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車掌はなぜ制服を脱ぎ飛び降りたのか(2):質問疑問にお答えして

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:本件とは関係ありません)(写真:アフロ)

この事件では、多くの方々が車掌に同情的だっただったようです。それだけ多くの人が、理不尽な人間関係に頭を悩ましているのでしょうか。

■車掌はなぜ制服を脱ぎ飛び降りたのか(心因反応?)

前の記事、「車掌はなぜ制服を脱ぎ飛び降りたのか」は、Yahooニューストップページにも紹介され、多くの方に読んできただきました。そして、様々なご質問、疑問もいただいています。今回は、その質問疑問にお答えしたいと思います。

■車掌を責めすぎている/車掌をかばいすぎている

「なにこの鉄道員が悪いみたいな記事。 そもそも問題は利用客にあるんじゃないの?」

「車掌に肩入れし過ぎてる」「鉄道職員は被害者って決めつけてない?」

多様な方向からのご意見をいただきましたが、同じ記事を読んでも、ある人は車掌を責めすぎだと語り、ある人は車掌をかばいすぎだと語る、正反対のご意見をいただきました(車掌を責めるなという意見の方が多くいただきましたが)。

私としては、車掌の行為はプロとしては不適切だが、しかし車掌個人を責めるだけではいけないと、前の記事で書いたつもりです。車掌を単純に責めてもいないし、かばいすぎてもいないつもりです。

突拍子もないことをする人がいると、世間は彼らを責めます。しかし、心理学的にはそれなりの理由があることも多いものです。心理学者やカウンセラーは、やたらと個人を責めません。

■「今回の行動は常識的には理解できません。」 →「いいえ、とても理解できる行動です。」と接客やクレームの受付をしたことがある人なら思います。

さらに、こんな意見も頂きました。

「車掌の行動を理解しようともしないで、なぜわざわざ「今回の行動は常識的には理解できません」と突っぱねるんだろう?この記事を読む鉄道職員が可哀想」。

「なぜそういう行動に至ったのかという事実関係を知りもせず、心理学者が「常識的には理解できない」と判断することが自分には理解できない。ひどい記事」。

客からの理不尽な行動に、激しい感情を出す人はいるでしょう。ただそれでも、客からどんなにひどいことを言われても、仮に殴られそうになったとしても、客の対応をしている最中ににも、突然叫んで3階の窓から飛び降りるでしょうか。今回の車掌は、高架線から8メートル下の道へ飛び降りました。

これは、常識的な行動ではないでしょう。ただ、恐らく特別な病気ではなく、特別弱いとか悪いとかではないだろと考え、車掌の行動を理解するために、心因反応による突発的行動に関して前回の記事では説明をしました。

■客が騒いでも我慢しろということか

プロとして我慢も必要でしょう。しかし、安全第一の観点から、時には乗客の行動を制止する必要もあるでしょう。そして、誰であれ、誰からも人権を侵されない権利はあると思います。

■乗客のことが一言も書いていない、問われるのは客のモラルじゃないのか?、え?車掌に絡みに行った客が悪くない?

報道では、車掌は乗客の対応をしていたとか、乗客と口論していたと伝えられていますが、どのような乗客たちが何をしたのかは、報道されていません。クレームをつけていたのだろうと推測はできるものの、情報が少なくて書けなかった面があります。

また、前の記事はストレスで突発的な行動をとる人がテーマでしたので、ストレスのもとに関する話題は書きませんでした。

そこで、ページを変えて、社会で問題化しつつ乗客の暴言暴力問題を取り上げました。

乗客はなぜ暴力を振るい暴言を吐くのか

■非難されるべきはそこまで追い詰めた乗客の方

乗客が何をしたのかは、報道されていないのでわかりません。噂はいろいろ流れていますが。また、車掌の行動の直接のきっかけは乗客とのやりとりだとは思いますが、心理的なストレスは、その前から少しずつたまっていたのかもしれません。

福知山線脱線事故でも、事故前の車掌への強い物言いが、事故発生の一つの要因にはなっていました。乗客の暴言暴力があれば非難されるべきですし、安全確保のために、職員と乗客との協力が必要だと思います。

■当人の診断をせずに結論を言う人間は全てペテン師

記事に書きましたように、結論を出してはいません。次のように書きました。

「報道された職員の状態を診断したり推測しているわけではなく、あえて広くあやふやな(心因反応という)概念を使って、一般的な心と行動の問題を解説しました。」

また、もし私が本人に会ったとしても、私は医師ではないので、医学的診断はいたしません。

今回は、事情がわからないので一般論でした。ただ、本人に会わず診断もしないし結論も出さないものの、ある種の判断をすることはあります。たとえば不登校引きこもりの子の親とお会いし、本人には会っていないものの、ある種の判断をして、対策を一緒に考えることはあります。

ネットやマスコミでは、本人に合わず詳細もわからないものの、心理学者として伝えるべきものはあると思っています。たとえば、誘拐監禁されていた被害者が、物理的拘束力が弱くても逃げないことがあります。世間では、なぜ逃げなかったと被害者を責めることがありますが、被害者保護のために、逃げられない理由を心理学的に説明することはあります。

<ネット上で、憶測、可能性、一般論を語るなら:岡山小5誘拐監禁事件から考える被害者保護>

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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