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WHOの言葉を信じないのはなぜ?:「新型コロナ感染予防にマスク着用不要」:私たちとヤフコメ民と情報

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:2月28日のロナウイルスの状況に関する記者会見(写真:ロイター/アフロ)

<不安はわかる。建設的な批判は歓迎。でも、必要な人にマスクを届けられるために、正しい情報を広げたい。>

■感染予防にマスク着用不要 過度の使用控えてとWHO

各地でマスクが不足する中、世界保健機関(WHO)からの呼びかけがありました。

世界保健機関(WHO)〜せきやくしゃみといった症状がない人は予防目的で学校や駅、商業施設など公共の場でマスクを着用する必要はないとして、供給不足に拍車を掛けないためにも過度の使用を控えるよう呼び掛けた。〜「マスクをしていないからといって、感染の可能性が必ずしも上がるわけではない」と強調。

出典:感染予防にマスク着用不要 過度の使用控えてとWHO:共同通信3/1Y!

あなたは、納得しますか?

そうは言っても不安だという人もいるでしょう。

全く信用できないという人もいるでしょう。

(WHOは中国に忖度しているのではないかという話が、信頼性を下げた面もありますが。)

ネット上ではどうでしょうか

■WHOなんて、信用できない!:ヤフーコメントの声

この記事のヤフーコメントには、「マスクは基本的に予防効果はないらしい」「インフルエンザに関してはマスクをした方が罹患率が上がったというデータもあります」というコメントもありますが、多くは否定的コメントです。

「絶対に有効だよ」

「万が一に備えてマスクを手放すことはできない」

「WHOはどこかの回し者」

「WHOは場当たり的でいいかげん」

「WHOはバカか?」

「しないよりした方が良いに決まってる」

「WHOがこれを言ってはダメ」

「マスクはあった方がいい」

「WHOは新型ウイルスを拡散させることが目的」

「マスクを着用することは最低限のマナー」

「マスクをしないように呼びかける意味がわかない」

「WHOの言う事を信用して従ったら危ない」

「ブレブレのWHOのことを信用してない」

「明らかに嘘だ。マスク不足を誤魔化すためだろう」

「もう誰も信じられない」

■みんなが不安だから

この記事にオーサーコメントをしました。

ヤフコメを見ると、私たちが今とても不安になっていることがよくわかります。WHOの言葉も信じられません。実は、毎年のインフルエンザの時から、マスクは予防上の効果は薄いと言われてはいたのですが。

「薄いと言っても0ではないだろう」「マスクをするに越したことはない」というご意見もごもっともです。何事も、絶対とか、0とか100は、ありません。

誰だって病気になりたくないし、人に移したくもありません。そのためには、限りある物資(マスクや検査機器など)を、必要な時に、必要なところで使用する必要があるでしょう。

それが、社会を守り、個人や各家庭を守ることにつながります。

今、一部の人による大量買いのために、マスクが不足しています。本当に必要なところまで、不足し始めています。だから、必要が低い人々の大量買いを止めなくてはなりません。そのために役立つ正しい情報発信は、大切なことではないでしょうか。

■不安な時は行動したくなる

恐怖は対象がはっきりしていますが、不安は対象がはっきりしてません。何となく不安なのです。だから不安は簡単には消えません。

多くの人は思うでしょう。WHOを信用しないわけではない、予防効果が薄いのも、わからなくはない。でも、不安だと。みなさんが、マスクはやっぱり必要だと感じても、無理はありません。

けれども、不安が抑えられないまま、一部の人たちが異常な大量購入を続けている間は、マスク不足は解消しません。

必要性の低い家庭に1年分のマスクがあるのに、病院や高齢者施設、咳が出ている人やある種の病気でマスクが手放せない人、重い花粉症の人など、本当にマスクが必要な人たちに、マスクが行き渡らなくなっています。

不安解消のためにマスクを買うのではなく、必要だからマスクを買うようにしないといけないでしょう(健康的な不安と緊張の持ち方:新型コロナウイルスに心が負けない方法:Yahoo!ニュース個人有料)

■「ヤフコメ民」の発想?

ヤフーニュースの記事下にあるヤフーコメント(ヤフコメ)の中には、時に非常に専門性の高い優れたコメントがあります。また、当事者側からの心に迫る感動的なコメントもあります。

その一方、コメントが荒れたり、他の人々から批判されることもあります。

調査によれば、ヤフコメントをする人々(通称ヤフコメ民)の中でも、実は2%の人が多くのコメントを投稿し、コメントの半数はこの2%の人によるといいます。この2%の人が極端な発言をすると、コメント全体がその雰囲気に包まれるわけです。

だから、ヤフーコメントの流れを見て、それが国民全体の意見と思っては間違いでしょうし、ヤフーコメント利用者みんなの意見と思っても、いけないでしょう。

しかし実際にヤフコメがある色に染まると、それがみんななの意見だと感じてしまう人々が現れます。そうなると、実際の世論が影響を受けたり、人々の行動に影響を与えることにもなるでしょう。

ヤフコメのハードユーザーは、情報強者だと思います。情報に強いだけに、世間の思い込み、一般に流れている間違った情報に気づくこともあります。マスコミ批判も厳しいですね。

一部の教科書にも載ってしまった「江戸しぐさ」の誤りに気づき、批判的発言をしている人もいます。

以前書いた記事「「江戸しぐさ」はやめましょう。:何が問題か。なぜ広がったか」も、今だに反響があります。

その一方で、情報強者は誤情報にも惑わされやすいという研究もあります。知的な情報強者だからこそ、陰謀論を信じてしまう人もいます。

フリーメーソン陰謀論の心理:テンプル騎士団、薔薇十字団、イルミナティ、都市伝説を信じる理由と危険性

冷静なWHO批判は良いのですが、今回の指針内容を全面否定したり、WHOをまるで悪の組織のように見てしまうのも、正しい判断の妨げになるでしょう。

情報強者のみなさんには、ぜひ正しい情報発信をお願いしたいと思います。

■新型コロナウイルスとマスクと情報

未知のウイルスの登場です。専門家にもわからないことがあります。用心は必要です。

日本人はマスクが好きで、特にこの季節は以前からマスクをしている人が目立ちます。でも、今は危機的状況です。まずは必要性の高いところから、マスクを届けましょう。

マスクは、本来は十分にあるはずです。人々の転売や非常識な大量購入さえ収まれば、みんなに行き渡るはずです。危機の時ほど、危険をさらに広げかねない情報拡散に注意しなければなりません。

情報は力です。感染予防のための正しい知識と行動(知的ワクチン)が求められています。

知的ワクチンを打とう:新型コロナウイルス肺炎の感染予防とリスク・コミュニケーションの心理学

*4/4補足:「結局マスクは必要なのか:パニック買いの心理と新型コロナとの戦い方

*4/8補足:<「みんなでマスク」の問題点:コロナ感染予防に効果的か、泣いている人はいないか

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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