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あおり運転をなぜするのか:危険運転の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(運転は怒りと危険がいっぱい:写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

■あおり運転とは

東名高速での煽り運転をはじめとし、危険なあおり運転が社会問題化しています。

あおり運転での検挙数は、2015年が7,571件、2016年が6,690件などですが、今年2018年の6月1~7日に、全国の警察が高速道路で初の一斉取り締まりを実施した結果、たった一週間でしたが車間距離保持義務違反で1088件が検挙されました。

あおり運転とは、車間距離を詰める、幅寄せ、蛇行運転、前に回り込んでの急ブレーキ、クラクションでの威嚇、必要のないハイビームやパッシングなどの運転のことです。

「煽る(あおる)」とは、「風を起こして火の勢いを強める」とか「風が物をばたつかせる」などの意味ですが、そこから「他人を刺激してある行動に駆り立てたりする」という意味にもなります(大辞林)。

ゆっくり走っている車を速く走らせようとしたり、相手の感情を掻き立てるように仕向ける運転が、あおり運転です。

警察は次のように言っています。

「警察ではあおり運転等に対してあらゆる法令を駆使して、厳正な捜査を徹底するとともに、積極的な交通指導取締りを推進しています。また、あおり運転等を行った者に対しては、〜運転免許の停止等の行政処分を厳正に行っています」(警察庁:危険!あおり運転等はやめましょう)。

しかし、取り締まりや罰則を厳しくするだけではなく、なぜ人はあおり運転をするのか、その心理を知ることで危険な運転を減らしていきたいと思います。

■人はなぜあおり運転をするのか

車の運転には、イライラ、ストレス、怒りがつきものです。もしも周囲に何もなくて、思いのままにアクセルを踏めれば、車はかなりのスピードで走ります。しかし実際は、そうは行きません。するとドライバーはイラつき、自分の行動が妨害されたと怒りを感じます。

車の運転は、怒りに溢れています。イギリスの研究によれば、交通事故の85パーセントは怒りの結果です。

怒りの感情を行動に表せば、攻撃です。運転では、あおり運転にもなります。歩いている時には、私たちは怒りを感じても簡単には攻撃はしませんが、車に乗ると攻撃的になる人もいます。

自動車を運転してい時には、ドライバーはみんな鉄の鎧を着て、守られている感じがします。またお互いに顔も見えず、名前もわからない、匿名性が高い状況です。匿名性は、攻撃行動を増加させます。さらに、長く続くご近所づきあいなどとは違い、道路上では、ほんの一瞬の短い人間関係になります。これも、攻撃行動がしやすくなる原因の一つです。

対面場面では、相手の表情が見えます。相手の表情が曇れば、謝罪や笑顔で、なんとか取り繕うとするでしょう。しかし、自動車に乗っていると相手の顔が見えないために、気がつかないうちに相手を不安にさせたり、不愉快にさせることがあり、時には感情も行動もエスカレートしやすいのです。

自動車の運転席は、本来重さ1トンの鉄の塊を時速100キロで運転している責任重大な場所です。ところが、車の中の密閉空間が、感情表現の場になってしまうことがあります。音楽を聞いたり、おしゃべりを楽しみながら、爽やかにドライブするならいいでしょう。しかし、イライラや怒りの発散場所にしてはいけません。

(写真AC提供)
(写真AC提供)

■あおり運転の被害者にも加害者にもならないために

調査によれば、ドライバーの97.4パーセントが、「運転マナーを意識している」と回答しています。ところが、同時に94.3パーセントのドライバーが「あおり運転をされたことがある」と回答しています(日本自動車連盟JAF平成28年)。

誰が見ても乱暴なドライバーもいますが、本人は意識していないのに、相手は威圧感を感じていることがあるのかもしれません。後ろの車は、ちょっと車間距離を詰めただけと思っていても、前の車はあおられたと感じることもあるでしょう。さらに威圧感を感じて仕返して来たり、抜きつ抜かれつのレースのようになってしまうと、とても危険です。

何気なく追い越しただけなのに、相手が感情を害し、過剰反応することもあるのでしょう。怒っている人のほとんどは、自分は悪くないと思っているものです。

報道によれば、東名高速のあおり運転事故の被告も、腹をたてるとあおり運転を行い、相手の車を無理にでも止めて相手に謝らせようとしたと、同乗の女性が証言しています。自分は正しいと信じていると、車載カメラの存在なども、抑止力にはなりにくくなってしまいます。

運転する時には、自動車の整備が必要なように、ドライバーの心の整備も重要です。自動車の運転に限らず、多くの事故は疲れ焦り怒りから生まれています。

前の車がゆっくりでも焦らず、追い抜かされてもいらだたず、安全な運転をしたいものです。あおられたと感じても、あおり返さないことが、鉄則です。

■攻撃的ドライバーと不安なドライバー

私たちの心には、怒りのタネが潜んでいます。誰もが、きっかけがあれば相手を攻撃したくなります。強い刺激を好む人の中には、カーレースのような運転をしたくなる人、クラクションを鳴らしやすい人、カッとなりやすい人がいます。そんな人は、自分の性格を自覚して、安全運転を心がけましょう。あなたの乱暴な運転が、周囲の人をイラつかせ、さらに乱暴な運転を呼び起こしているかもしれません。

一方、運転には不安がつきものです。特に穏やかな性格で、不安を感じやすいドライバーもいます。必要以上に不安を感じて、加速が足りなかったり、左右に寄りすぎたり、不必要にプレーキランプを点滅させてしまうドライバーもいます。その不安定な運転が、周囲をイラつかせることもあるでしょう。スムーズな運転も、大切です。

ただし、初心者は誰もが不安になりやすいものです。若葉マークの車には、周囲も親切にしたいものです。

さらに、不安な運転ではなく、「良識的な運転」をするドライバーもいます。法定速度を守る、適正な車間距離を保つといった運転をするドライバーです(場合によっては多数派ではないこともあるかもしれませんが)。

このような良識的なドライバーに怒りや攻撃を向けるのは、間違っています。急いでいる時にイラつくのは共感できますが、自分の感情を相手のせいにしてはいけません。

本当はもっとアクセルを踏みたいところだが、前の車のおかげで自分も安全運転ができて良かったと思えるような、そんな「悟り」も必要かもしれませんね。

交通事故の心理学:人はなぜミスを犯しルールを破り危険に近づくのか

*また、あおり運転が大きなニュースになっています。今度はあおり運転プラス殴打で、男女が逮捕されました(2019.8)。この事件を受けて、新しいページをアップしました。

あおり殴打事件の心理学:人はなぜあおり運転し暴言暴力をふるうのか

怒りっぽい乱暴な人は、被害者意識を持っている。肥大した不安定な自己を持っている。プライドが傷つくと、相手を攻撃し、自分の強さ正しさを示さずにはいられない・・・

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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