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健康な自己愛と病的な自己愛:福祉施設襲撃事件容疑者精神鑑定から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■鑑定結果は自己愛性パーソナリティ障害

神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が刺殺され、27人が重軽傷を負った事件で、殺人容疑などで送検された元職員植松聖(さとし)容疑者(27)の鑑定留置が20日、終了した。

捜査関係者によると、植松容疑者は精神鑑定の結果、自分を特別な存在と思い込む「自己愛性パーソナリティー障害」などと診断された。同障害は判例上、善悪の判断は可能で刑事責任能力があるとされており、検察側はこの鑑定結果を踏まえ、植松容疑者を勾留期限の24日までに起訴するとみられる。

出典:元職員「自己愛性パーソナリティー障害」と鑑定 読売新聞 2/20

■個性とパーソナリティ障害

人には、個人差があります。気の長い人や短い人、おしゃべりな人や、おとなしい人。個人差はあって当然です。個性は大切です。しかし、性格の偏りが個性の範囲を超えて、自分や周囲が困るようになると、パーソナリティ障害と呼ばれます。

パーソナリティ障害は、大きな性格の偏りがあるとはいえ自分の行為が法に反しているかどうかはわかりますし、自分の行動を自分で止めることもできるとされるので、記事責任能力はあるということになります。

■自己愛性パーソナリティ障害とは

自己愛性パーソナリティ障害者には、次のような特徴があります。

自分が重要であるという誇大な感覚、限りない成功の追求、他者からの過剰な賛美の要求、特権意識、教官の欠如、強い嫉妬心、尊大で傲慢な態度、相手を不当に利用しようとし、特別な人間だけが自分を理解してくれるなどと思い込みます。その一方で、同時に傷つきやすく非常に脆い面も持っています。

失敗や挫折、他者からの批判などを受けけて彼らの自己愛が傷つくと、プライドが失われて失敗や批判を受け止めることができず、攻撃的に他者を侮辱するなどの行為が見られることもあります。

彼らは、一見自信満々に見えますが、本当は自信がないのです。

■健康な自己愛と病的な自己愛

自分を愛することは大切です。自分を愛せないことが心のアンバランスを生み出します。しかし、健康的な自己愛と病的な自己愛は、違います。

普通の健康な的な自己愛は、自分には欠点もあるけれども価値のある存在だと感じ、同時に他のみんなも価値ある存在だと感じます。ところが、病的な自己愛者は自分だけが特別に価値があり、他の人間には価値がないと思い込みます。

他者の価値を認められず、自分だけが高い評価を求めることによって、人間関係にトラブルが生じます。自己愛が満たされているうちは良いのですが、満たされなくなると不適応なことをしてしまい、さらに周囲からの愛を失う悪循環になるでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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