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新型コロナウイルス感染を防ぐための最も効果的なマスクの使い方:買い占めで涙を流している人のために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:やたらとマスクを触るのは感染の危険性を高める?)(写真:アフロ)

■都知事は、新型コロナウイルス感染防止で「首都封鎖」もあり得ると。オーバーシュートを防がなければ!

都知事の発言「首都封鎖」は、インパクトのある言葉です。東京オリンピックも延期の可能性が大きくなりはじました。

感染のオーバーシュート(感染者の爆発的増加)を防がなくてはなりません。

そのためには、マスクをどのように使ったら良いのでしょうか。

■新型コロナウイルス感染防止のための最も効果的なマスクの使い方

感染症の素人の私ではなく、専門家、プロが、こう言っています。

「感染症の拡大の効果的な予防には、風邪や感染症の疑いがある人たちに使ってもらうことが何より重要です」(厚生労働省「マスクについてのお願い」)。

つまり、症状もない健康な人が予防のためにマスクを使うよりも、咳やくしゃみの症状のある人に使ってもらうことこそが、「何より重要」になるわけです。

マスク不足が続く現状で、このアドバイスは重要です。

たしかに今や、世界中の人が誰でも、たとえ症状がなくても、新型コロナウイルスに感染している「可能性」はあります。その可能性は0ではありません。

そうだとすれば、みんなが「疑い」があるのだから、みんながマスクを買って使用する必要があるでしょうか。いえ、それは、違います。

たとえば、私がある殺人事件の犯人である「可能性」は0ではないかもしれません。明白なアリバイがなければ、「疑い0」ではありません。

しかし、私も含めアリバイのない人全員を、刑事さんたちは「疑いがある」とは言いません。容疑者ではありません。可能性は0ではないといっても、日本中の何千万人に同じような捜査をしていたら、刑事さんが何人いても足りませんし、それでは真犯人を逮捕できません。

いろいろ総合的に考えて、疑いの容疑者(被疑者)をあぶり出し、捜査を進めることになります。被疑者の絞り込みが、犯人逮捕のためには必要です。

何の症状もなくても、新型コロナウイルス感染の可能性はありますが、その人たちにマスクを使うよりも、症状があって感染の疑いのある人たちにマスクを使ってもらった方が、感染を防げます。

専門家によると、無症状の人も、感染していればウイルスを持っているそうです。ただ咳やくしゃみがなければ、周囲の人に次々感染を広げていくようなことは少ないとのことです。

正しい言い方をしようとすると、このように少しめんどくさい表現になります。そうすると、「やっぱりウイルスはあるのだな!」「少ないと言っても、危険は0ではないのだな!」と反論されることもあります。

その通りなのですが、限られたマスクや医療や刑事さんを、どこに向けるのが「最も効果的」「何より大切」なのか、ということです。

マスクの使い方として、感染防止に最も効果的で、何より重要なのは、症状のある人にマスクをしてもらうことです。

症状のない人のマスク使用の必要性は少ないというのは、日本の厚労省だけでなく、WHOも同様に述べています。

WHOの言葉を信じないのはなぜ?:「新型コロナ感染予防にマスク着用不要」:私たちとヤフコメ民と情報

ちなみに、プロがマスクを使うときは、非常に気を使って使用して、素人のようにやたらとマスクを触ったりしないようですね。

新型コロナ感染拡大 「マスクや手袋では防げない」専門家ら指摘:時事通信3/18>

記事によれば、正しいマスクの使い方は、最初に入念に手を洗い、気密性を確保し、いったん着用したら触れないようにする。ということです。普通の人にはなかなかできません。

■それでもやっぱりマスクは必要?

