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柏連続通り魔事件の犯罪心理学:プライドは高いが自信がない?:自己否定と社会への復讐

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
スカイツリーに突っ込みたかった?

■連続通り魔事件容疑者逮捕

千葉県柏市あけぼので3日深夜に起きた2人死傷の連続通り魔事件で、強盗殺人容疑で逮捕された自称無職竹井聖寿(せいじゅ)容疑者(24)が、柏署捜査本部の調べの中で、「社会に報復してやりたかった」などと供述していることが6日、捜査本部への取材で分かった。

出典:社会に報復したかった…通り魔事件の竹井容疑者 読売新聞 3月6日Y!

通り魔事件の容疑者男性が逮捕された。当初、この事件発生が報道されたとき、私は少し戸惑った。

■通り魔の2つのタイプと柏通り魔

通行人を無差別に襲う「通り魔」には、2つのタイプがある。

一つは、秋葉原通り魔事件や映画「八つ墓村」のような、「大量殺人」タイプ。一度に大勢の人を殺そうとする。彼らは、自分を否定し、世の中を否定する。顔も隠さず、大勢の人々の前で殺人を実行する。「誰でもいいから殺したかった!」などと語って。彼らは逃げる気はない。犯行の隠蔽や逃走などはあまりしない。その場かすぐ近くで逮捕されるか、射殺されるか、自殺する。

もう一つのタイプが、神戸の酒鬼薔薇事件(神戸小学生殺害事件)のような「連続殺人(快楽殺人)」タイプ。無差別だが、すぐに捕まるような犯行ではない。警察をあざ笑うかのような態度をとる。映画「羊たちの沈黙」のハンニバルのように、殺すことに快感を感じ、犯行を重ねる。

今回の柏通り魔事件では、短い時間、ごく近い場所で犯行を行っているが、顔を隠し、逃走している。しかし、とても雑な犯行で目撃者もいる。金銭も奪っている。

これは、いわゆる大量殺人でもなく、連続殺人でもなく、路上での連続強盗殺人事件(金目当ての犯行)か、あるいは薬物がからんでいるのか、よくわからないと思っていた。

■柏通り魔事件容疑者

上に引用した報道によると、「金を奪おうと思ってナイフで刺した」と供述する一方で、「時折、不可解な言動」をとっているという。

「普段どんなことを考えているのか」と問われた際、「ハイジャックして東京スカイツリーに突っ込み、社会に報復してやる」と話したことが新たにわかった。

出典:柏市連続殺傷事件 「ハイジャックしてスカイツリーに突っ込む」 フジテレビ系(FNN) 3月6日Y!

県警柏署捜査本部の調べに対し、「バスジャックをして空港に乗り付け、ハイジャックした飛行機で東京スカイツリーに突っ込み、社会に復讐(ふくしゅう)しようと考えた」と供述していることが分かった。捜査本部は、金銭目的だけでなく、社会への不満を募らせて事件に及んだ可能性があるとみて追及する。事件の動機について「金がほしかった」などと話す一方で「社会に復讐したかった」との趣旨の供述をたびたびしているという。

出典:<柏通り魔>「社会に復讐考えた」 容疑の24歳供述 毎日新聞 3月6日Y!

これらの報道を見ると、「金目当て」と、大量殺人者がよく語る「社会への復讐」が動機だと供述している。

多くの大量殺人者は、「こんなはずではなかった」と感じている。能力はあっても人間関係が上手くいかないことも多い。今回の男性も無職であり、金銭的に困窮していたようである。

彼らは、自己否定する。だが自己否定をすすめると、どこかで「社会が悪い」と感じるようになる。そして、自分が正義であり、間違った社会に正義の鉄拳を下す、天誅といった思いを持つ。彼は、ネット上で「除悪」と名乗っている。ナイフなどの武器にも関心が高く、特別な刃物も持っていたようである。

