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増え続ける「高齢者の犯罪・窃盗・万引き」の犯罪心理:犯罪の理由と防犯対策

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■高齢者犯罪の増加

高齢者の犯罪が増えています。

65歳以上の高齢者による窃盗事件が増加している。先日公表された平成26年版の犯罪白書によると、昨年1年間の検挙者は3万4060人。6年の4・5倍に上り、伸び率は社会全体の高齢化のペースをはるかにしのぐ。白書は「少子高齢化の進展のみでは説明ができない」と指摘、“不可解な現象”として取り上げた。

出典:増え続ける「高齢者の窃盗」 還暦をすぎて、なぜ万引を? 産経新聞 11月25日

犯罪白書によると、次のように記述されています。

「高齢者の検挙人員は、他の年齢層と異なり、増加傾向が著しく」

「一般刑法犯全体と比べて、高齢者では窃盗の割合が高いが、特に女子では、約 9 割が窃盗であり、しかも万引きによる者の割合が約 8 割と際立って高い。」

高齢刑法犯の性別は、男が 7割、女が 3割ですが、こんな調査もあります。

「(高齢者の)窃盗事犯者の犯行動機・原因について、主なもの三つまでを調査したところ、高齢窃盗事犯者において、男子では、「生活困窮」による者が74人(66.1%)、次いで「対象物の所有」目的の者が41人(36.6%)、「空腹」による者が21人(18.8%)であった」。

■高齢者犯罪増加の理由

高齢者の犯罪増加は、高齢者の人口増加だけでは説明できません。では、どのようなことが考えられるでしょうか。

1高齢者の活動の増加

自宅にいるだけでは、窃盗ができません。他人への傷害事件も起こせません。外に出て、人に会い、店に行き、ある程度の体力がある必要があります。元気な高齢者の増加は、高齢者犯罪に結びつくこともあるでしょう。

2非対面型の店舗の増加

昔ながらの対面方式の八百屋や魚屋ではなく、非対面型で商品をカゴにいれるコンビニやスーパー。こういう店が増えれば、年齢に関わらず万引きは増えます。さらに、「慣れていない」こともあるかもしれません。万引きできそうに感じてしまい、実行してしまうのが、少年や高齢者かもしれません。

3認知症等の増加

悪意はなく、認知能力が低下して結果的に万引きをしてしまう人もいるでしょう。本人も周囲も気づかないうちに「ピック病」になっている人もいるでしょう。

ピック病は、認知症を生じる脳の病気ですが、初期段階では日常生活はできるのに、万引き等をしてしまうこともあります。

4経済的悪化と孤独感

貧しさから日常品を万引きする高齢者もいます。本人が経済的に困難でも支援する人がいれば良いのですが、支援者が存在せず、福祉サービスも利用できない孤立した高齢者も増えているでしょう。

以前であれば、大家族であったり、町内会や村のコミュニティーがあって高齢者を支えたのに、コミュニティーの崩壊が進んでいます。経済的支援だけではなく、生活全般を支援できず、経済的困窮に加えて、精神的に不安定になっている高齢者もいるでしょう。

そのような高齢者達が、万引きや暴力事件、ストーカーなど、様々な事件を起こすのかもしれません。

高齢の窃盗犯をみると犯行の背景には「経済的不安」などのほか、とくに一人暮らしの女性で「疎外感・被差別感」が動機として多くみられるなど、周囲の働きかけがなく孤独感や孤立感を抱いて犯罪に走る例が増えたと考えられる。

出典:人口は倍増だが「犯罪者率」7倍 万引100円の対策費、1000万円超える税金 :産経ニュース2013.10.14

■累犯高齢者とお会いして

前科何犯という高齢者の方にお会いすることがあります。私には、みなさん「善人」に見えます。彼らは、社会的弱者であり、家庭でも職場でも上手くいかず、窃盗等を繰り返します。同情できます(被害者がいますから安易な同情はいけませんが)。

出所しても何の支援もない中、高齢者が1人で強く生きていくのは、簡単なことではないでしょう。

しかし、同情はできるものの、彼らが被害者意識をもっているかぎりは、更正は難しいでしょう。会社が悪い、嫁が悪い、世間が悪いと感じるのは、共感できる部分もあるのですが、そこに留まると更正できません。

社会や環境の問題は大きいのですが、本人としては、自分の行動は自分の責任と感じるところから、更正が始まるのでしょう。その高齢者を支援するのは、私たちの役割りだと思います。

犯罪心理学、臨床社会心理学的に考えると、犯罪者がまずしっかり罪意識を感じること、それでも自己否定はせず希望をもつこと、そして社会との絆を保ち、生活を立て直す具体的方策が必要だと思います。

罪悪感をしっかり感じつつ、自己否定はしないために、「外在化」という手法もあります。これは、子どもも高齢者も同じです(「妖怪ウォッチ「何でも妖怪のせい」は良いこと?悪いこと?を心理学的に解説:外在化の心理学」)。

■「カールじいさんの空飛ぶ家」と「おじいちゃんの口笛」

アニメ映画「カールじいさんの空飛ぶ家」。風船をいっぱい付けた小さなお家が空を飛びます。というと、お気楽なストーリーのようですが、実は楽々と空を飛ぶのは、ほんの少し。後は、おじいさんが必死になって家を引っ張ります。

カールじいさんは、妻に先立たれ、引きこもり、偏屈じじいになり、暴力事件まで起こします。そこに、不器用な少年が現れ、カールじいさんは、少年を守り悪を倒すために大冒険を始めます。

絵本「おじいちゃんの口笛」(ヨーロッパでドラマ化されたものを以前NHKで見ました)。この物語にも、偏屈じじいが登場します。このおじいさんも、おじいちゃんをほしがる少年と出会い、過去を振り返るだけではなく未来を見て今を生きる生き方を見つけます。

高齢者の犯罪防止のためには、刑罰や取り締まりを厳しくすることをまず思い浮かべるかもしれません。万引きしにくい店舗作りも、当然必要です。来店した高齢者に一声かけることは、高齢者を支援し、そして万引き防止にもなります。しかしそれだけではなく、高齢者が生きがいを持って生活できる社会作りこそが、必要ではないでしょうか。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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