専門家でも意見が分かれるとことがあるのは、やっかいです。

予防のためにもマスクをするにこしたことはないと語る医師もいます。そのような面も、あると思います。

しかし大事なのは、優先順位です。マスクによる感染症予防効果は、0ではなくても、低いのです。

自分たちの町で感染の広がりを防がなくてはならない。残念ながらマスクは不足している。では、まず誰からマスクをしてもらうのが、最も効果的か。

その答えは、症状のある人からマスクをしてもらう、でしょう。

余裕が出てきたら、予防のためなど、様々な人がマスクを買って使うのも、もちろん良いことです。

■マスクを必要としている人々

国も様々な工夫をしていますが、まだ医療や福祉の現場でもマスク不足が続いています。病院や福祉施設では、新型コロナウイルス予防のためだけではなくマスクが必要です。

「1週間に1枚」マスク不足深刻 京都の病院、他の感染症リスク懸念:京都新聞3/23>

花粉症の人もマスクが必要でしょう。

もしも家族に新型コロナ肺炎の患者が出て、家庭内の看病が必要となれば、その家庭にもマスクが必要です。

花粉症や新型コロナウイルスだけではなく、様々な病気で、切実にマスクを必要としている人もいます。

このような状況ですから、何でもない人もマスクが欲しいと思う人はいるでしょう。でも、優先順位はあると思います。

まずは、本当に必要としている人に、マスクが行き渡るようにしたいと思います。

現在のマスクの必要性の中には、「マナーとしてマスク」もあるでしょう。普段ならマスクをしたまま人と話す方が失礼ですが、今は違うかもしれません。

自分は必要とは思っていないのだが、マスクなしだと、相手が嫌がるかもしれないと思えば、マスクが必要になります。

ごもっともな話です。でもこれも、優先順位の問題でしょう。マナーよりも、切実に必要としてい人々が優先ではないでしょうか。

■マスクを買い続ける人

店舗では、マスクはお一人様ひとつまでといった制限をしています。でもある人々は、各店舗を周り、入荷日時をチェックします。そして入荷時間に各店舗行って、マスクの大量購入を続けています。

毎朝同じ人がお店の前に並んでいるという話も聞きます。

それぞれの事情があって、切実な必要性があって、必死になっている方もいるでしょう。しかしすでに自宅に大量の買いだめがあるのに、大量購入を続けている人がいます。

マスクを1億枚作っても、10億枚作っても、人々の異常な大量購入が止まらないと、マスク不足は解消しません。

もちろん、それでもケースバイケースです。ある放送局では、来局者皆さん用のマスクを玄関に置いてありました。番組スタッフが感染したら、番組が続けられなくなるからです。来局者の中には、症状があってもマスクをしてこなかった人がいる可能性があるからです。

こんな例を出すと、「マスコミは勝手だ」と言う人もいるかもしれません。でも、医療を守ることが大切なように新聞や放送を守ることも大切です。新聞やテレビが休止してしまったら、その不安に私たちは耐えられるでしょうか。

それに、こんな話も聞いたことがあります。大地震が発生して、すぐさまある放送局の中継車が被災地へ向け出発しした。スタッフが乗り込み、そしてありたっけの支援物資を中継車に詰めるだけ詰め込んで。

■強者は弱者への思いやりを

泣いている人たちがいます。

高齢の女性が空になった棚の前で立ち尽くす様子が捉えられた。〜「缶詰が置いてあるはずの通路。女性は涙を流していたようだ。これは自己を優先する、不必要なパニック買いの煽りを受け、苦しむ女性を捉えた1枚だ。」

出典:「買いだめは止めて!」商品がほとんどないスーパーで涙する高齢女性の写真が拡散(豪):テックインサイト3/23

「買い占めはやめて!」 48時間勤務の看護師、食べ物を確保できず涙の訴え:BBC3/23>

これらの記事は、マスクのことではありませんが、強者が買いあさってしまった後で、泣いている弱者がいることを示しています。

このようなことは、感染症の時だけでなく、地震など様々な災害で発生します。本当に大変な被災地では分け合っているのに、その周辺の大都会で買い占め買いだめによる品不足が起こることもあります。

大量買いをしている人たちの動機は、多くの場合は家族愛だと思います。ご本人やご家族の不安も高いので、つい必要以上に買ってしまうのでしょう。普段なら、それも悪くはありません。

しかし、素早く動いて買い物ができる人は、情報を持っていたり、判断が早かったり、お金や時間がある「強者」です。そうではない「弱者」は、買い物ができなくなります。

日本の主婦の皆さんの中にも、マスクや消毒液や、少し前ならトイレットペーパーなど、思うような買い物ができずに自分を責めている人もいます。涙が出てくると辛そうに語る人もいます。

マスクでも、他の生活必需品でも、奪い合えば足りなくなります。ゆずり合えば、足りるのに。

朝から店に並ぶ時間なんかない、素早く動ける体力のある家族なんかいない、お金もないし、助けてくれる親戚もいない。そんな人はどうしたら良いのでしょうか。

そのような人が、症状が出ているのに、マスクをしないでいることは、地域全体の感染の危険性を強めることになります。

パニックは、自分だけが助かろうとする心と行動から生まれます。パニックの発生は、危険性をさらに高めてしまいます。

新型コロナウイルスの感染を防ぐために最も効果的なマスクの使い方は、症状のあるマスクな必要な人にマスクを渡すことです。

*4/4補足:「結局マスクは必要なのか:パニック買いの心理と新型コロナとの戦い方

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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