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やせ我慢の心理学:甘利氏辞任は「やせ我慢」「美学」「政治家としての矜持」?

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
甘利大臣に現金供与疑惑 責任をとり辞任表明(写真:ロイター/アフロ)

■「甘利氏、辞任したのは「やせ我慢の美学」 内閣府であいさつ」(産経新聞)

金銭授受疑惑の責任を取って辞任した甘利明・前経済再生担当相が29日午前、内閣府職員の前であいさつし、「皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ない」と謝罪した上で、「責任の取り方に対し、私なりのやせ我慢の美学を通させていただいた」と述べた。

出典:甘利氏、辞任したのは「やせ我慢の美学」 内閣府であいさつ 産経新聞 1月29日

TPPの会議で活躍し、外国からもタフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)と言われた甘利氏が、金銭トラブルで辞任しました。大方の予想に反する辞任でしたが、その記者会見や辞任あいさつで注目された言葉が、やせ我慢、美学、そして政治家としての矜持(きょうじ)です。

■やせ我慢とは

やせ我慢とは、国語辞典的には、「無理に我慢して、平気を装うこと」です(goo辞書)。人は、なぜこんなことをするのでしょう。

人は、自分の心を知ってほしいと願います。同時に、知られたくないとも願います。お腹がすいているとき、誰かが察してくれて、食事を用意してくれればうれしいでしょう。

でも、自分の心の中を知られることは、自分の弱さや真実の姿を見られる恥ずかしさにもなります。空腹であることや、トイレに行きたいことを、人に知られないようにすることは、良くあることでしょう。

本当はとても疲れているのに、やせ我慢して元気なふりをすることもあります。敵に自分の疲労や痛みを知られてしまえば、そこを攻撃されるかもしれません。

自分の弱さを知られることは、今後の自分の活動にも悪影響があるかもしれません。だから、悲しくても人前では涙を流しません。年をとっても、若いころと同じで疲れなどないと、人にはアピールしたくなります。

また時には、相手のために我慢することもあります。周囲に迷惑をかけたくないので、空腹も疲労もお金がないことも、人には気付かれないようにすることもあるでしょう。これは、相手のための、やさしいウソです。

■やせ我慢の良いところ悪いところ、そして「美学」

「年寄りの冷や水」などと言われるように、無理をしすぎて体調をくずしては困ります。「多くの男性は、人に弱みを見せられないという弱さを持っています。誰にも相談できずに、自殺してしまう男性もいます。男女を問わず、まじめな善人やがんばりやは、いつも明るく元気で弱さを人に出せません」(「弱さを出せない弱さをもつ人のために:その理由と解決策」Yahoo!ニュース個人有料)。

相談して、ぐちをこぼし、一緒に怒ったり泣いたりできれば、心は軽くなるのですが、なかなかそれができない人もいるでしょう。我慢もほどほどにしましょう。

しかし、我慢がいつも悪いわけではありません。まったく我慢できない人も困ります。我慢することで、強くもなれるでしょう。我慢している人の姿は、美しくもあります。汗を流して働いている人、歯を食いしばって試合で闘っている人。かっこいいです。

このような人を見て、私たちは「かっこいい」と感じます。だから、自分もかっこよくなろうとします。そこで、我慢をします。自分なりの「美学」ですね。

優勝は美しい。でも、たとえ最下位でも最後まで懸命に走りぬくことも美しいでしょう。何を美しいと感じるかは、人により、文化により、場合によって異なります。

惜しまれながら引退するのが美しいとき。最高齢になってもがんばるのが美しいと感じるとき。いろいろです。この先、国会で責め責められ続け、党にも迷惑をかけるなら、すっぱりと辞任するのが美しいことなのだと考える人もいるでしょう。

ただし、それはやせ我慢の部分もあるのですが。

■「正直に言えばやせ我慢」・「政治家としての矜持」

甘利氏は、正直に言えばTPPの署名式には出席したかったと述べています。そして、やせ我慢を自分でも認め、政治家としての矜持とも語っています。

矜持とは、「自分の能力を優れたものとして誇る気持ち。自負。プライド」です(goo辞書)。

自分の弱さを出さないのがやせ我慢ですが、やせ我慢を認める人もいます。弱さを出せるのは、一つの強さです。その強さを生んでいるのが、おそらくご自分の政治家としての自信、プライドなのでしょう。

「プライド」は、良い意味にも悪い意味にも使われます。プライドが、傲慢さにつながれば悪いことです。プライドが自信(セルフ・エスティーム:自尊感情やセルフ・エフィカシー:自己効力感)につながれが、良いことです。

今回の金銭トラブルのことは、多くの批判を浴びています。しかし、これまでのTPPの折衝に関しては、多くの人が高く評価することでしょう。ご本人としても、自負があり、達成感もおありなのでしょう。

また同時に金銭トラブルに関しては、政治家として「不徳のいたすところ」となり、潔いやめ時を考えたのでしょう。

だからこそ、早い段階での辞任の決断に至ったのだと思います。そして、辞任にあたってのこのセリフです。

「安倍内閣はまだまだ続くし、続かせなければならない。日本が解決しなければならない課題はすべて解決する、その使命を、安倍内閣と一緒に果たしていただきたい」

強く、前向きに感じるセリフですね(その前に金銭問題の説明責任を果たせという意見もあるでしょうが)。

今回の辞任に対する評価は様々です。Yahoo意識調査の「甘利経済再生相の辞任は妥当?」によれば、辞任は妥当48%、辞任する必要はなかった46%と、拮抗しています(1/29.17:30現在)。

辞任の記者会見やあいさつの内容も、世論に影響を与えているでしょう。やせ我慢も美学も矜持も、古いと感じる人もいれば、共感できるという人もいるでしょう。

政治家の言動は、非常に計算された高度に政治的なものもありますが、その背景には個人としての心の問題もあるのだと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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