高校生雪崩死亡事故と心のケア:個人とスクールトラウマの癒しと私たちの役割

(写真はイメージ)(写真:アフロ)

悲しい出来事で、関係者一同が傷ついています。私たちがいますべきことは、何でしょうか。

■栃木県那須雪崩事故

栃木県那須町で3月27日、雪崩が発生。登山講習会に参加していた県内の7高校の登山部員と引率教員の計48人が巻き込まれました。

講習会に参加した大田原高校の生徒7人と教諭1人の8人が死亡。このほか、生徒33人と教員7人の計40人がけがをしました。

■死亡雪崩事故の衝撃

小中高の学校で生徒や教師が死亡することは、大きな衝撃です。病気や交通事故でも、学校にとってはショッキングな出来事です。今回は、8人もの生徒と先生が亡くなりました。

原因は雪崩という自然災害とは言っても、教員による指導中の事故であったために、「人災か」という報道もあります。警察も、業務上過失致死の容疑で調べを始め、大田原高校の家宅捜査も行われています。

死亡者が出なかった学校ですら、大きく動揺しています。たとえば参加校の一つであり生徒1名と教員1名が入院した真岡高校では、教諭一人が二十八日早朝に同校へ戻っものの「憔悴(しょうすい)しきっており、自宅へ帰って静養してもらった」。入院せず自宅に戻った生徒に対しては、担任が家庭を訪問して様子を確かめ、同校の教頭は「メンタルケアが大切。カウンセラーの派遣を県教委に要請した」と語ったと報道されています。

■学校全体への心のケアの原則

死亡事件事故などが起これば、緊急の全校集会が行われるでしょう。その時の原則は、校長が冷静に正直に今現在わかっている事実を生徒に伝えることです。その後で、各教室に戻り、一人一人の顔を見ながら担任が説明をしていきます。

担任は、特に大きく動揺している生徒のケアをします。事件事故の発生前から不安定な生徒は要注意です。また、死亡した生徒と特に仲の良かった生徒にも手厚いケアが必要です。

校長には校長の役割があり、担任には担任の役割があります。しかし、学校の責任が問われるような場合には校長が矢面に立たされることもあります。そうなってしまうと、校長がマスコミ対応で疲れ切ってしまい、学校全体でのケア活動の指揮が取れなくなることもあります。

教育委員会やPTAや他の教員が校長を支え、本来の校長の仕事をできるようにしなければなりません。そして校長が担任を支え、担任が中心となって生徒を支えます。さらに学年主任や養護教諭やスクールカウンセラーなどが、側面からサポートすることになるでしょう。

また、動揺している保護者への支援も忘れてはいけません。それは、ご遺族への深い配慮であり、また一般の生徒の保護者への広いサポートの両方です。

■緊急時の心のケア

心のケアというと、すぐに精神科医とか心理カウンセラーと言われることがありますが、緊急時には違います。まずは安心安全です。マスコミが集まり、ワイドショーのヘリコプターが飛び交い、うっかりすれば野次馬が集まりうわさ話や罵声が飛び交うようでは、安心安全とは言えません。

しずかで落ち着いた場所、いつもの生活ができて、信頼できる友人や先生がそばにいてくれること。校内でも、登下校時も、いつもの生活ができることが必要です。それが、心のケアの第一歩です。

その上で、特に強い精神症状が出るようなことがあれば、専門家によるサポートも必要でしょう。また、専門家が先生たちに必要な情報を伝え、教職員を支えることも大切です。

子どもを親や担任の先生が支え、その親や担任をさらに周囲の人間が支えます。

■今回のケースでは:何重もの苦しみ

7人の生徒と1人の先生が亡くなった。それだけでも、大きな心理的ダメージです。さらに、学校が責められ、家宅捜査までされています。それは、必要なこととは言え、生徒たちの心は友達との死別に加えてさらに傷ついていることでしょう。捜査は必要です。同時に、生徒への配慮も必要です。教師や保護者がしっかり生徒を支えなくてはなりません。

登山講習に参加した生徒たちは、自分たちも被害にあい、ある生徒は怪我を負いました。そうでない生徒も、死ぬような恐怖を味わいました。目の前で友人や先生が亡くなりました。そのあとの大混乱を経験しました。今も、捜査と大報道が続き、ゆっくりと友人の死を悲しみ、自分の心を癒す余裕もないでしょう。

これは、心の傷が深く長く続き、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になりやすいケースです。

同じような死の恐怖でも、自分だけではなく悲惨な現場を見てしまったことがPTSDにつながります。さらに、事件事故の後でゆっくりできずその出来事を思い出さざるを得ない状況が続くことも、PTSDを発生しやすくします。

また、子どものPTSDを防ぐためには、周囲の大人の落ち着きが必要ですが、今回のようなケースでは、大人たちも大きく動揺していることでしょう。

■サバイバーズ・ギルト

登山講習会から戻った生徒たちの中には、サバイバーズ・ギルトを感じる生徒もいるでしょう。サバイバーズ・ギルトとは、事件事故や戦争、災害などから奇跡的に生還した人が、他の人が亡くなったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感のことです。

周囲は決してそんなことを思っていないのですが、なぜ自分だけ助かったのか、なぜ他の人を助けられなかったのかと、自分を責めてしまいます。

彼らの考えを単純に否定したり、単純に励ますのではなく、感情を受け入れた上で、生きる力を引き出していかなくてはなりません。

■スクールトラウマの癒し

学校で問題が起こり、大きく報道されれば、学校全体が傷つきます。これを、スクールトラウマと言います。在校生はもちろん、新入生たちも不安を感じていることでしょう。その学校の生徒だということで、好奇の目で見られるのではないかと生徒たちは怯えます。

もちろん、事実は解明されなければなりません。生徒の死は、耐えられないほどの悲しみです。しかしそれでも、新年度を迎えた生徒たちは授業や部活に励まなければなりません。

学校全体が深く悲しみ、そして悲しみを乗り越え、もう一度母校の誇りを取り戻すことが、スクールトラウマの癒しです。

■私たちがすべきこと

警察には警察の役割があります。マスコミにはマスコミの、私たちには私たちの役割があります。学校不祥事が起きると、しばしば全国から学校に文句の電話が殺到し、教職員の仕事を妨害し、心を痛みつけますが、それが私たちの役割ではありません。

ご冥福を祈り、ご遺族に共感し、事実解明と類似事故防止を後押しし、そして残された生徒たちが1日も早く元の生活に戻れるように支援すること。それが、私たちの役割ではないでしょうか。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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