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変質者犯罪から子ども守ろう:少女誘拐監禁事件の犯罪心理学:岡山小5(倉敷女児)誘拐監禁事件から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■岡山小5少女誘拐監禁事件(倉敷女児誘拐監禁事件)

岡山県倉敷市で小学5年の女児(11)が行方不明になり、5日後に保護された事件で、県警は21日午前、監禁容疑で現行犯逮捕した岡山市北区の無職、藤原武容疑者(49)を同容疑で岡山地検に送検した。

藤原容疑者は19日午後10時21分ごろ、女児を自宅に監禁した疑いがある。県警によると、「下校途中の女児に声をかけて誘い、車に乗せた。1人でやった」と供述している。捜査関係者によると、「凶器で脅して車で連れ去った」と手口を供述し、女児も同様の説明をしているという。

出典:倉敷女児監禁「凶器で脅して連れ去った」 容疑者を送検 朝日新聞デジタル 7月21日

多くの人々が心配していた事件ですが、容疑者が逮捕され、被害者は無事に保護されました。こんな事件が起こると、我が家の子は大丈夫かと心配になるのは当然です。

犯罪は、加害者、被害者、犯罪が可能と思わせる環境がそろったとき、発生します。

加害者の心理を知り(少女誘拐監禁事件の犯罪心理学:なぜ彼らは少女を狙うのか:岡山小5少女誘拐監禁事)、子どもへの防犯教育を行い、安全な環境づくりが必要です。

■加害者の2つのタイプ

少女らに危害を加える加害者(変質者)には、2つのタイプがあります。

1 仲良しタイプ

これは、日常的に子どもと接している人です。子どもの「理解者」であり、評判の良い人の場合もあるでしょう。教育関係者、宗教関係者、ボランティア、親戚、近隣、友人知人。全ての人に可能性があります。

「この人なら大丈夫」ということはありません。

「仲良しタイプ」が加害者になる場合には、巧妙な方法をとり、被害が長く続きます。

2 行きずりタイプ

面識のない「行きずり」タイプです。彼らが加害者になると、とても残虐な加害者になってしまうこともあります。

「仲良しタイプ」は、親も名前を知っているような人のことです。「行きずりタイプ」は、親にも子にも面識のないタイプです。面識のない行きずりタイプがいきなり力づくて誘拐することもありますが、行きずりタイプが、ごく短い時間に、子どもから見れば「仲良し」になってしまう場合もあります。

■不審者とはどういう人か:「怪しい人についていくな」ではだめ。

「不審者」とはどういう人でしょうか。「サザエさん」に登場する泥棒のように、見るからに怪しい人でしょうか。そういう場合もありますし、そうでない場合もあります。

「怪しい人についていくな」というしつけだけでは不十分です。見た目は、まったく怪しくなく、優しそうに見える人も多いのです。「変質者」のイメージを子どもに固定化させてはいけません。

むしろ常識的な子ども好き以上に、妙に子どもと仲良くする人は、要注意の場合すらあるでしょう。

子どもには、怪しくなくても、ついていってはだめだと教えましょう。

■子どもは35秒でだまされる:「知らない人についていくな」ではだめ。

『変質者の罠から子どもを守る法』(人間と歴史社)には、「子どもは35秒でだまされる」とあります。子どもに危害を加える人は、しばしば子どもの扱いの上手な人です。

あっと言う間に、子どもと仲良くなるでしょう。そうなれば、もう「知らない人」ではなくなってしまいます。

お菓子を上げる、きれいな花が咲いているなどと言って子どもをだましますが、子どもが高学年であれば、さらにだます手法は巧みになり、なかなか見抜くことは難しくなります。

「おじさんは、お母さんの友達だよ」などと名乗られれば、「知らない人」ではなくなってしまうでしょう。知らない人でなくてもついていってはだめだと、しつけなくてはいけません。

■子どもが犯罪に合いやすい時間

夜遅い時間、暗い道が危ないと感じるでしょうか。しかし、実際に多く被害が出ている時間は、午後3時から6時の下校時間です。まだ明るい時間帯に、被害はでています。

■子どものだまし方:犯人たちの手口

悪い人たちの手法を、子どもたちに教えておきましょう。

○プレゼントで誘う。

お菓子、おもちゃ、洋服、ゲームソフトなどで、誘います。

○子どもの興味のあることで誘う。

動物、昆虫、スポーツ、カラオケ、ゲームなどの話題で誘います。

○困っている人を装う。

道を教えて、ケガをしているから手伝ってなどと言って、誘う。

○親切な人を装う。

送ってあげる、お母さんがケガをしたので連れて行って上げる、おじさんのこと覚えてる?などと言って、誘う。

○変な頼み事をする。

ランドセルを貸して、靴下をちょうだいなどと言ってくる。

*それ以外に、周囲に人がいなければ、刃物などで脅して力づくで誘拐する方法もあります。

■おとなへの接し方を教える

変質者による犯罪を防止するために、大人との付き合いの仕方を教えましょう。

大人を信用するなという教えは、正しくないと思います。それでは、世の中を幸せに生きていけません。むしろ、多くの大人は親切であなたを助けてくれると教えましょう。人は助け合おうと教えましょう。

