われています。しかしどの程度なら良いのか、よくわからない時があります。マスクについても同様です。専門家でも意見の食い違いはあります。

銀行にマスクなしで入った客を追い出して、後で銀行側からの謝罪になったこともありました。

父親が長距離トラックの運転手で東京に行き来していたために、子供が入学式に出られなかったこともありました。これも、学校は謝罪です。

外出自粛だけれど、公園は良い。でも、混んでいる公園はだめです。誰もいない海岸を散歩するのは良いのでしょうが、サーファーがたくさん訪れ、道が渋滞するようなことは迷惑です。

スーパーで、俺に近づくなとどなり声をあげる人がいます。お釣りを直接手渡したら、激高した客もいます。ギスギスした雰囲気の中、スーパーに行くのを怖がっている主婦もいます。

怒鳴らずに、穏やかに言えれば良いのですが。

社会的距離を保つように感じ良くお願いする方法

電車やバスでも、席が空いているけれども、すぐ隣に座って良いのか、空けておくべきなのか、迷います。

まだルールもマナーも未確定なら、少しずつ様子を見ながら、進めていくしかありません。感染拡大の状況によって、変化もするでしょう。

何が正解かはわからないまま、それでも何かを決めて、何かを発言し、何かを実行しなくてはなりません。基本は、決められたことには従うことだと思います。何事も、全員の賛成は得られません。

もちろん、コロナだといえば何でも許されるわけではありません。法律もなしに全員に強いることはできません。

油断もいけませんが、自由や人権がいくらでも侵害されてよいわけがありません。

しかしそれでも、混乱の中で奮闘している現場に、私たちは協力しましょう。感染拡大防止のためには、非難合戦や相互不信や、ましてや攻撃や暴力や脅しは逆効果です。

検温自体は、本来簡単なことだったのではないでしょうか。

議論は必要です。人とは距離を取りましょう。感染拡大を防ぎましょう。でもだからこそ、心が離れてはいけません。

コロナとの戦いは、医療の戦いだけではなく、私たちの心の戦いなのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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