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女優菅井きんさんの現在に学ぶ高齢者のリハビリと希望

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
シニアのみなさん、元気です。

■女優、菅井きん:ゴジラ、必殺、家なき子、トリック・・・

女優の菅井きん(88歳)。大好きです。ここのところ、テレビではお見かけしませんでしたが、大好きな女優さんです。

1954年の映画『ゴジラ』第一作(東宝)。1973年スタートの長寿ドラマ『必殺仕置人』シリーズ(TBS)で、主役の中村主水(もんど)を演じる藤田まことをいびる姑役。「むこどの~!」が懐かしい。

1994年のヒットドラマ、安達祐実主演の『家なき子』(日本テレビ)。「同情するなら金をくれ」のセリフで有名ですが、ここでは主人公に影響をあたえる「ババア」役を好演。

2000年スタートの仲間由紀恵主演の人気テレビドラマ『トリック』(テレビ朝日)。その第一話で演じた、カルト新興宗教の教祖役も、とても印象的でした。

■菅井きん、認知症報道に「腹が立ちました」

菅井きんは、現在老人施設に入所しています。一部報道では、認知症で俳諧(はいかい)も始まっていると報道されました。

女優の菅井きん(88)が2日、フジテレビ系「ノンストップ!」で4年ぶりにテレビに登場~

4年前、自宅で転倒して大腿骨を骨折、以来自分の足では歩けなくなった。

普段はベッドに横たわって過ごしている菅井、しかし「足が丈夫になって動物園に行けるようになれば」と毎週1回、1時間は足のリハビリに努めている。

今年5月、女性週刊誌に菅井が認知症で要介護3の認定を受け、徘徊も始まったと報じられた。この記事を知った菅井は「腹が立ちました。弱い者いじめだと思って」。以来、車イスながら外出することも増え、積極的に生活することに努めているという。

出典:菅井きん「認知症」報道に反発「腹が立ちました」日常生活を公開 デイリースポーツ 10/2

菅井きんさん、カンカンですね。そして、がんばっています。

■怒りとエネルギー

個人的な恨み、つらみは、それがエネルギーになると言う人もいますが、やはり辛いことでしょう。しかし、菅井きんの「腹が立つ」は、そんな湿っぽい個人的恨みとは違う気がします。

弱い者いじめをするな、高齢者をバカにするなというような、社会正義にも似た感覚、女優菅井きんのプライドのようにも感じます。このような感覚は、たしかに生きる力になるでしょう。

年寄り扱い、認知症扱いされたことで、心理学的に言えば「心理的リアクタンス(心理的反発)」が起きたとも言えるでしょう。悔しさをバネにするというものですね。

その悔しさも、若い人のどうしようもない悔しさとは違って、どこか余裕とユーモアを感じます。菅井きん、がんばっています。

■高齢者のリハビリと希望

若い人ならば、リハビリをする動機はたくさんあるでしょう。仕事や学校に復帰したい、恋をしたい、もう一度スポーツをしたいなど。しかし、一般論ですが、かなりの高齢者になると、リハビリの動機はなんになるでしょうか。

いまさら、仕事も結婚もスポーツもあまり考えられません。人生も秒読み段階です。でも、だからといって希望をなくし、リハビリもしなければ、心身ともに衰えるばかりです。絶望の中で最期を迎えるのは悲しいことです。

実際に90歳前後の高齢者のリハビリを担当されている方にお聞きしました。「何を目標にするのですか」と。すると、こんな答えが返ってきました。

「高齢者なりの目標があります。たとえば、「もう一度家に戻ってみんなでごはんを食べる」といったことがリハビリへの動機になるのです」。

それは、小さなことかもしれませんが、小さくても希望になります。

菅井きんの場合は、「足が丈夫になって動物園に行く」なのですね。具体的で、楽しそうな目標です。目標のない、意味を感じないリハビリや治療は、それが必要なことであっても、ただの難行苦行です。でも、意味と目標があれば、大変であっても不幸ではありません。

高齢者の望みがかなえば、ハッピーです。でも、たとえ望みが実現しなくても、目標と希望があれば絶望しません。希望を持った積極的な晩年は、人生という舞台のすばらしい花道、人生というドラマのすてきなハッピーエンドになることでしょう。

(なんてことを書いていると、「私はまだまだ20年、30年生きますよ!」と菅井きんに怒られそうですが。)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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