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暴れている精神障害の患者と警察官保護:患者のために家族のためにみんなのために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(ペイレスイメージズ/アフロ)

警察も活用しよう。私達の偏見差別を減らそう。

■33歳精神病の次女の手足縛り監禁した疑い、次女死亡で両親を逮捕

次女(33)の手足を粘着テープで縛り、監禁したとして、滋賀県警は3日、滋賀県近江八幡市の無職の男(70)とその妻(69)を逮捕監禁の疑いで逮捕し、発表した。次女は同日午後、死亡が確認され、~夫婦は調べに対し、暴れたために縛ったと供述しているという。

出典:33歳次女の手足縛り監禁した疑い、両親を逮捕 滋賀 朝日新聞デジタル 2/4(土)

大変悲しい出来事です。家族の精神の病で悩んでいる方々はたくさんいます。最悪の事態は、何とか避けなくてはなりません。

■精神病の人が興奮して暴れていたら

精神病の人がみんな興奮して暴れるわけではありませんが、このよう場合もあります。興奮して暴れれてるような場合は、家族が縛り付ける必要はありません。そんなことを無理にすれば危険です。家族が対処できなければ、110番通報がもっとも適切だと思います。

精神保健福祉法によって、警察官は、「異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者」を保護することになっています。「自傷他害のおそれあり」というものです。

法律で義務付けられていますから、そうしなければなりません。逮捕ではなく「保護」です。保護した後は、病院へ連れて行きます。地域によりますが、精神科救急のシステムで精神保健福祉センターが中心となり、当番病院などに行くことになります。

病院へ行き興奮したままなら、医師が薬を使って興奮を鎮めます。そのまま寝てしまうこともありますし、落ち着くこともあるでしょう。どちらにせよ、そこですぐに自宅に返されることはないと思います。その日は入院になることが多いでしょう。家族がつきそっているならば、とりあえず「医療保護入院」の形式が多いかと思います。

警察官は、病院へ連れてきて終わりではなく、その人が今日どのようになるかが決まるまで病院に待機しています。

さらに引き続き入院が必要な場合は、精神保健福祉センターが入院先をさがします。

■様々な問題

まず、何が「自傷他害のおそれ」になるかです。奇妙なことを言っているといった程度では、だめでしょう。ナイフを買ってきたでもだめだと思います。

何とか病院へ連れて行きたいのに、家族ではつれて行けず困っている人たちも大勢います。病院の人が来て、連れて行ってはくれません。その点では、心配に感じる程度でも警察がが連れて行ってくれれば良いのですが、しかしそうなると今度は患者さんの人権問題にもなります。そこで「自傷他害のおそれ」が必要になります。

親が縛りつけなければならないと感じるほどに暴れているなら、おそらく「自傷他害のおそれ」で保護してもらえると思います。警察官は、そのような人を保護する義務があり、私達はその行政サービスを利用する権利を持っています。

裸足でふらふら街を歩いているといった場合も、ケガをする危険性などがありますから、おそらく「保護」されるでしょう。

もちろんいずれも、「精神障害のため」と思われる場合です。

警察を呼ぶことを躊躇することもあるでしょう。お気持ちはわかります。しかし、警察に逮捕をお願いするわけではありません。あくまでも「保護」です。世間体を気にすることもあるでしょう。世間体は無視できません。けれども、世間体よりも患者さんとご家族の健康と安全の方が大切ではないでしょうか。ともかく、最悪のケースだけは避けなければなりません。

ある意味、警察官に保護されるのは、入院治療を受けるチャンスなのです。本当は、そんなことになる前に治療や入院ができれば良いのですが。

地域によっては、救急車を呼ぶと対処してくれるところもあると聞いています。ただし、救命救急が仕事である救急隊の本来の仕事ではありませんから、断られるほうが当然なのだと考えましょう。

「黄色い救急車」が連れていくといったことは、もちろんただの都市伝説です。

■私達の理解

自傷他害のおそれがあれば、警察官は保護してくれます。ただし、もちろん様々なことがらが絡むでしょう。警察と病院だけで解決できる問題ではありません。そんなに簡単ではないというご意見もわかります。精神科救急の体制も、地域によって異なります。

精神科医療の進歩、行政対応の改善が必要です。さらに、私達みんなが正しい情報を持つことが必要です。精神疾患に関する偏見差別と無理解が、患者と家族をさらに苦しめています。

偏見差別と無理解の中で、精神科を受診することが遅れることはよくあります。緊急時の対応を躊躇することにもつながるでしょう。家族が患者を支え、私達社会が家族を支えなければなりません。

*30年ほど前に、東京都精神科救急に関わっていました。そこでの具体的なお話は守秘義務があって話せませんが、今回の事件報道を聞き、とても残念なことだと感じています。それでも、全国各地の精神科救急システムは、整備されてきました。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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