人は見た目か:「見た目問題」の心理学

(写真はイメージ:100万人が見た目問題を抱えている)(写真:アフロ)

人は見た目ではないが見た目で左右されてしまう私達は、ではどうすれば良いのか。

■見た目問題を抱える人々

最近、Yahoo!ニュースで「見た目問題」が取り上げられ、大きな反響を呼んでいます。

顔ニモマケズ、僕は生きる 内面好きと言ってくれた彼女:朝日新聞デジタル 4/11

「見た目問題」ネット上で反響、本人の思いは…「そういう反応は覚悟」「驚き減ってくれればいい」:withnews 4/20

読者の反応の多くは、取材に応じた男性への賞賛です。彼は勇気がある、障害のことが少し理解できた、頑張って欲しいといった肯定的意見です。感動した、自分の生き方を反省したと語る人もいます。

ただ多くの意見の中には、肯定的意見に対して偽善的だと批判する人もいます。勇気は讃えたいと思うが、やはり正視できないという意見もあります。様々な反響があることは、ご本人も「そういう反応は覚悟」と述べています。

別の記事では、このような見た目問題を持つ人が100万人もいるといいます(実は100万人が抱える“見た目問題“ 当事者たちの生きづらさとは:AbemaTIMES 4/4)。今回は、まず障害や病気の見た目問題の土台となる一般的な人の見た目の問題から考えたいと思います。

■人は見た目

社会心理学の実験です。大きな大学の新入生を集めて、パーティーを開きます。初対面の人々です。事前に、各学生の趣味、宗教、政治思想などは調べられています。そして、学生たちが誰と今後付き合いたいと思ったかを調査しました。

調査の結果わかったのは、趣味も宗教も政治思想も関係なく、人は見た目の良い人を付き合いたい人として選ぶということでした。

この結果は、男性だけでなく女性も同じでした。女性も、見た目で相手を選んだのです。

■見た目で左右される人間

たとえば、ある人の写真を見せて「この人がこのような悪いことをしました。懲役何年が適当だと思いますか」と質問します。同じ悪事を働いたと設定しても、人々は見た目の悪い人には重い刑罰が適当だと判断しました。見るからに善人そうな人よりも、見るからに悪人そうな人相の悪い人に、人は重い刑罰を与えがちなのです。

心理学の実験で、「ここにお金が置いてありませんでしたか」と尋ねる実験があります。その時、きちんとした身なりの人が尋ねるとお金が戻りやすかったのですが、薄汚れた身なりの場合は話を聞いてもらいにくいことがわかりました。人は、外見で判断されるのです。

私たちが、路上で誰かに道を尋ねる時には、やはり清潔感のある外見の人、優しそうな外見の人を選ぶのではないでしょうか。

「人は見た目ではない」のは、言うまでもありません。しかし同時に、人は見た目で左右されるのも事実です。だから私たちは、見た目を良くしようと努力をするのでしょう。

■人はなぜ見た目に左右されるか

外見だけで相手を選んだり、外見の良い人をえこひいきする人はいるでしょう。でも、「人は見た目ではない」という人も、結局外見で人を判断することはあります。

ある人の性格や能力を想像させる心理学の実験では、人は見た目の良い人が性格も能力も良いと判断しました。人は、外見で選んでいるつもりはなくても、外見が良いと内面も良いと感じてしまうので、結果的に外見の良い人が選ばれることにもなるのです。

物語の世界では、優しいお姫様は美人で、意地悪な魔女は醜く描かれたりします。果物などの食べ物も、見た目の良いものを選ぶことが、美味しい食べ物であることが多いでしょう。このようなことから、人は見た目から内面を連想するようになったようです。

■人は見た目ではない

新入生のパーティーや、路上で人に尋ねごとをする場合は、初対面です。写真を見て刑罰の判断をするのも同様です。初対面の場合は、外見から内面を想像するしかありません。長い時間をかけてその人のことを調べることもできません。

新入学生のパーティー実験では、その後の人間関係も調査されました。その結果、初対面では外見の良い人が選ばれても、そのあと実際に親友や恋人を選ぶ時には、外見だけで選ぶようなことはありませんでした。クラスの全員が、クラス一の美男美女を好きになるわけではないでしょう。

また、たくさんの人物写真を見せて、「誰をミスコンテスト、ミスターコンテストの候補にするか」と質問すると、意見はかなり一致します。ところが、誰と付き合いたいかと質問すると、答えはバラバラになります。

