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「自殺教唆容疑で大学生逮捕(LINE)」から考えるインターネットと自殺問題

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■自殺教唆容疑で大学生逮捕

スマートフォンで「死ねよ」などとメッセージを送り、交際相手の女性を自殺させたとして、~容疑者(21)を自殺教唆容疑で逮捕したと発表した。~「LINE(ライン)」で、同級生の女子学生(当時21歳)に「お願いだから死んでくれ」「手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん」などと計7回のメッセージを送ったとしている。

出典:<自殺教唆容疑>交際相手にスマホで「死ねよ」 慶大生逮捕 毎日新聞 2月21日Y!

慶大3年の男、交際相手の女子学生を自殺させたとして逮捕:フジテレビ系(FNN) 2/21

慶大生が「死ねよ」ラインで強要、交際女性を自殺させる 逮捕 警視庁:産経新聞 2/21

「死ね!」といった言葉は、残念ながらよく聞かれる言葉です。今回は、特別悪質だったのでしょうか。あるいは、これまで悪質な事例がすでに多くあり、今回ついに逮捕の決断がなされたのでしょうか。

■教唆とは

教唆(きょうさ)の「唆」とは、「そそのかす」という意味です。

教唆の国語辞典的意味は、

1.ある事を起こすよう教えそそのかすこと。

2.他人をそそのかして犯罪実行の決意を生じさせること。

刑法61条には、次のようにあります。

・他人を教唆して犯罪を実行させた者は、その犯罪に相当する刑を科される。

・教唆者を教唆した者も、同様に処罰する。

ただし、自殺犯罪ではありません。

■法的な自殺教唆とは

刑法第202条には、自殺関与・同意殺人罪などの記述があります。

人を教唆して自殺させるのが、自殺教唆罪(人をそそのかしたり、死ねといったりして自殺させる)。

人を幇助して自殺させるのが、自殺幇助(ほうじょ)罪(自殺する意図のある人に道具を渡したり、自殺のやり方を教える)。

頼まれて、その人を殺害する嘱託殺人罪、承諾を得てその人を殺害する承諾殺人罪(同意殺人罪)などがあります。

自殺が法的な罪である時代や文化もあります。現代の日本では、自殺は法的な罪ではありません。けれども自殺教唆や自殺幇助の罪が法的にあるのは奇妙にも思いますが、自殺問題の複雑さと難しさの表れとも言えるでしょう。

■私たちと自殺教唆、自殺幇助

単純に「死ね」と言うだけでは、自殺教唆にはならないでしょう。漫才師も言っていますし、子供のけんかでも言っています(良いこととは思えませんが)。

自殺のサインを出している人に、「死にたければ死ね」「死ねるものなら死んでみろ」「死ねば?」などという人は、いるでしょう。悪意で言う人もいれば、止めるつもりで言う人もいれば、無関心のゆえに言う人もいるでしょう。

これがすぐに自殺教唆になるかどうかはともかく、状況によってはその可能性はあるかもしれません。

「死ぬ死ぬといっている人にかぎって死なない」などとよく言われますが、自殺予防の観点から見れば、「死ぬ」あるいは「消えたい」などと言っている人は自殺の可能性があると判断して対応する必要があります。

■インターネットと自殺教唆、自殺幇助

現実の対面場面で、本当に自殺の危険性が感じられる人を相手に、「死ね」と言ったり、自殺の道具や知識を渡すのは、特殊なことでしょう。しかし、インターネット上ではどうでしょうか。実は、よく見られることではないでしょうか。

今回は、LINE上のことでしたが、メール、ツイッター、掲示板、さまざまな場所で、かなり危ないことは行われています。

かつて「硫化水素自殺」が大きな話題になったときは、ひどい状況でした。事細かな硫化水素自殺の方法が、ネット上にあふれていました。誰かが書いた解説文がコピーアンドペーストで次々と広がっていきました。

自殺の意図がある人に、硫化水素自殺の細かい方法や、注意点をアドバイスしている人もいました。

そういう発言をしている人のほとんどは、匿名だったと思います(警察が出てくれば個人が特定されるでしょうが)。

ある自殺の方法や自殺場所などが、残念なことに時折「ブーム」になることがあります。何もなければ自殺しないですんだ人が、知識や道具やチャンスを、ある人から受けて、実行してしまうことはあります。

やたらと警察が出てくる社会が良い社会だとは思いませんが、法的にはともかく、自殺をそそのかしたり助けたりすることが平気で行われる社会も良い社会だとは思えません。

ネット上で、死にたい思いを語り、共感と慰めを受け、自殺を思いとどまる人もいます。インターネットコミュニケーションは、まだまだ始まったばかりです。互いに高めあうネットの活用ができればと思います。

不祥事が多発し、不必要な規制が強化され、ネットユーザーが自分の首を絞めることなどがないように。大切な命が、守られるように。

■補足

・硫化水素自殺は、決して楽でもきれいでもありません。その後の処理も、とんでもなく大変です。

貧困や病気、いじめなど、様々な逆境のもとで人は死を考えますが、人はそれだけでは死なないと言われています。自殺は、それらの苦しみプラス孤独感と絶望感による行為です。

・自殺予防研究からすれば、自殺は自己決定の結果ではなく、追い詰められた末の死です。気がつかないうちに、うつ病になっているケースも多くあります。自殺は止められるし、止めるべき死です。

・自殺したいと語る人も、心は生と死との間で揺れ動いています。特に若者の「死にたい」は、心の底では「生きたい」です。心理学的に見れば、それは、幸福になりたい自分らしい自分になりたいけれど、どうしたらよいかわからないという心の叫びです。

(各メディアが大学名を報道していることには疑問も感じます。まだ報道されていない理由があるのでしょうか。)

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自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題:Yahoo個人「心理学でお散歩」

大統領就任式に登場した牧師の息子が自殺:自死遺族へのアメリカ社会の成熟した態度「泣く者と共に泣く」:Yahoo個人「心理学でお散歩」

硫化水素自殺を考えているあなたへ:「こころの散歩道」

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自殺予防総合対策センター

全国のいのちの電話|一般社団法人日本いのちの電話連盟

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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