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災害で傷ついた子どもの心を守ろう:大丈夫、いつまでもは続きません:熊本地震での子どもの心のケア

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

今までの大地震以上に、大きく長く続く余震。熊本県の被災地からは、不安定になっている子どもの話が伝わってきます。泣いている子も、平気でいる子も、どちらもケアが必要な子です。理屈はわかっていても、子どもを抱きしめられない親もいます。

■子どもの不安と恐怖

大人なら大したことないことでも、子どもはとても怖がります。あなたが感じた以上の恐怖心を、子どもは感じています。

一見すると、あまりショックを受けていないように見える子どももいます。大人が深刻な顔をしているのに、のん気に遊ぶ子どももいます。それは、大人とは恐怖や不安の対象が違うからです。

子どもは、ともかく怖いのです。大人のように複雑なことや先々のことを考えて不安がることはありませんが、ともかく怖いのです。

大人は、余震が減っていくことも予想できますし、今いる建物の耐震構造なら地震が来ても大丈夫とも思えますが、子どもにはよくわかりません。とても怖がっている子どもがいます。

■子どもの心の傷の現れ方

小さな子どもほど、ストレスが体に現れます。吐き気、夜泣き、食欲不振、過食、吃音など、様々な不調が出ます(ただし、まず内科的な病気を疑い、その上で心の問題を考えましょう)。

少し大きくなると、ストレスが行動に現れます。赤ちゃん返り(退行現象)と言われる甘え、わがまま、小さな音や振動にも過敏になり怯えたり、親に反発したり、イライラしたり、無気力になったりもします。

ストレスが心に現れて、大人のように悩めるようになるのは、ある程度大きな子どもです。

■子どものPTSD

子どものストレス反応が強く長くなると、PTSDと呼ばれます。地震前から不安定な子がいたら、要注意です。あるいは、今地震のことしか考えられないとか、あまりに激しく地震を怖がる子も要注意です。

さらに、感情を表現できない子、優等生になってしまう子もまた、大人たちのケアが必要な子どもです。

がんばった被災地の子ども若者を守れ:熊本地震での心のケア

また、大きな出来事の後に、その出来事を思い出す出来事が続く時も注意が必要です。

余震が続く中での子どもの心のケア

■赤ちゃん返り・ストレス反応のとらえ方

様々な年齢の子どもが、赤ちゃん返りとか、子ども返りと言った対応現象を表すでしょう。大人だって、子どものようにわがままになったり、怯えたりもするものです。

このような子ども返り(退行現象)は、だいぶ有名になりました。下の子が生まれた時や、辛い出来事があった時に、よく見られることです。ただ、その知識はあるのですが、今の我が子がそうだとはわからない人もたくさんいます。

退行現象は、様々な現れ方をするからです。

ストレス反応も、地震のせいだとわかりやすいものとわかりにくいものがあります。小さな余震にも過敏に怯えるのは、地震のせいだとわかりやすいでしょう。でも、わがままや乱暴は、地震のせいだとはわかりにくいのです。

むしろいつも以上に叱ってしまうこともあります。しかし、これだけの大災害です。心や体に不調が現れるのも当然です。いつもと違うことが見られたら、地震のせいかもしれないと考えて、保護したあげることが必要です。子どもたちの行動を受け止め、慰めてあげましょう。

■いつまでもは続かない

退行現象だとは理解しても、それでもきつく当たってしまう親もいます。一つは、親のストレスがたまり、子どもの行動を受け止められない時です。もう一つが、この症状がいつまでも続くことへの不安です。

すっかり甘えん坊になった子、わがままになった子、この子がこの先もずっとこうだったらどうしようと思うと、厳しく接してしまいます。しかし、そんなことはありません。これは、地震による一時的なことです。

子どもたちに安心安全を与えてあげれば、必ずもとの元気で明るくしっかりした子に戻るでしょう。

■子どもに遊びを

子どもは遊びを通して癒されます。幼い子どもの中には、「地震遊び」をする子もいるかもしれません。楽しく遊んでいるなら、不謹慎と怒らずに、見守ってあげましょう。

避難所では、筋かにしないといけないでしょう。けれども、思いっきり遊べる場所も、作ってあげましょう。

■子どもにいつもの生活を

大混乱の中、子どもの心も体も不安定になっています。休ませたり、抱きしめたりが必要です。そして少し元気になれば、次はいつもの生活が必要になります。

いつも暴れまわって遊んでいる子には、走り回れる場所を。いつも静かに読書したり勉強したりしている子には、勉強部屋を。学校も早く始まるといいですね(すでに再開の予定は立っているようですが、まだ多くの避難者がいます)。

早く学校が始まると良いのは、勉強の遅れや親の都合だけの問題ではありません。いつものクラスメイトが集まり、いつもの教室で、いつもの先生といつものように遊んだり勉強したりする。これが、子どもにとっては大きな心のケアになるのです。

■親と先生を支えよう

学校の先生も、自らも被災しながら、授業再開の準備と避難所運営の両方で疲れているでしょう。早く学校が再開でき、いつもの元気な先生になってもらうために、先生を、学校を支えましょう。それが、子どもの心のケアにつながります。

子どものPTSDを予防するためには、親がどっしりと落ち着いていることが大切です。しかし、親も不安です。子どもをケアするために、親を支えましょう。子どもは、親といることが必要です。親に、その時間と心と体力の余裕を与えましょう。

避難所で、子どもと遊び、子どもの勉強する役割の人も素晴らしいと思います。子どもを支える、子どもを支える人を支える。みんなの協力体制の中で、子どもを守り育てましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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