確かに美男美女は目立ちますが、人は好きになった人の外見を好きなるものなのです。好きになって共に生活を始め、良い関係が持続できれば、年齢とともに相手の外見が変化しても、相変わらず相手の内面も外面も、素敵だと感じ続けることができるでしょう。

昭和の名作恋愛ドラマ『愛と死を見つめて』は、女性の顔に軟骨肉腫ができて手術で顔の半分を失いながらも二人の愛は変わらないという実話をもとにした物語でした。

1982年の大ヒット映画『E.T.』に登場する宇宙人は異形の存在で、いきなり見た人は悲鳴をあげます。けれども、子どもたちは宇宙人のことが大好きになり友情が芽生えます。

名作SF小説『地球幼年期の終わり』に登場する宇宙人は、人類が思い描く最も忌み嫌う姿をしています。そこで宇宙人は、時間をかけて地球人を教育し、特異な姿を受け入れられるほどに人類が成長してから、ようやく姿を表します。

19世紀イギリスで起きた実話の映画化『エレファントマン』(1980)の主人公は、大きく歪んだ姿のために怪物扱いされます。しかし当時始まった福祉の思想とともに、社会が彼を受け入れます。そして、崇高な魂の持ち主として尊敬され、街の名士になります。現代的見方をすれば問題もあるかもしれませんし、現代においても障害者を「教材」のように扱うことへの異論もありますが。

<「感動ポルノ」はダメなの?:24時間テレビとバリバラの間で:無意識の差別と障害者の教材化>

■見慣れること・心が変わること

意識改革や教育はもちろん大切ですが、慣れること、交流することも必要です。

Yahoo!ニュースで紹介された男性は、「驚きが減ってくれればいい」と語っています。彼の顔つきは、トリーチャーコリンズ症候群によって大きく変化しています。ほとんどの人は、この病気のことを知りませんし、病気の人と会ったこともありません。いきなり見れば、驚くのは無理のないことでしょう。

顔でも手足でも大きな変化をしている人を見れば、私たちは戸惑います。道ですれ違う時には、まともな大人であれば「儀礼的無関心」と呼ばれる行動をとります。実はとても意識しているのですが、じろじろ見るのは失礼ですから、気づかないふり、なんとも思っていないふりをするわけです。

ただ中には、露骨に不愉快そうな顔をする人もいるでしょうし、子どもならいじめる子もいるでしょう。会社やアルバイトの採用なら、外見で不採用にされることもあるでしょう。さらに、意地悪や差別をする気は無くても、突然見て、思わず驚きの表情を出してしまうこともあるでしょう。

人は見慣れないものには、不安や緊張を感じるものです。昔であれば、街で金髪青い目の外国人が近づいてくるだけで怖いと感じた日本人もいるでしょう。街の中で、当時は見慣れない車椅子を見ただけで戸惑うこともあったでしょう。外国人も街中の車椅子も見慣れた現代では、もうそんなことはありません。

ある時、見た目問題を持つ赤ん坊と出会いました。私は悪意を持っているつもりはなく、適切な態度も取れたかとは思います。しかし、正直に言えば戸惑いを感じていました。ところが毎週その赤ん坊に会っていると、見た目問題が気にならなくなります。情が移ります。まるで親戚の赤ん坊を見ているように可愛くなり、抱きかかえ、よだれが私の服についても気にならなくなってきました。

1998年に開催された長野パラリンピックの時には、今までになく日本のテレビに身体障害者のみなさんが登場しました。最初は、どうしても障害の部分に目が向いてしまいましたが、毎日見ていると慣れてきます。そのうちに、このアスリートはかっこいいとかきれいとか、この競技はすごいといったように、軽薄な見方で恐縮ですが、普通のスポーツ大会を見るようにパラリンピッックを見られるようになってきました。

慣れることは、とても意味があることです。ただ、顔の見た目問題は体の問題以上に悩みは大きくなりやすいでしょう。それでも、勇気ある先駆者達が社会で活躍し、街を歩き、メディアの取材に答えることで、私たち一人ひとりの心が変わり、少しずつ社会が変わっていくでしょう。いえ、もう変わり始めているのかもしれません。

■BOOKS

『顔ニモマケズ─どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』文響社 

『笑顔で生きる 「容貌障害」と闘った五十年』講談社

『顔がたり―ユニークフェイスな人びとに流れる時間』まどか出版

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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