東大女子は東大隠す(上野千鶴子氏東大祝辞):「成功不安」と「かわいい」の心理学

東大 安田講堂(ペイレスイメージズ/アフロ)

4月12日に行われた東京大学の入学式で、上野千鶴子先生が祝辞を述べました。学問の世界でも女性は差別されている。「かわいい」と思われたい東大女子学生は、東大生であることを隠すと。でもこの問題って、東大女子だけの問題ではありません。自分の有能さや活躍に不安を感じる全ての人に、この記事を贈ります。

■女子学生の置かれている現実:上野千鶴子さん東大入学式の祝辞

東京大学でも入学者の女性比率は長きにわたって「2割の壁」を越えない~この差は成績の差ではありません。~親の性差別の結果です。~研究職の女性割合も著しく低い~

「なぜ男子学生は東大生であることに誇りが持てるのに、女子学生は答えに躊躇するのでしょうか」~「なぜなら、男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがあるからです」~「女子は子どものときから『かわいい』ことを期待されます。~だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです」

出典:上野千鶴子さん「社会には、あからさまな性差別が横行している。東大もその一つ」(東大入学式の祝辞全文) 4/12(金)ハフィントンポスト

何十年も前の東大女子は、化粧っ気のない人が多かったように感じますが、今は他の大学生と同じようにファッショナブルな女子学生がたくさんいます。でもやはり、東大ブランドのインパクトはありますね。

東大や、高学歴の女性が、合コンなどで学歴を隠すのは、数十年前からあった話です。せっかく有能で良い学校に入ったのに、窮屈ですね。

■成功不安

社会心理学に「成功不安」という言葉があります。普通は、私達は成功を求めるものです。成功を誇りに思います。ところが、女性の中には成功に不安を感じる人たちがいます。

たとえば、成績で学年トップになったりしたら、かわいくないと思われるのではないかという不安です。学校の成績だけではありません。仕事の営業成績でも、同様の不安を感じる人はいるでしょう。

スポーツ面でも、たとえば体力測定で握力を測っているときに、「本当はもっと力をだせたけど、恥ずかしいから途中でやめた」といった女子もいます。男性なら、考えられません。力が弱いことが恥ずかしいですから、精一杯力を出すでしょう。

大金持ちになることに躊躇する女性はいるでしょうし、夫より出世することに不安を感じる妻もいるでしょう。

■かわいいとは

上野千鶴子先生は、入学式の祝辞で次のように言っています。

「女子は子どものときから『かわいい』ことを期待されます。ところで『かわいい』とはどんな価値でしょうか?愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです」

「かわいい」は、心理学的に言うと、「ポジティブで、脅威や緊張を感じず、社会的な接近動機づけを伴っている」ものです(「かわいい」の心理学:若者もおじさんも親も上司もかわいくなるために:ヤフーニュース有料)。

「かわいい」は、何らかの形で「良いもの」です。それを見ていて緊張しません。それに襲われたり、自尊心を脅かされることがありません。そして、それに近づきたいと感じるもの、それがかわいいものです。

典型的には、小動物や、赤ちゃんなのでしょう。男性から見た「かわいい女の子」も同様の存在です。さらに広げれば、最近のきもかわいいといったものも、無邪気さや、人畜無害のおばかな人も、含まれています。

そうなると、自分を襲うかもしれない猛獣はかわいくありませんし、自分の劣等感を刺激するかもしれない優秀な女性もかわいくないことになってしまいます。

■有能さをかくすべきか

「成功不安」の研究では、その後男性にも成功不安があることがわかりました。男性も、トップになったり、周囲よりも早く出世することに不安を感じる人はいるでしょう。

私は大学院の新入生に言います。「もうバカなふりをする必要はない」。現代の若者達は、お笑い芸人のようなコミュニケーション能力を求めます。どこかでウケを狙います。わざと無能なふりをする子供若者もいます。

お笑い芸人の中には、芸風としてそういう人もいますね。「アホの坂田」さんが言っていましたが、何が腹が立つといって「賢い」と言われるほど腹が立つことはないそうです。本当は大金持ちだけれども庶民派の雰囲気を出している芸能人もたくさんいます。

学歴も裕福さも、威張るようなものではないでしょう。成金の人はお金持ちアピールをしたがるといわれますが、昔から代々続く金持ちは金持ちアピールをしないといわれます。金持ちぶっていばっても良いことはないと知っているからです。

しかし、学生の中には自己アピールが下手な人がたくさんいます。優れた点を強調できないのです。アピールしたら叩かれると感じている人もいます。有能で成功不安のためにアピールできない人もいますし、とても自信がなくて何もアピールできない人もいます。

美男美女、成績優秀、経験豊富、経済的余裕、ユーモアたっぷり、スポーツ万能、体力自慢、楽器ができる、絵が上手い、料理上手、勇気、優しさ、聞き上手、文章が得意、我慢強いなどなど、人はいろいろ良い面を持っているものでしょう。

「能ある鷹は爪を隠す」と言いますが、鷹は必要なときには鋭いつめを使います。いざという時にその真価を発揮する人が、本当に有能な人です。

■本当のかわいさ

女性がかわいいを求めることは悪いことではないでしょう。男性がかわいい女性を求めることもわるくありません。でも、「かわいい」が自分より無能で弱いことだとすれば、それは違います。

実際、非常に有能だけれども、同時にとてもかわいい女性はいます。男性も同じです。有能で社会的地位が高く、大金持ちでも、どこかかわいい男性はいるものです。

男女共に、それは見た目だけの問題ではありません。年齢の問題でもありません。若くて、ひらひらした服をきている人だけがかわいいわけではありません。

自分の信じる道を、一生懸命努力して誠実に進んでいる人を見たとき、私達は尊敬と共に、どこかかわいらしさを感じるのではないでしょうか。男女共に、わかる人にはわかります。

しっかりと自分自身を持っている人(安定した自尊感情、自己肯定感を持っている人)は、他人との比較で自分を保とうとはしません。だから目の前に有能な人が現れても、劣等感を刺激され自尊心が脅かされることはないので、相手を脅威に感じず敬愛することができるのです。

私は女性学生に言います。

「自分の有能さを隠す必要はない。大丈夫、有能な男性は有能な女性を求めるから」。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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