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3.11と「傷ついたふるさと」:心の復興と郷土愛の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
兵庫県の小学校から陸前高田のボランティアセンターに送られた旗(筆者撮影)

郷土愛は、私たちの心の土台。傷ついたふるさとが、傷ついた心とともに、癒され復興しますように。

■「しあわせ運べるように」と3.11東日本大震災

阪神・淡路大震災(1995)の時に、ご自身も被災された小学校の先生が作った曲。「しあわせ運べるように」(作詞作曲:臼井 真)。地元の小学生たちに歌われたこの歌は、阪神淡路の被災地全体に広がり、そして3.11東日本大震災で歌われ、日本中で歌われ、さらに世界へと広がり始めている。

悲しみに寄りそいつつ、前に向かって進もうとする歌だ。子供達は、素直に歌う。でも、悲しみから癒されないと、こんな健康的な歌は歌えないかもしれない。

今、歌っている人たちも、すっかり癒され元気になったわけではないだろう。でも、それでも私たちは歌う。

■「傷ついたふるさと」

元の歌詞では「傷ついた神戸」と歌う。全国では、「傷ついたふるさと」とか、それぞれの地名を入れて歌われている。

阪神・淡路大震災も、新潟中越地震も、東日本大震災も、熊本の地震も、それぞれの地域は破壊された。美しい自然が破壊され、見慣れた街並みは見る影もなく、そして人々はばらばらになる。

自宅を失い、職場を失い、家族や仲間を失う。自宅も職場も破壊された人が、それでも一番辛かったのは、社員のみんなと離れ離れになったことだと語る。

道路は再建されていく。家も建て直される。だがそれでも、またあの仲間たちが昔のように集まることは、難しい。

■郷土愛

心理学の研究によれば、郷土愛とは、自然への愛、文化への愛、そして人々への愛からできている。特に大切なのは、人々への愛だ。各地に住んでいる故郷を愛する人たちは語る。「この地域の人たちはみんな良い人だ」と。そして地域の山や川を愛し、その地の祭りや習慣を愛している。

郷土愛は、市長や知事のためのものではない。郷土愛は、人生の土台であり、住民一人ひとりにとって大切だ。ふるさとを愛し、ふるさとを誇りに思えることは、生きるエネルギーにつながる。

ふるさとは、私たちのコンフォートゾーン(安心できる場所)だ。私たちは、ここから冒険の旅に出る。疲れた時はここに戻り、そしてまた再出発する。

そんなふるさとが傷ついてしまうことは、私たちの心の土台が深く傷つくことにつながる。

■「私たちにしか見えない景色がある 石井杏奈 福島の未来を見つめる旅」

NHK総合テレビ3月10日放送の番組「私たちにしか見えない景色がある 石井杏奈 福島の未来を見つめる旅」。現実と、かつて放送されたドラマの話が交差しながら、ふるさと福島県への思いが描かれている。

番組でも語られたように、震災後ふるさとから離れた人の中には、ふるさとのことを歌う「しあわせ運べるように」が歌えない人もいる。文部省唱歌の「故郷(ふるさと)」を歌うのも聞くのも辛いと語る人もいる。

7年前、福島から隣県新潟へ避難してきた子供達は語っていた。「僕たちが、福島県を復興する!」。ふるさとへ戻れた子供は良い。しかし、戻れない子もいる。7年間は、小学生が高校生になる長さだ。もう、簡単にふるさとへは帰れない。子供達から、威勢の良い話は聞かれなくなる。

「ふくしま」が「フクシマ」になってしまい、福島出身だと言うと、相手の態度が変わると語る人もいる。

破壊され、傷ついたふるさと。恐ろしい3.11の記憶が頭にこびりついてしまった、ふるさと。しかし、それでもふるさとで過ごした幸せな日々がある。「その人にしか見えない景色」がある。番組では、楽しかった思い出とともに「しあわせ運べるように」が歌えるようになっていく姿が描かれる。

被災した各地に行くと、いつも言われる言葉ある。「また、きれいに片づいたら来てください」「今度は、良い季節に来てください」「来年の祭りに来てください」。美しい景色を、伝統文化を、人々を見に来てくださいと、地元の皆さんは呼びかけてくれる。私たちのふるさとの素晴らしいところを見てくださいと。

復興道半ばのふるさとで奮闘している人がいる。ふるさとを離れ、ふるさとを離れ、苦しんでいる人もいる。みんな、ふるさとを愛してている。愛しているから、どの人も苦しんでいる。

■「生まれ変わるふるさと」

「しあわせ運べるように」の歌では、僕たちの歌が「生まれ変わる神戸のまち」に響き渡れと歌われている。「生まれ変わるふるさと」とは、道路や建物だけの話ではない。国や自衛隊が直してくれるだけでは、復興はない(被災地の皆さんは、来てくださる人々にとても感謝しているが)。

被災者である地域住民自身が、復興に関わって行くことで、本当の復興が始まって行くのだ。だから、不慣れな災害ボランティアは何でも自分でやりたがるが、ベテランのボランティアは地元の人が動きやくなるように支援する。そうして、新しい街、新しい絆、新しい文化が生まれるのだろう。

原発近くには、今も戻れない地域が広がる。また、様々な事情で戻れない人々もいる。道路も建物もできても、人々が戻らない街がある。もしかしたら、もう元通りにはならない地域もあるだろう。亡くなった人も帰っては来ない。

だが、ふるさとは生まれ変わる。私たちも生まれ変わる。道路も建物も人口も大切だが、それだけではない。たとえ故郷に戻れなくても、心の中のふるさとは生まれ変わる。フクシマが、うつくしまふくしまに戻る。

数年前の3.11の日。新潟県のローカルラジオ局BSNは、その日一日中のメールテーマが、「東北の良いところ」だった。景色、味覚、観光、思い出、人々とのつながり。その日は、朝から夜まで一日中、東北愛のメールが寄せられ続けた。

東日本大震災で被害を受けた全ての人々の「ふるさと」が、復興しますように。人々の心とともに、新しく、生まれ変わりますように。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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