女児殺害、厳戒の街に潜むワナ:子どもたちを守るための犯罪心理学

(写真はイメージ:防犯ブザーはあるけれど・・・)(写真:アフロ)

無理な見廻りは逆効果の時もある。防犯ブザーが役に立たないこともある。では、どうすれば良いのか。

■我孫子女児殺害事件

千葉県我孫子市女児殺害事件の捜査が進む中、街は様々な防犯対策を取っています。我孫子市だけではなく、千葉県全体でも防犯カメラの設置強化などが行われようとしています(千葉県、防犯カメラ設置へ 森田知事「理解得ながら広めたい」 千葉女児殺害事件)。防犯活動は大切です。しかし、そこにはワナも潜んでいます。

■無理な見廻りなどの防犯活動

女児殺害事件は、地元に大きな衝撃を与えます。犯人が逮捕されていない状況では、人々が不安に思うのは当然です。そこで、しばしば住民によるパトロール活動などが始まります。しかし、それが無理で特別な見廻り活動であれば長続きしない問題があります。一ヶ月後に犯人が逮捕されれば良いのですが、半年でも1年でも2年でも続けることができるでしょうか。無理で特別な活動ほど、続けることが難しくなってきます。

もしも犯人が連続犯罪など全く考えていないのなら、パトロールしてもしなくても次の犯罪は起きないことになります。そうだとしたら、あまり無理な活動をしても意味はなかったことになります。

もしも犯人が次の犯罪を考え、連続犯罪を狙っているとしたらどうでしょうか。連続殺人を狙う犯人の多くは、狡猾です。捕まらないように工夫します。だから、特別な見廻り活動が行われている間は静かにしています。そして、地域住民の皆さんが疲れ、油断し、特別な見廻り活動を縮小したとき、やめたときに、犯人は再び犯行を実行するでしょう。

だから、参加者が疲れ果てるような無理な見廻り活動ではあまり意味がありません。あまり無理をせず、続けることが可能な活動でなければなりません。たとえば、玄関前を掃除するなら、登下校の時間にしましょうといった呼びかけなら、無理なく続けることができるでしょう。

地域に見慣れない人がいたら、積極的に声をかけようといった活動なら、続けることができるでしょう。

■子どもの不安を高める大人たち

子どもが犠牲になるような犯罪は、何としても防ぎたいと思います。登下校の時間に、あちこちに地元の人が立ってくださるのは、ありがたいことです。ただし、ぜひ笑顔で立っていただきたいと思います。明るい声えで挨拶していただきたいと思います。

犯人に危害を加えられなくても、不安になっている子どもたちが、さらに怖い顔、暗い声の大人たちに囲まれれば、心が苦しくなります。犯人から子どもを守るだけではなく、子どもに安心安全の環境と雰囲気を与えましょう。

■防犯カメラの限界

防犯カメラは、確かにカメラ付近の犯罪を減少させます。ただ、犯罪を0にするわけであはありません。減らすだけです。さらに防犯カメラによって減少する犯罪は、主に計画的犯罪です。そして逮捕されることを恐れる犯罪者だけが防犯カメラを嫌がります。計画的ではない犯罪や、逮捕されることを恐れないような犯人には、あまり効果がありません。

たとえば万引き防止に関する研究によると、防犯カメラによって少年の万引きは減りますが、高齢者の万引きは減りません。防犯カメラの意味を理解していなかったり、警察に捕まることを恐れていない高齢者もいるためだと考えられています。

また、防犯カメラは犯罪全体を減らすのではなく、犯人を防犯カメラのないところに追いやるだけだとする意見もあります。

■偏った防犯

子どもには、様々な危険があります。不審者に殺害される子どもよりも、親に殺される子どもの方がずっと多いのです。また、犯罪被害よりも交通事故被害の方がずっと日常的でしょう。

衝撃的な犯罪報道があれば、誰でも犯罪被害防止に敏感になりますが、その一点だけに集中するのはかえって他の危険を増すことにもなるでしょう。

子どもの安全を、トータルに守りましょう。

■防犯マップ(「地域安全マップ」)の正しい使い方

防犯マップ(地域安全マップ)は、街の中の危険な場所をチェックするものです。危険な場所とは、犯人から見て「入りやすく見えにくい場所」です。子どもと大人が一緒になって街を歩き、危険な場所をチェックしましょう。

ただし、防犯マップづくりは子どもを怖がらせるために行うわけではありません。子どもが街を恐れ地域の人への不信感を募らせるのは、子どもの健全育成にとってマイナスです。

街を歩くことで、街を知り、街を愛しながら、危険な場所を探しましょう。

防犯マップづくりの時に、よく間違うのが、不審者目撃地図を作ってしまうことです。どこそこで不審者が目撃されたといった情報を集めても、防犯マップとしての意味はあまりありません。

『子どもは「この場所」で襲われる』(小学館新書)小宮信夫 著

■防犯ブザー

現代では、多くの子どもが防犯ブザーを持っています。ただし、突然の危機的状況で、防犯ブザーを鳴らすことができないこともよくあります。また、連れ去り事件の半分は、子どもがだまされてついていっています。この場合は、防犯ブザーはよくに立ちません。

■「怪しい人について行くな」

子どもを狙う犯人の多くは、怪しい人には見えません。むしろ子ども扱いがうまく、すぐ子どもと仲良くなる犯人もいます。子どもに「イカのおすし」(いかない、乗らない、大声、すぐ逃げる、知らせる)の言葉を教えるだけでは不十分です。

子どもを犯罪から守る方法:「イカのおすし」の活用法>

■子どもたちを守るために

大きな事件事故が起こると、町は異様な雰囲気に包まれます。大人たちも浮き足立ちます。子どもの被害を防ぐことは大切ですが、大人が冷静さを失わないようにしましょう。

大きく報道される事件事故で、コミュニティーが破壊され、数十年にわたって町の行事が行われなくなることも起きます。新たな犯罪被害者が出ることを防ぐ努力だけではなく、町全体、学校全体守ることが、長期的に見て子どもを守ることにつながるでしょう。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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