ただし、大人の中には悪い人もいることを、しっかり教えましょう。

それは、交通事故防止と同じです。自動車を極端に怖がるだけでは、現代社会で生きていけないでしょう。自動車の便利さや魅力を知り、同時に怖さも知り、正しく運転し、被害者にも加害者にもならないような、交通安全教育が必要です。

変質者による犯罪防止も同様です。大人との正しいつきあい方を教えましょう。

特に一人でいるときには、親切で優しそうな人にもついていってはいけないと教えましょう。「お母さんの病院へ連れて行ってあげる」と親切そうな人に言われても、以前から知っている人でなければ、車に乗ってはだめだと教えましょう。

万が一、突然入院することになっても、子どもが知らない人に、そんなことは頼みませんよね。

マナーは大切です。人に深切にすることはすばらしいことです。大人の言うことを聞くことは大切です。でも、大人の言うことは常に絶対聞くようにしてしまうと、犯罪者の罠にかかってしまうことがあるでしょう。

自分を守ることを教えましょう。どんなに誘われても、今まで会ったことのない人の車に乗らないのは、失礼なことではないと教えましょう。

■子どもを孤立させない

犯罪防止のためには、できるだけ子どもを一人にさせないことが大切でしょう。必要に応じて、スクールバスや、親による送迎もあるかもしれません。しかし、制度や大人の目だけでは不十分です。

親が子どもをしっかり守り、その結果として子どもの心が安定し、その結果として、子どもがいつも多くの人に囲まれて楽しそうにしている状況が作られることが、防犯につながるでしょう。

■地域の力

防犯には、親の力だけではなく、地域の力も必要です。下校時間に、玄関前を掃除する、犬の散歩に行く、不自然さを感じる人がいれば一声かける、奇妙なものを見たら注目する。これらの地域の力が、防犯と事件解決につながるでしょう。今回の岡山の事件も、親の力、地域の力が大きな働きをしました。

みんなで「安全マップ」を作り、「入りやすく見えにくい(見られにくい)場所」など危険な場所を認識し、環境を整備していくことも大切でしょう。

■子どもが被害にあったとき

子どもは被害者です。子どもに非はありません。防犯教育は大切ですが、被害にあってしまったときには、子どもを責めてはいけません。

悪意はなく、むしろ子どもが心配だからこその言葉なのですが、「どうしてついていったの!」「なぜ、そんな道を通ったの!」といった対応が、子どもを追いつめることがあります。

心ない世間の声で、「なぜ逃げなかったのか」と責められることもあるでしょう。

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件被害者保護のために

親は子どもを守りましょう。学校と地域は、子どもと家族を守りましょう。

■総合的な安全対応を

不審者による犯罪、特に誘拐監禁、ましてや殺人ともなれば、とても大きく報道されます。大きく報道されるほど、親達の不安は大きくなります。こんな被害が、絶対我が子に起きてはいけないと思います。

その通りです。ただそれでも、日本は他国と比較すれば治安の良い国です。そして子どもへの危険は、変質者だけではありません。

変質者の危険だけを過剰に考えて、大人不審にしてしまったり、交通事故など他の危険性が増してしまってはいけません。

変質者に殺される子どもよりも、家族に殺される子どもの方が多く、交通事故の被害者はもっと多いのです。

だからといって、性犯罪被害や、誘拐監禁が起きても良いと言っている訳ではありません。大きく報道などされない小さな事件でも、心が大きく傷ついている子もたくさんいます。

それでも、総合的にトータルに考えましょう。様々な危険をできるだけ避けつつ、同時に社会の中で、元気いっぱい生活できるように、私たちみんなで、子どもたちを守りたいと思います。

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「子どもを守る」の本当の意味は?:心理学者が伝える正しい子どもの「傷つけ方」:犯罪被害は困りますが、弱い子を育ててしまっても困ります。

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件(倉敷女児誘拐監禁事件)被害者保護のために

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新潟女性長期監禁事件の犯罪心理

BOOKS

『変質者の罠から子どもを守る法:35秒で子どもはだまされる』

『幼い子どもを犯罪から守る!』

『犯罪から子どもを守る50の方法』

『身近な危険から子どもを守る本』

『犯罪不安社会:誰もが「不審者」?』治安悪化なんて誰が言った!?

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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