「宗教みたい」?:コーチ、上司、指導者との歪んだ人間関係と回復

体操 女子日本代表 公開練習風景2017(写真:アフロ)

<混乱を深める体操問題。だが、同様の問題は他分野にも? 深い信頼関係が、依存やマインドコントロールになってしまうこともある。しかし「宗教みたい」と非難することは逆効果だ。>

■体操協会不祥事:宮川紗江選手、速見佑斗元コーチ、塚原千恵子女子強化本部長、塚原光男副会長を巡って

体罰、パワハラ問題に関する報道が続いています。色々な話題が入り組んで、混乱し、わかりにくくなっていますね。

 <本人が嫌だと感じればパワハラか:指導、いじめ、体罰、暴力との違い

未成年の18歳の少女を守りたいと思いますが、客観性も必要です。今回は、塚原千恵子氏が語った「宗教みたい」に注目し、人間関係について考えたいと思います。

■「宗教みたい」

報道によれば、速見佑斗元コーチが宮川選手に対して体罰を行ったということで、塚原強化本部長が宮川選手を呼び出します。宮川選手は当初認めなかったようですが、目撃者もいるということで、一部体罰の事実を認めます。しかし当初は「私は証言しない」と言ったようです。

宮川選手本人も、また家族も、体罰を使用したコーチを容認していて、引き続きコーチを受けたいと望みます。このような態度に対して、塚原強化本部長は、「宗教みたい」と言います。

塚原氏は、当初はこの言葉も悪くないと言っていたようですが、現在では、不適切な表現として謝罪しています。

■宮川紗江選手と速見佑斗元コーチとの関係は? 宗教みたい?

◯信頼関係

速見佑斗元コーチは、宮川選手が5年生の時から現在まで8年間にわたって指導をしてきました。宮川選手にとっては、小中高と指導を受け続けてきたわけです。深い信頼関係ができるのも当然です。

体操関係者の話によると、体操は一歩間違えれば命に関わる事故にもなるので、特に選手とコーチの信頼関係は深くなるということです。

選手とコーチ、指導者と指導されるものの間では、信頼関係はとても大切です。コーチでも、教師でも、上司でも、医師でも、カウンセラーでも、宗教家でも、信頼関係は大切です。信頼関係がなければ、教育は成り立ちません。

◯体罰

しかし、体罰の容認は問題があります。ただ、体罰の容認は珍しいことではありません。たとえ体罰があっても、このコーチのもとで上の大会に行きたいと選手が願うことがあります。

さらに、ひどい暴力を受け続けているうちに、正常な判断力を失って暴力を甘んじて受けてしまう場合もあります。

◯依存、共依存

コーチを信頼するのは良いことですが、依存状態になると困ります。依存とは、それがないと生きていけない状態です。どんなに信頼関係があっても、いつかは別れが訪れます。指導者を頼りにするのは良いことですが、指導者がいないと生活できないのではいけません。指導者は、指導を受ける者をいつかは自立させなければなりません。

今回の出来事に関して、教育評論家の尾木直樹氏(尾木ママ)は、深い信頼関係にある二人を別れさせるのは親子別れさせるようなものとの発言に対して、次のように言っています。

「それは共依存って言って、お互いに依存しちゃってる関係で、スポーツ選手は自立しなきゃいけないんですよ。そうだとしたら余計問題ですよ」(尾木ママ 宮川紗江選手と速見コーチは「共依存」と指摘…「自立しなければ」)。

◯洗脳、マインドコントロール

あるテレビ番組の会話で、「洗脳状態」ではないかという発言がありました。それに対して、複数の出演者が、そのくらい強く信じなければ、体操の指導やオリンピックを目指すなどできないだろうとの発言がありました。

洗脳とは、本来の意味としては、オウム心理教が行っていたような暴力的方法を使った心理操作ですから、洗脳はダメです。ただ、この番組ではおそらく洗脳という言葉をもっと軽い意味で使っていたのだろうと思います。

マインドコントロールは、洗脳とは違って暴力的な方法は使わないソフトな方法です。しかしカルト宗教などが使う悪質な人心操作方法です。洗脳もマインドコントロールも、人間を操る望ましくない方法です。

マインドコントロールが成功すれば、信者や社員は、自発的に懸命に働きます。しかしたとえ効果が上がるとしても、洗脳やマインドコントロールは、道義的に許されない方法です。

