宿題代行は児童虐待?:法的問題、心の問題、子どもを守るとは:子育ての心理学

(写真:アフロ)

■宿題代行

宿題代行が流行っています。成長産業です。特にこの数年、毎年夏休みになると、話題になりますね。

自由研究や工作は、1件で5千~1万円。読書感想文などは、原稿用紙1枚3千~5千円。宿題ドリル1冊5千~1万円といった料金設定です。

昨年2014の夏には、尾木ママ(尾木直樹氏)が、夏休みの宿題代行サービスを「れっきとした『詐欺罪』です!!」と語り、炎上騒ぎになりました。これは、日常会話で使われる「詐欺」という言葉と、法的な「詐欺罪」との違いが原因の一つでしょう。

■宿題代行は犯罪?違法?

何人かの弁護士さんが、回答しています。

宿題代行は、理屈の上では「業務妨害」で法的責任を問える可能性があるが、実際にはできないだろうと語る人もいます(小中学生の宿題を請け負う「宿題代行業者」 法律的な問題はあるか?:弁護士ドットコム)。

宿題代行は、詐欺でもなく、文書偽造でもなく、「他にも該当しうる犯罪は見当たりません。宿題代行は、犯罪にはならないといわざるを得ません」との意見もあります(小中学生に広がる「宿題代行業者」…違法性はないの?:シェアしたくなる法律相談所)。

子どもの宿題とは違いますが、大学生の卒業論文代行には、こう述べている弁護士さんもいます。

「卒論代行サービス業者と依頼した学生について、『私文書偽造罪』の共犯が成立すると、法的に解釈することが可能でしょう」(学生の代わりに業者が書く「卒論代行サービス」 利用したら「法律違反」になる?:弁護士ドットコム)。

法的にはともかく、たとえば大学の先生が書いた卒業論文も修士論文も博士論文も、みんな別の人が書いたものだとわかったら、大学や世間はそれを許すでしょうか。でも子どもの宿題なら、問題なしでしょうか。

法的には、微妙な意見の差はあるようです。ただ、法律は最小の倫理道徳ですから、違法でなければ何をしても良いと子どもに教える親もいないでしょう。

■ニーズがあればよい?

学校では、以前よりも自宅学習に力を入れえいるように思います。何とか、自宅学習の習慣を身につけさせようとしていると思います。ただ夏休みの宿題自体は、以前よりもむしろ減っているでしょう。しかし、宿題代行へのニーズは増加しているようです。

宿題代行には、道義的問題があると感じる人は多いでしょう。テレビの番組でも、ネット上でも、批判はあります。

「批判する意見も多いですが、悪いことをしていると思うことはありますか?」という質問に対して、業者側は「まったくありません。ニーズがあるからやっているだけです。」と回答しています(宿題代行業者「詐欺批判はまったく的外れ」 受験過熱でニーズはさらに増える?:Business Journal)。

同様の回答は、テレビのインタビューでも聞かれます。しかし、「ニーズがあるのだから良い」と言ってしまえば、法に反しなければ何をやっても良いことになってしまいます。そのようなサーピスを子どもに利用させるのは、どうなのでしょう。

■宿題を手伝ってはいけない?

では、宿題を手伝う作業は全部だめなのでしょうか。

宿題は、もちろん本来自分でやるものでしょう。しかし、実際は親が手伝うこともあるでしょう。手伝い自体が悪いわけではありません。アニメ「サザエさん」では、夏休みの終わりに波平さんが鉢巻をしてカツオ君の宿題を手伝うといった様子が、何度も登場しています。

いったい何を手伝っているのかは、よくわかりませんが、夏休みの宿題ドリルを手伝っているように見えます。夏休みの読書感想文や、工作を、まるごとお父さんが作ってあげることはしていないように見えます。

そしてもちろん、カツオくんは、お父さんにずいぶん叱られています。「サザエさん」が、違法なことや不道徳なことを勧めているわけではないでしょう。このシーンに関する世間からのバッシングも、聞きません。

■宿題を提出する子どもの心

カツオ君は、もしかしたら、「昨日は夜中まで大変だった。ちょっとお父さんに手伝ってもらった」と友達には語るかもしれません。

では、代行業者に作ってもらった宿題を提出するとき、子どもたちはどう思っているのでしょうか。後ろめたさや、良心の呵責(かしゃく)はないのでしょうか。まったくないとしたら、そのこと自体問題です。

さすがに、先生にも友達にも言えないでしょう。友人から「宿題大変だったね」とか「すごく上手だね」などと話しかけられたら、どうするのでしょう。何とか嘘をついて調子を合わせるのでしょうか。子どもに嘘をつかせたり、心理的に追い詰めるようなことをしても、良いのでしょうか。

すばらしいできばえの宿題を先生にほめられたり、秋の文化祭で展示され、金賞をもらったりしたら、どうするのでしょう。どこまで嘘をつき続けるのでしょうか。

宿題業者は、あまり上手になりすぎないように、子どもが作ったと見えるようにするようですが、「賞をとらせてほしい」という無理な依頼もあるそうです。

■宿題代行は児童虐待?

もちろん、法的な意味の「児童虐待」ではありません。でも宿題代行によって、子どもに嘘をつかせることになったとしたら、それは子どもに害を与えることになります。子どもを苦しませることになります。子どもが苦しまないとしたら、平気で嘘をつける子を育てていることになります。

昔から、親に手伝ってもらうこと、友達のノートを見せてもらうことはあります。でもそれは、あくまで子ども自身が主体でしょう。カツオくんのように、子ども自身が頭を下げて、叱られたり、恥をかくことを覚悟で、頼むことになります。

でも宿題代行は、ほとんどが親主体でしょう。子どもは何もしなくても、親が全てをやってくれます。これが、子どもを守ることでしょうか。

子どもは、苦労しながら、走り、登り、作り、学びます。失敗して落ち込み、そこから立ち直ることも学びます。でも、そこにいつも親が登場して、子どもを運んであげて、代わりに作ってあげれば、子どもは楽でしょうが、苦労することで得られる成長や達成感を奪われることになります。

子どもから苦労を取り去りすぎることは、殴る蹴るの虐待ではありませんが、結果的に子どもの力を奪ってしまう真綿で首を絞めるような「虐待」です(こころぎふ臨床心理センターの長谷川博一先生は、子どもに楽をさせすぎることを「やさしい虐待」と呼んでいます)。

あまり杓子定規なことを言うつもりはありません。ある芸能人は、お金持ちの家だったらしく、宿題の作品はプロを雇って作ってもらっていたと、テレビで語っていました。多くの人が、宿題を手伝ってもらった経験があるでしょう。

しかし宿題代行が、当然のように普通に利用されることは、やはり子どもの教育にとって望ましいこととは思えません。子どもを守り育てたいと願っているなら、もっと別の方法があるはずです。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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