京都アニメーション放火殺人事件の犯罪心理学:Pray For Kyoani

京都アニメーションのスタジオで火災(写真:ロイター/アフロ)

■京都アニメ会社火災、死者34人 平成以降最悪

多くの人が衝撃を受けました。ファンでも、ファンでない人も。

7月18日、アニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ)で火災が発生しました。亡くなった方は34名。警察庁によると、放火事件の犠牲者数としては平成以降、最悪と報道されています。

報道によれば、さいたま市の男(41)がその場で身柄を確保され、20日逮捕状が出ました。男は40リットルの携行缶にガソリンを入れて持ち込み、床にまいて火をつけたとされています。

「死ね」「パクりやがって」と叫びながら放火したとの目撃情報もあり、放火・殺人事件として捜査が始まっています。

一部報道によると、男にはコンビニ強盗未遂で逮捕暦あり、また騒音問題などで近隣住民との間でたびたびトラブルが発生していたとも伝えられています。また報道によれば、「小説を盗んだからやった」と叫んでいたようですが、小説を投稿したなどの事実はないようです(アニメ会社放火 男が会社に一方的に恨み募らせた可能性も:NHK) 。

■放火と殺人と放火殺人

放火犯罪は年間3000件ほど発生し、殺人も1000件近く起きています。けれども、殺人を目的とした放火殺人は少数です。それだけに、放火殺人は残虐さを感じさせ、私たちの心を苦しめます。

今回は、被害者の数が多かったことと、動機の不明確さ、そしてアニメ作品を通して世界のファンとつながっていたことが、さらに悲しみを大きくしています。

一般的な放火犯罪の動機は、次のようなものがあります。

1 報復、恨み、嫉妬、憤怒、復讐

人間関係のトラブルが、放火の大きな動機です。

2 権威への挑戦、英雄志向

その人にとって、大きくな存在、自分を押しつぶすような悪と感じるものへの放火です。

4 犯罪隠匿

自分が犯した別の犯罪を隠すために火をつけることがあります。

5 利得目的

保険金目当てだったり、放火すれば嫌なテストを受けないで済むといった動機。火事の第一発見者になりたいとか、火事の写真をネットに投稿して注目を集めるために放火するといった事件も起きています。

6 脅迫、テロ

「言うことを聞かないと家に火をつけるぞ」という脅しの実行です。思想的なテロ行為としての爆破、放火もあります。暴力的な力の行使としての放火です。

7 放火癖

火をつけること事態に快感を感じ、癖になってしまったように繰り返す放火です。スッとする。ワクワクするという犯人もいます。

面白がって火をつける人は、巧みに逮捕を逃れ連続放火を狙います。特定の家を狙う場合は、怒りや恨みの動機が多いのですが、自分の犯行が発覚しないように努力するでしょう。

近年の放火犯罪では、特定の建物を狙っているとはいえ、その人々への直接の怒り恨みだけではなく、社会全体への漠然とした怒りや恨みが背景にあることも多くなっています。

■大量殺人の動機

一度に大勢の殺害を考える大量殺人者は、自分の犯行を隠しません。白昼堂々、大勢の目の前で、顔も隠さず犯行に及びます。犯行計画は緻密でも、逃亡計画はほとんど立てていません。

自分の人生さえ捨てているので、大胆で残虐なことをしてしまうのです。犯人は孤独と絶望感に押しつぶされ、大勢を殺して自分も死ぬと考えもします。

■理解できる動機、できない動機

犯行動機の怒りや恨みは、行為は認められなくても、気持ちは理解でき共感できることはあります。一方、理解はできても共感はできにないこともあります。さらに理解も共感もできないこともあります。

■理解できない動機と責任能力

根拠もなく、理解できない動機を語る場合に、何らかの精神疾患が潜んでいることもあります(精神疾患の患者が危険ということはありません。統計的に見れば、心の病気の人よりも酔っている人の方が危険です)。

精神疾患にも様々な種類と重さがあります。精神的に健康な状態ではないからといって、すぐに心神喪失、責任能力なしと判断されるわけではありません。

また一方、ある程度理性的な行動ができていれば責任能力は完璧というわけでもありません。たとえば、自分は天皇陛下の子供だと思い込み、地方から新幹線で皇居にやってきて無理に入り込もうとすれば、警察に捕まるでしょう。普通なら「逮捕」でしょうが、「訳のわからない話をしている」ということならば「保護」されて精神科的治療の対象です。一人で旅行できる理性があっても、刑事罰は受けないことはあるでしょう。

妄想性障害などで被害感を持つ人は大勢いますが、ほとんどは犯罪を犯しません。これまでも、殺人等の重罪犯が妄想性障害とされても、一般的には責任能力があると判断されることが多かったと思います。

心の病の人を支えたいと思いますが、同時に、心神喪失の乱用は防がなくてはなりません。

■近隣トラブル

近所トラブルは、全国で起きています。乱暴や非常識、環境の問題もありますが、背景に精神的疾患が潜んでいることもあります。たとえば、妄想性障害のために、近所が自分を攻撃している被害妄想が起こりトラブることもあります。

また、同じ大きさの生活音でも、人間関係が良ければ気にならず、人間関係が薄いと不快な騒音と感じやすくなるものです。

人は、自分が周囲から受け入れられていないと感じると、攻撃的になりやすくなります。人間関係から断絶され無為に過ごす時間が増えると、精神的な症状が悪化し、さらに社会と上手くいかなくなる悪循環に入り込んでしまいます。

近所にとっては本当に迷惑な人ですが、何とかしなければなりません。法律も警察力も大切ですが、社会全体の総合力が問われています。近隣の平穏な生活を守るためにも、さらに大きな犯行に繋げないためにも。

希望を失い、孤独で、被害者意識が強く、力への憧れと非常に歪んだ正義感や病理性が、凶悪犯罪を生みます。「殺意を持っている人に、それを実行させる方法は、誰も彼に話しかけないことだ」と語る犯罪心理学者もいます。

■PrayForKyoani

今回の事件は、世界中に悲しみと支援の輪が広がっています。

#PrayForKyoaniのハッシュタグが世界各地のSNSで数多く使われています。

東日本大震災発生時の、Pray For Japanを思い出させます。あのとき、日本は世界の祈りに包まれました。

京都アニメーションに個人的な知り合いがいなくても、作品を通して、世界とつながっています。消失面積とか、死傷者の単なる数字ではなく、嘆き悲しむ人々、祈る人々を通して、私達はその悲惨さを深く知ります。

祈ることはただの気休めでしょうか。そんなことはありません。真実の祈りは行動を伴い、真実の行動は祈りを伴います。各自が各場所で自分のできることをするでしょう。それが、Pray For ○○ です。世界からの支援金は、すでに1億8,000万円を超えました。

そして実証的な研究によれば、祈られている人の病気や怪我の治りは早いのです。

犯罪において、犯人逮捕と適正な処罰は大切です。人々が犯人を憎むのも当然です。けれども、憎しみのあまり我を忘れてしまっては、犯罪者の思う壺です。復讐心や恐怖に飲み込まれてしまっては、犯罪に負けたことになってしまいます。

被害者保護、適正な処罰、類似犯罪の防止のために、力を合わせなくてはなりません。そして、祈り心を持って、前に進みたいと思います。

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「来年の学園祭はもっともっと上手くなってるよ…。」(京都アニメーション制作『けいおん!』のセリフより)。

けいおん! - 作品情報 | 京都アニメーションホームページ

京都アニメーション放火大量殺人事件の犯罪心理学:孤独と絶望感の向こうに

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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