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「いじめ」と表現することが事態を軽くしてしまっているのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■いじめ事件6割増=28年ぶり400件超す

400件を上回るのは1985年以来28年ぶり。摘発、補導した児童・生徒も213人増の724人で、27年ぶりに700人を超えた。

大幅増の背景として、警察庁は「学校との連携を強化したことに加え、大津市のいじめ自殺事件後に世間の関心が高まって相談も増えたため」と分析。いじめ防止対策推進法の施行を受け、13年からいじめの定義を見直して広くとらえた影響もあるという。

出典:いじめ事件6割増=28年ぶり400件超す―警察庁 時事通信 2月27日

いじめに関するニュースが出るたびに良く聞かれるご意見が、「いじめ」などと言うな、「傷害」「恐喝」などの「犯罪」と呼ぶべきだというご意見です。

このようなご意見を述べる方は、いじめを憎み、子どもたちを守ろうという方々だと思います。ただ、やはり「いじめ」と「犯罪」はちがうし、「いじめ」は「いじめ」として、きちんと考えた方がいじめ防止につながるのではないでしょうか。

■いじめ=犯罪か。

いじめっ子、いじめ加害者がいくら、「遊び」とか「ノリ」、「いじり」などと言い訳しても、また本当に彼らにたいした悪意がなかったとしても、それが犯罪行為であれば犯罪です。

恐喝罪や傷害罪、強要罪などに問われることはあるでしょう。

最初は軽いいやがらせだったものが、放置されているうちに、本格的ないじめになり、さらに悪化すれば犯罪的な非行いじめになり、法的な処罰の対象になります。

しかし、たとえば「おはよう」と挨拶したのに、クラスのだれも返事をしないというのは、いったいどんな「犯罪」になるのでしょうか。

ある子のことを誰かが「ブーちゃん」とあだ名で呼んでいるとします。呼ばれる方は、内心ではいやがっているのですが、表面上はニコニコして、嫌だともやめてとも言っていません。これを、犯罪として制裁することができるのでしょうか。

辞書によれば、「犯罪」とは、1「罪を犯すこと」ですから、広い意味で言えばいじめも犯罪かもしれませんが、犯罪と呼び制裁を加えようとすれば、2「刑法その他の刑罰法規に規定する犯罪構成要件に該当する有責かつ違法な行為」に当てはまる必要があるでしょう。

刑法等で定められる行為でないものを、犯罪と呼び、法的制裁を加えることはむずかしいでしょう。

でも、これらのことで本人がいやがっているなら、たとえ犯罪ではなくても、いじめです。

■いじめは禁止です。

違法なことをしてはいけないのは、当然です。そして、違法でなくてもいじめはいけません。いじめは、法律よりも基準が高い道徳によって戒められるものでした。

さらに今では、法的にも禁止です。

昨年成立した「いじめ防止対策推進法」第四条(いじめの禁止)によれば、「児童等は、いじめを行ってはならない」と定められました(ただしこの法律では罰則はありませんが)。

いじめは、道徳的に悪いことに加えて、法的にも禁止されました。

■いじめとは(いじめの定義)

いじめは、この法律の第二条で次のように定義されています。

「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

子どもにもわかりやすく言えば(いじめ防止対策推進法条文を読む:子どもでもわかるようにいじめ防止法を解説)、こうなるでしょう。

第4条(いじめ禁止)

いじめを行ってはいけません。

第2条(いじめの定義)

いじめとは、子ども)が、ある子どもの心や体や物を攻撃することで、いじめられている子の心や体が傷ついたり、被害を受けて苦しんだりすることです。インターネットいじめも、いじめです。

(「普通の子なら、このていどやられても平気だよ」は、言い訳になりません。その子が傷つけば、いじめです。)

第2条の定義は、とても広い定義です。これを大人の刑法のようにして刑罰を与えるとなってしまえば、たとえば誰かの記事に対してだれかが「くだらない記事」と発言して、それで記事を書いた人の心が傷つけば、犯罪となり刑罰が与えれることになります。さすがにそれでは、健全な社会が作られないでしょう。

しかし、子どもたちの世界では、議論や争い全てを否定するわけではありませんが、いじめはだめ、人の嫌がることはやめようと指導されることになります。

■いじめをなくすために

たとえその行為が刑法に反するほどではないとしても、いじめはだめなのだと、みんなが強く思うことでしょう(いじめを減らす方法はいじめ許容空間を作らないこと)。時には、毅然とした対応や警察の力を借りることも必要でしょう。

しかし、いじめに関する心理学的な研究によれば、統制が取れない弱い先生のクラスでもいじめは増えますが、同時に非常に厳し怖い先生のクラスでもいじめが増えることがわかっています。

そして、法的、人権問題で言えば、いじめ問題は100パーセントいじめっ子が悪い問題ですが、心理学的、教育的に見れば、いじめられっ子もまた何らかの問題を抱え、ケアされる必要のある子です。

いじめは、様々な心理的な問題から起こりますお金や愛の貧しさの問題を抱える子もいます。本当の自分らしさを見失って鋳る子もいるでしょう。

いじめは絶対にだめです。親も先生もいじめられ子を守らなければなりません。いじめは、客観的にみれば小さな事でも被害者の心を深く傷つけます。被害者のケアが第一に大切です。しかし同時に、すべての子ども達を守り、学校や社会全体を変えることが、いじめをなくすことにつながるのではないでしょうか。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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