川口祖父母殺害事件の少年に懲役15年:少年は「貧困」「居所不明児」そして「学習性無力感」だった

(イメージ写真)
■祖父母を殺害た強盗殺人罪の18歳少年に懲役15年の判決
少年は今年3月、埼玉県川口市のアパートで祖父母の小沢正明さん(73)と千枝子さん(77)を刃物で刺して殺害した上、現金などを奪った強盗殺人などの罪に問われている。~
「母親の浪費癖により、小中学校にも行かせてもらえなかった」などとし、「母親に『殺してでも』という強い言葉で祖父母からの借金を執ように迫られ、最終的には本人が殺害を決断しているとは言え、母親の養育や母親の言動に大きく左右されたものだ」として、無期懲役の求刑に対して懲役15年の判決を言い渡した。
強盗殺人は、非常に重い罪です。しかし報道を見ると、単なる金目当ての強盗殺人ではなく、非常に劣悪な環境に育ち、今回も「殺してでも」金を取って来いと母親に強制された結果でした。母親は、強盗罪に問われています。
今回、少年への判決は、無期懲役の求刑に対して懲役15年の判決でした。
■少年は「居所不明児」だった
少年が社会問題化している「居所不明児」として学ぶ機会を奪われ、暴力やネグレクトなど虐待を受けてきた生い立ちが浮かんだ。公判で裁判官が「大人は救いの手を差し伸べられなかったのか」と発言する一幕もあった。~
2~3カ月間は静岡の小学校に通った。その後、住民票を残したまま埼玉に戻り、小学5年からは学校に通っていないという。
日雇い仕事で義父に収入がある日は3人でラブホテルに宿泊し、仕事がない日は公園で野宿した。ささいなことで義父に殴られ、前歯が4本折れたこともあったという。
少年は、社会から見えなくなっていた存在でした。義務教育も受けていないのに、救いの手は差し伸べられませんでした。
この少年も「子どもの貧困」の一事例です。経済的な貧困に加えて、親たちの心の貧困と人間関係の貧困の犠牲者とも言えるでしょう(「学校現場で感じる子供の貧困と格差」Yahoo!ニュース個人:碓井真史)。
■学習性無力感
精神鑑定した医師は「少年は親の言うとおりにするしかない『学習性無力感』の状態にあった」と指摘したということです。
25日の判決後に会見した、少年側の松山馨弁護士は「少年は母親の言うことを聞かないと、自分は捨てられてしまうという観念にかられていた。自分のような存在をつくってはいけないと話しており、親族だけではなく、周りの社会が彼の存在に気付いて手を差しのべるような仕組みが必要だった」と話しています。
「学習性無力感」とは、どんなに努力しても何も良いことはないと繰り返し経験することで、自分は無力であると感じてしまっている状態です。
今回の裁判では、祖父母を殺害し、金を奪った事実は争っていないようです。問題は、情状面であり、心理面でしょう。
恵まれない環境、母親の強制ということだけでは、少年の心理状態を説明しきれないのかもしれません。鑑定医、弁護側としては、通常の判断、行動ができない心理状態だったのだと主張したいのでしょう。
精神鑑定の結果として出てきているように少年が学習性無力感だったのどうかは、意見が分かれるかもしれません。裁判所としては、マインドコントロールなどと同様に、簡単にはその概念を受け入れないでしょう。
少年が犯した重い罪は、環境がどうであれ、否定できません。殺人犯を安易に擁護できません。しかし、少年の犯行を形式的に強盗殺人と見るだけではなく、精神医学、心理学的に探っていくことも、重要なことではないでしょうか。
少年側の弁護士は、即日控訴しています。