『相棒』シャブ山シャブ子と偏見:テレビドラマの心理学

テレビ朝日本社(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

<人気ドラマへの抗議、講義への疑問。問題はどこに。真実はどこに。>

■テレビ朝日『相棒』、シャブ山シャブ子問題

テレビドラマ『相棒』は、水谷豊さん主演の刑事ドラマ。テレビ朝日が誇る人気番組です。現在は、シーズン17が放送中ですが、ちょっとした議論が湧き上がっています。

11月7日放送のテレビ朝日系ドラマ『相棒 Season17』の第4話、劇中に登場した「シャブ山シャブ子」と名乗る女性(演:江藤あや)。彼女は、覚せい剤依存で、暴力団に操られ刑事を殺害します。その登場の仕方は、まさに「ゾンビ」でした。

出演時間は短かったものの、その迫真の演技はすぐに評判になり、「シャブ山シャブ子」はTwitterのトレンドワードに入ったほどです。ストーリーも、演出も、演技も、高評価でした。

ところが、これほど注目されからでしょうか。抗議、クレームも浴びることになります。

■「シャブ山シャブ子」への抗議

プレジデントオンライン(11/12)では、「「シャブ山シャブ子」を信じてはいけない」と題する精神科医に夜記事が載りました。

「シャブ山シャブ子」を信じてはいけない

「これは薬物依存症者じゃなくて、ただのゾンビじゃないか」「あんな覚せい剤依存症患者はいません。」

11月14日には、国会で取り上げられました。

厚労相「薬物依存、真の理解を」:共同通信

「薬物依存の方への偏見を助長するのではないか。こういう描写は慎むように要請してもらいたい」(野党側からの質問)

さらに、11/15の報道によると「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」がテレビ朝日に抗議文を出し、番組内での謝罪などを求めています。

「相棒」の薬物依存症者の描写は差別的 研究者らが抗議:テレビ朝日

「実態からはかけ離れた、異様な演出」

■視聴者、ネットユーザーの反応

ヤフーコメント欄にも、沢山の意見が寄せられています。意見の多くは、抗議やクレームへの疑問、反論です。

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「ドラマである」「フィクションだ」「誇張があるのは当然」

「何でもかんでも偏見差別と騒ぐのはおかしい」「他にもオーバーな表現はたくさんある」「警察や金持ち優等生が悪く描かれるのは良いのか」

「覚せい剤は怖いものだ」「あのような覚せい剤中毒者は実際にいる」「実際に中毒者が起こした殺人事件もある」

「覚せい剤の怖さが伝わった」「覚せい剤犯罪の抑止にはなる」

「中毒者は自分から薬を使った」「薬物中毒と他の精神疾患は違う」「覚せい剤中毒者は犯罪者、差別されて当然」

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これらのご意見に対して、お答えしていきたいと思います。

■テレビドラマが表現するもの

ドラマはフィクションです。刑事も弁護士も医師も教師も暴力団も殺し屋も、テレビドラマに登場するような人は、現実にはいないでしょう。現実にはない世界を描くことで、素晴らしい作品が出来上がり、私達はそのドラマを楽しみます。

ドラマにはすごい主人公が登場しますが、現実は違います。少なくとも、普通の弁護士さんが、テレビドラマのように現場に行き、刑事のように捜査をして、真犯人を見つけることはしないでしょう。「絶対しない」と言っていた関係者もいました(ただ、もしかしたらドラマのように日本中を駆け回るような弁護士がいる可能性はありますが)。

警視庁のどこを探しても、「特命係」もないし、「杉下右京」もいません。ドラマが現実ではないことは、視聴者はみんなわかっているでしょう。

ただ、テレビドラマは私達のイメージを作り上げます。

ある職業がかっこよく描かれると、その職につきたい志望者が増えます。いつも悪く描かれる職業や役割は、イメージが悪くなりがちです。小児科医や内科医は優しく描かれ、外科医は頭は良いが冷たく描かれ、精神科医や歯科医は変な人に描かれることもよくありました(最近は、すてきな精神科医や優しい歯科医も描かれますが)。

学園ドラマの校長は良い人でも、教頭はたいてい意地悪な人、PTA会長や教育長も悪人として登場することが多いでしょう。「実際にそうだからだ!」と思う人もいるかもしれませんが、どの職業でも役職でも様々な人がいることでしょう。

現実の職場では、ドラマで描かれるほど楽しいことばかりではないし、ドラマで描かれるほど悪人ばかりでもないでしょう。ドラマはフィクションであり、現実とは違うと理解しても、私達はドラマから影響を受けることはあるのです。

(提供:写真AC)
(提供:写真AC)

「テレビドラマの「偏り」に関する研究によると、現実よりも、男性ばかり登場する、人が死にすぎる、善人が多い、美男美女が多い、暴力シーンが多いなどが指摘されています。ドラマに登場する女性は、「弱い女性」が描かれることもあれば、「理想的(すぎる)女性」が描かれることもよくあります」(テレビドラマの心理学:何を表現し、私たちにどんな影響を与えるのか:Yahoo!ニュース個人有料)。

