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「開き直りの心理学」:ガンバレ日本!FIFAワールドカップ:そして失敗を恐れすぎる私たち日本人へ

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(Vector Open Stock)

■日本完敗?

サッカーワールドカップ、日本初戦。先制するも逆転され、1-2の惜敗。おしかったー。でも、専門家の皆さんによると、どうやら「完敗」のようです。

キャプテンのMF長谷部誠は「今日は前半も後半も自分たちのサッカーが表現できなかった。それが一番」と敗因を語る。~何もできなかった。何もさせてもらえなかった。やはり完敗である。

出典:長谷部誠が語ったコートジボワール戦、本当の敗因 webスポルティーバ 6月15日Y!

単に「負けた」というだけでなく、「自分たちのサッカーができなかた」「何もさせてもらえなかった」。なるほど、これは完敗です。

完敗した理由はいろいろあるようですが、失点によってあわててしまったことも原因のようです。

日本代表はもっとできる(ザッケローニ監督)

~ジーコはこう答えていた。

「失点すると精神的に浮き足立ってしまう。これが日本の欠点だ」

「きっと国民性なのだと思う。他の国では考えられないのだけど、なぜか失点に対して過剰な恐怖感や失望感がある。ゴールを奪い合うスポーツなのだから、得点できることもあれば、失点もする。すべて思い通りにはいかないけれど、それがサッカーなんだ。この当たり前が経験として分かれば、日本はもっと強くなる」

出典:思い出されたジーコの指摘 theWORLD(ザ・ワールド) 6月16日Y!

日本の実力はもっと上なのに、本当はもっと強いのに、それなのに、私たち日本人は失敗を恐れすぎるようです。初戦敗退のチームが勝ち抜くのは、これまでの統計からするとかなり厳しいようです。でも、このまま終わってしまうのは悔しすぎます。

ピッチ上で選手たちは“混乱”していた。~僕自身、ドイツW杯でオーストラリアに逆転負けを喫するという経験をしました。僕たちのときは1試合目のショックを引きずってしまったところがありました。~でも、いい意味で開き直ってやることが大切です。まだW杯は終わっていないのですから。

出典:8年前と同じ“混乱”が見られた初戦 今の日本に必要なのはいい意味での開き直り Soccer Magazine ZONE web 6月16日

はい。ワールドカップは始まったばかり。大切なのは、良い意味の「開き直り」。では、開き直るって、どういうことでしょう。

■開き直りとは

開き直るとは、態度を改めることです。態度の中には、心理学的にいうと、感情と認知(考え方)と行動があります。だから開き直りとは、これまでの、考え、感情、行動を変えることです。

開き直れていない、これまでの態度が、失点への恐れ、「失敗への恐れ」です。だれでも失敗は嫌ですが、失敗を恐れすぎると物事は上手くいきません。

たとえば、失恋を怖がりすぎると良い恋愛ができません(恋愛の心理学:こころの散歩道)。

不安がり、心配しすぎると、できることまでできなくなります(不安と心配性の正体:心理学でお散歩)。

失敗を恐れすぎると、失敗から学ぶこともできません(「8000回の悔しさ」の心理学:イチローは失敗を恐れず失敗に向き合い続けてきた)。

良い意味の開き直りとは、やけを起こすことではありません。心身が開放されるのが、良い意味の開き直りでしょう。絶対に失敗してはだめだと考えすぎると、必要以上に失敗への恐怖心が高まり、適切な行動が取れなくなります。

ドラマでありますが、時限爆弾のコードを切るときに手が震えて上手く切れないようなものです。ゴルフ選手が、大事な場面で簡単なパットをはずしてしまうのも同様でしょう。

開き直りとは、負けても良いから手を抜くのではなく、負けることを恐れないでパフォーマンスを高めることではないでしょうか。

■武士道とは死ぬことと見つけたり

日本代表、「SAMURAI BLUE(サムライ・ブルー)」。

死ぬことをすすめているのではありません。でも侍が死ぬことを怖がり、恐怖に負けてしまえば、剣をふるうことができません。練習の成果が発揮できません。これは、多くの勝負事や、対人関係に共通することもかもしれません。

死への恐怖を超越したところに、武士道はあるのかもしれません。

まじめで努力家の日本人。がんばりすぎる「タイプA」はたくさんいるのかもしれませんが、思い切ってシュートする、失点にもめげない日本人は、なかなかいないのかもしれません。

心理学動機づけに関する研究によれば、最高に動機づけが高まり、最高のパフォーマンスが発揮できている状態は、自分のやる気の高まりすら自覚しない「フローの状態」と言われています。

様々な恐れや不安、雑念、欲望などからも自由になり、開放され、今まで積み上げてきた最高の自分らしさが出ている、自己ベストが出せる状態です。

■自分らしさ

ありのままの姿」「自分らしさ」。現代日本人は、大好きなようです。その思いを歌い上げる「アナと雪の女王」は、大ヒットでした。それだけ、私たちにとって難しいことなのかもしれません。

勝負は時の運です。勝つときもあれば負ける時もあります。

などと気軽に言えないほど、ワールドカップはすさまじい場所なのでしょう。莫大な金も動きます。世界的な名誉と屈辱が同居しています。ただそれでも、勝つチームもあれば負けるチームもあって当然です。

勝てばもちろん良いですが、負けるにしても、自分らしいプレイをして欲しいと思います。自分らしいプレイをすることが、勝利にもつながるでしょう。どちらにしても、今まで積み上げてきた日本らしいプレイを。それが、私たちみんなの願いのはずです。

私たちは、勝利を願って応援します。だから、私たちは日本チームを支えます。私たちが、サポーターです。

ワールドカップはまだ終わっていないのですから。選手一人ひとりの人生も、まだまだ続くのですから。

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■失敗の心理学:私たちは何を恐れているのか?

失恋や不合格や負けることが怖くて、行動できないことがあります。でも行動しなければ、恋も合格も勝利もないはずなのに。私たちは、実は失敗自体を恐れているのではないのです。→「失敗と恐れの心理学:私たちは何を恐れているのか?

関連サイト

『アナと雪の女王』主題歌の歌詞を心理学で解説:「レット・イット・ゴー:ありのままで」の意味

心配性と不安の正体:心理的メカニズムと克服法

「8000回の悔しさ」の心理学:イチローは失敗に向き合い続けてきた

不安と欲望を乗り越え自己ベストを出す方法:オリンピックでも

自分らしさの心理学:失敗と評価される不安を越えて

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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