大量殺人者は、自分の人生など終わらせたいと思っている。だが、最後の大逆転として、大きなことをして自分をばかにしてきた世の中にあっと言わせたいと感じ、校内で銃を乱射したり、繁華街で犯行に及んだりするのである。

報道によると、容疑者男性は非常に自己顕示欲が強かったと、ネットで交流のあった人が語っている。

また彼は、逮捕時も、それ以前にも、突然叫ぶなど、奇行も見られる。あるいは、怒りをおさえられないような特徴、性格的なゆがみがあるのかもしれない。

■今回の犯行のきっかけ

「お金が欲しかった」「社会に復讐したかった」と語っているが、今回の事件の直接のきっかけはあったのだろうか。

彼は、リアルな実社会ではなかなか上手く行かないものの、ネット上では雄弁に語り、活躍しようとしていたようである。しかし、この一年ほどはネット上でも相手にされなくなっていたようである。いくら語りかけても返事がなかったようである。

これは、秋葉原通り魔事件を連想させる。秋葉原のケースでも、ネットで無視されたことは犯行の大きな要因になっている。犯行当日も、犯行の準備状況をネットで語りかけ続けているのに、誰からの応答もなかったと語っている。

今回も、ネット上で何かがあったのだろうか。それが、「社会への復讐」の実行を呼んだのかもしれない。

もう一つの想像だが、「お金に困った」のかもしれない。日常的に困窮していたのだろうが、今回本当に困った状態になったのかもしれない。

「金を取る目的で人を刺した」と供述しているが、捜査本部は事件の背景に、社会に対する不満があった可能性もあるとみて詳しい動機を調べる。

出典:「バスジャックし社会に報復」=押収品から被害者DNA―千葉県警 時事通信 3月6日Y!

「感情が高ぶった」「金を取る目的で刺した」。〜犯罪心理に詳しい臨床心理士の長谷川博一氏は竹井容疑者の行動について「アリバイ工作的に虚偽証言をするケースは考えられるが、自ら語ることは通常は考えられない。犯行直後の興奮状態の中、冷静な判断を欠き、『だれかに話したい』という心理が働いたのではないか」としている。

出典:柏連続通り魔 容疑者「感情が高ぶった」…任意同行で「チェックメイト」 産経新聞 3月6日

その日どうしても金が必要になり、路上強盗を実行する。その犯行により、興奮し、次の犯行に至ったのかもしれない。大量殺人で見られることだが、1人を殺傷し、血を見ることで、さらに興奮し次の被害者を捜すことがある(「血の酩酊」)。

「社会への復讐」は、たしかに日頃から頭の中にあったのかもしれないが、今回はあるいは「後付け」の可能性はないだろうか。強盗殺人を行ってしまった。しかし、単なる少額の金目当ての犯行ではプライドが許さない。

そこで、日頃から考えていた「社会への復讐」を口にし、「バスジャック、ハイジャック、スカイツリーに突っ込む」といった派手な犯行計画も供述したのかもしれない。

逮捕前に、「目撃者」としてマスコミの前に登場するのは、たしかに珍しい。長谷川先生がおっしゃるように、興奮のためとも思われる。あるいは、このマスコミに取り囲まれて得意げに目撃談を語る、映像まであると語ったのも、彼の自己顕示欲の表れだったのかもしれない。

■社会の病理

これまで書いたことは、想像の域を出ない。今後の取り調べと裁判を待ちたい。ただ、犯罪は社会を映す鏡である。今回の事件も、多くの社会的問題がからんでいると言えよう。

リアルな実社会で上手く行かず、ネットでも上手く行かなくなったとき、追い詰められる人々はいるだろう。ニート問題も大きな社会問題である。

彼も、能力が低かったわけではないように思える。しかし、彼なりの「自分らしさ」を見つけることができなかったのだろうか。現代的な、「プライドは高いが自信がない」若者の1人だったのかもしれない。

彼のようなことを実行する人はほとんどいないが、有名な犯罪者にあこがれ、社会への復讐を考える人は、少なくないかもしれない。子ども若者が希望を持てる社会にしたい。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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