「人」は支え合っていません。:武田鉄矢さんが金八先生の名言否定?とアイデンティティの心理学
先日、NHK「あさイチ」に出演しましたが(内容はこちら「きょうだいトラブルの心理学:兄弟は平等に愛してはいけない」)、今まで出演したNHKの番組の中で、リハーサル(打ち合わせ)が一番ゆるやかでした。自由な雰囲気のある番組ですね。
■「あさイチ」で武田鉄矢さんが「金八先生」の名言を否定?:「“人”という字は支え合っていません」
さて、11月21日放送「あさイチ」の「プレミアムトーク」コーナーにゲスト出演した武田鉄矢さんが、自由な発言をしてしまったようです。
有働アナの「ショック」はジョークとしても、たしかに、「え~!!」という人もいるでしょう。
ちなみに、武田鉄矢さんとは以前BSの対談番組でご一緒いたことがありますが、(地上波以上に)のびのび自由に発言していらっしゃいましたね。
「人」という漢字は、一人の人がしっかり大地に立っている姿(歩いている姿)です。
まあ、一般の講演や子ども向きの話の「言葉遊び」「文字遊び」として、人という字は支えあっているように見えるということで、支えあいの大切さを語るのは、何の問題もないでしょう。ただ、漢字の成り立ちは違うということです。
■人は一人で生きる・人は支えあって生きる:アイデンティティの心理学
「あなたがいないと生きていけない」といった表現は、文学的、芸術的な表現としては美しくても、現実では困ります。失恋したら生きていけない、離婚したら生活できない、親子が離れたら絶望だというのでは、困ります。
親は子どもを自律させるのが仕事ですし、結婚してもいずれは一人になるでしょう。
心理学では、青年期の成し遂げるべき発達課題(人生の宿題)は、アイデンティティの確立(自我同一性の確立)だとされています。
パソコンにログインするときにIDを求められたり、社員がIDカードを首からぶら下げていますが、あのIDとは、identification 。同一であることの証明、身分証明です。
カードには、名前、性別、年齢、所属などが書かれていますが、自分とはどういう人間かを心に肯定的に刻み込むのが、心理的アイデンティティ。自分はどんな人間で、どういうふうに生きていくのかを決めるのが、アイデンティティの確立です。人はそうして、大人になっていきます。
自分自身で、仕事を決め、住む場所を決め、一緒に暮らす人を決め、自分の生き方を決め、その決めたことに自分で責任を取るのが、大人です。
もちろん支えあいは大切です。アイデンティティを確立するにしても、自室で閉じこもって自分探しをするのではなく、人々との係わり合いの中で、自分を発見していきます。そして大人になれば、人を愛し育てることが、次の発達課題になります(発達心理学:成人~高齢期)。
心理学の研究によれば、みんなに支えられているという「ソーシャル・サポート」が、人間の心身の健康にとても大切だとわかっています。
しかしそれでも、一人ではまったく幸せになれないので仕方なく誰かを頼ったり結婚したりするのではありません。それは本当のあるべき人間の姿ではありません。
一人でも幸せになれる人(アイデンティティを確立した人)が、それでも二人でもっと幸せになろうとするのが、恋愛であり、本来の人間関係でしょう。
親子、夫婦でも、相手がいなければダメだとなってしまえば、それは歪んだ「共依存」関係になってしまいます。
恋愛でも友人関係でも、別れを怖がりすぎてしまえば良い恋愛や人間関係が持てません(恋愛心理学:男女・恋愛・結婚の心理)。
金八先生だって、そんな情けない生徒を育てようとはしてこなかったでしょう。足を開き、一人でしっかり大地に立つ。そして、互いに支えあっていきたいと思います。
(誤字修正2014.11.24)