■宮川紗江選手と速見佑斗元コーチとの関係

おそらく、深い信頼関係があることでしょう。これは、問題ありません。「宗教みたい」ではありません。

ただ、今回の件で多くのマスコミで発言している元体操選手でタレントの池谷幸雄氏は、テレビ番組内で当初次のような趣旨の見解を述べています。

「宮川選手は、大学進学を考えた時に、大学進学をすると速見コーチからのコーチが受けづらくなるという理由で、大学進学をしなかった」。

その後、宮川選手の単独記者会見があり、世論が一気に宮川選手寄りになった後は、この発言をしていないように感じます。

また、宮川選手の母親のインタビューでは、次のような趣旨の発言が報道されています。「今回の行動はとても勇気のいることだったが、このままでは速見コーチと別れなければならないということになり、決断した」。

宮川選手にとっても、母親にとっても、速見コーチと共にいることこそが、最重要なことだと感じさせる言葉です。

■指導者との関係が不健康になる時

今回は何が起きているかはわかりません。

ただ一般論として、指導者、支援者との関係が不健康に歪むことはよくあることです。指導者側が意図的に相手を操作することもあります。カルト宗教や、インチキ占い師が、他人の財産や人生を奪うような場合です。操られている当人は、その「先生」を信頼しているのですが、結果的に人生を奪われます。様々な事件が起きていますね。

宗教や占いではなくても、相手を家族ごと支配し、財産も命も奪った事件も起きています。世の中には、人を操る名人(マスター・マニュピュレーター)がいるのです。

悪意はなくても、占い師やカウンセラーなどの指導者や支援者に頼りきってしまい、正常な判断力が失われることがあります。まともなカウンセラー等は、そのようなことが起きることに用心し、クライエントとの関係が歪まないよに、慎重に配慮します。

ただ、明確に事件化でもしない限り、不健康な歪んだ関係なのか、健康的で正常な関係なのかは、わからないことがしばしばあります。本人は、いつも正常な関係だと主張します。

オウム真理教の元信者たちも、周囲は必死になって戻ってくるように説得しても、麻原彰晃を信じ続けました。女性お笑いコンビの一人が、洗脳(マインドコントロール)されていると世間の話題になりましたが、結局うやむやに終わりました。

朝ドラ女優の事務所独立問題に関しても、演技指導していた女性に洗脳(マインドコントロール)されているとされましたが、本人が悪いのか、この女性が悪いのか、事務所が悪いのか、よくわかりませんでした。

スポーツ界では、かつて新体操の女王と言われた山崎浩子氏が、統一教会(世界基督教統一神霊協会)(現. 世界平和統一家庭連合)の信者になりましたが、後に周囲からの説得を受けて脱会し、「私はマインドコントロールされていました」と記者会見を行いました(1993年)。

一連の騒動は大きく報道され、「マインドコントロール」という言葉が広がるきっかけになりました。

本人の意思は尊重されなければなりません。何を信じるかは基本的人権です。スポーツでも、アスリートファーストです。でも、操られていたり、正常な判断力を失っている場合には、当人の言うことを聞くだけで良いわけではないでしょう。

■「宗教みたい」と言うこと

宗教を信じるのは、理屈抜きの部分があるので、誰かに盲従している様子を「宗教みたい」と言うことはあるかもしれません。ただまともな宗教や信仰は、盲従とは異なり、批判精神は保たれるものです。だから時々、宗教改革のようなことが起きます。

そこで批判精神を無くして依存的に盲従している様子を表すなら、「カルト宗教みたい」が正しいかもしれません。

では、「宗教みたい」(カルト宗教みたい)と誰かに言うことはで適切でしょうか。これは、塚原氏も言っているように不適切でしょう。

歪んだ人間関係などないのに「宗教みたい」と評してしまうのは、とても失礼です。では、実際に歪んだ関係になってしまっている人に「宗教みたい」(「カルト宗教みたい」「あなたは洗脳されているのよ」「お前はまあインドコントロールされてるのだ!)と言うのはどうでしょうか。

これも不適切です。そんな言い方を頭ごなしにしても、相手はその指導者や組織から離れることはありません。

「マインドコントロールされ信じ初めてしまっている人は、言うことなど聞きません。むしろ、大好きなその宗教や大切な教祖様の悪口を言うなんて許せないと感じます。」(カルトから家族友人を守る方法:オウム真理教事件を教訓に:Y!ニュース有料)

こんな言い方をすると、人間関係が悪くなり、かえってカルト宗教に行ってしまいます。一方的な非難ではなく、まず共感と理解を示すカウンセリング的アプローチが必要になるのです。

今回の騒動は、まだまだ混乱が収まりそうにありません。悪は罰せられ、歪みは正され、体操日本が活躍できることを願っています。そのためには、感情に流されず、冷静な判断をしていく必要があるでしょう。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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