ドラマだとわかっていても、私達は影響を受けます。その結果、喜ぶ人もいれば、傷つく人もいるでしょう。偏見が強まることもあるでしょう。

■覚せい剤依存症の人はどんな人々か

いろんな人がいると思います。アルコール依存症の人でも、完全に生活が破綻している人もいれば、サラリーマン生活を続けている人もいます。家族に暴力をふるっている人もいれば、そうでない人もいます。かなり症状が進んでいる人もいれば、そうでない人もいます。

依存症に限らず、一つの名称で呼ばれる人たちでも様々な人がいます。「精神病患者」も「がん患者」も、様々な人がいるでしょう。

一目で、重い病気だとわかる人もいれば、見た目はまったくわからない人もいます。

「関係者」ですら、その人がいる場所によって、異なる人々を見ています。学校の先生が日常的に見ている不登校、児童相談所で見られる不登校、精神科で医師が見る不登校は、それぞれ違うと思います。

テレビのドキュメンタリーに出てくる重い発達障害児と、学校で日常的に見られる発達障害児は違うところがたくさんあります。

だから、同じ名称のものでも、人によってイメージが違うのです。「知っている」と語る人同士でも、イメージは異なるのです。

ドラマの中では、ある病気や職業が紋切り型のステレオタイプで描かれることがありますが、フィクションとはいえ現実に近いと感じる人もいれば遠いと感じる人もいるのでしょう。

ドラマでもドキュメンタリーでも、平均的な人を描くのか、特別目立つ人を描くのかは、考え方次第です。視聴者にとって「面白い」のは、特殊なケースでしょう。

■テレビドラマと精神疾患

精神疾患の患者と家族は、長い間、偏見と差別に苦しんできました。

ドラマの中で、精神疾患を持っている人が刃物を振り回すシーンを、ときどき見かけます。たしかに、実際にもそういう事件はあります。しかし、ドラマでは実際以上に多く描かれています。精神疾患は危険で怖いというイメージを視聴者に与えるのではないかと、関係者は考えています。

ドラマの中に出てくる精神病院の中には、未だに昔ながらの精神病のイメージで患者を描くことがあります。これも、偏見を強めかないことです。

患者と家族は長く苦しんできましたから、他の人たちよりも敏感に感じるのも当然でしょう。同じように悪く描かれるとしても、強者なら笑い飛ばせても、社会的弱者はそうはいきません。

■薬物依存症

医療や福祉の関係者の中にさえ、アルコールや麻薬などの薬物依存者に対しては、精神病患者に対するよりも冷たい態度を取っているように感じられる人がいます。

精神病はなりたくてなったわけではないけれど、薬物依存は自分からその薬をつかったのだという感覚は、様々人が持つと思います。さらに違法薬物を使ったのなら、犯罪であり、処罰を受けるのも当然です。

だから、薬物依存者は孤立します。最初の逮捕はまだしも、二度目になると、家族も仕事仲間も去っていきます。そうすると、さらに再犯への危険性が高まります。

悪いことをしたのだから罰を受けるのは当然だと感じる人も多いでしょう。しかし、再犯を防ぐのは誰にとっても大切なことです。そして、近年の研究と実践によれば、再犯を防ぐために効果的なのは孤立させることではなく、支援することです。

■テレビドラマと私達

これまでも、ドラマの表現方法が問題視されたことは、いくつもあります。

2014年に日本テレビで放送された『明日、ママがいない』は、問題が大きくなりました。

「フィクションだとしても許される演出の範囲を超えている」と抗議し、養護施設への偏見差別が助長されるとして番組の放送中止や内容の再検討などを求める団体もありました。

日本テレビ「明日、ママがいない」問題は、なぜ大きくなったのか:野島伸司作品と現代の私達

ご批判はごもっともな面もあるのですが、ドラマを最終回まで見ると、作品の意図は伝わってくるようにも思えます。

TBSで放送された『3年B組金八先生』も、1979年に放送された第1シリーズでは、女子中学生の妊娠問題を扱い、当初は非難も浴びました。

2007年に放送されたフジテレビ『ライフ~壮絶なイジメと闘う少女の物語~』も、いじめ描写がひどすぎると多くの抗議が来ました。

日本テレビの『女王の教室』(2005)も、先生の態度がひどすぎると抗議されました。

アドラー心理学者が登場するフジテレビ『嫌われる勇気』(2017)は、アドラー心理学会から抗議を受けました。

今年2018年のTBSドラマ『ブラックペアン』も、治験コーディネーターへの誤解が広がるとして日本臨床薬理学会から抗議を受けました。

『相棒』では、2015年放送のシーズン3第7話が、図書館司書の描写がひどすぎると日本図書館協会などから強い抗議を受けました。

いずれのケースでも、賛否両論がありました。

テレビドラマは、偏見差別を助長することがあります。どんなに素晴らしい作品も、すべての表現物には誰かを傷つける「棘」があることを、製作者は自覚するべきでしょう。同時に、傷つく人がいるから表現してはダメだとなると多くの表現ができなくなります。製作者側が萎縮し、良い作品も作れなくなります。

製作者が学ぶと同時に、視聴者も学びたいと思います。メディアリテラシーを持ち、作品を楽しみ、偏見差別をなくしていきたいと思います。

今回の抗議を受け、テレビ朝日はコメントしています。

「専門家や患者支援者の方々が問題提起されていることは承知しております。ご指摘を真摯に受け止め今後の番組制作に生かしてまいります」

決まり文句のコメントではなく、本当に「良い番組」が制作されていくことを、願っています。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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