ウクレレ漫談家の牧伸二さん自殺報道から考える自殺予防

■芸人牧伸二

ウクレレ漫談で一世を風靡したした牧伸二さん(78)が死去されました。橋から多摩川に飛びこんでの自殺ではないかと報道されています(2013.4.29)。私(昭和34年生まれ)の世代であれば、知らない人はいない、みんな子どものころ、「♪ああ、やんなっちゃった」を真似したことのない人はいない、そんな有名人です。泉ピン子さんは、お弟子さんに当たります。牧伸二さんは、ナンセンスネタから政治問題まで、社会を風刺した笑いを作り出していました。私は、牧伸二さんを通して、現代社会を学びました。

最も印象に残るのは、テレビ朝日『大正テレビ寄席』(1963~1978)の司会進行役。牧伸二さんの「日曜のお昼だよ~」の声と表情は、今もはっきりと覚えています。この番組は、「寄席」とは名がついているものの、古典的な落語、漫才の番組ではなく、「革新的なお笑い」を狙った番組でした。

落語家も立ち高座で、林家三平、桂米丸らが活躍し、横山やすし・西川きよし、レツゴー三匹、コント55号(坂上二郎・萩本欽一)、てんぷくトリオ(三波伸介・伊東四朗・戸塚睦夫)、ザ・ドリフターズ(いかりや長介・荒井注・高木ブー・仲本工事・加藤茶(志村けんは当時付き人))らが暴れまわっていました。

子どものころの私は、「革新性」などわかるはずもありませんでしたが、世代を超えて、家族みんなが大笑いしながら見ていたテレビ番組です。

■牧伸二さんのその後

大正テレビ寄席終了後も牧伸二さんの活躍は続き、日本放送作家協会賞、文化庁長官賞などを受賞されていますが、2002年に脳出血で倒れ、その後リハビリを経て舞台に復帰しています。2011年には、自宅でボヤ騒ぎが起きています(幸い、被害は最小限)。

そして、2013年4月28日、上野での舞台公演の合間に外出し、そのまま帰らず、29日未明、遺体で発見されました。遺書はありませんでしたが、飛び降りたところを目撃した人がいるため、自殺と見られています。

■お笑い芸人の自殺

みんなに夢と笑いを振りまくお笑い芸人ですが、まじめでストイックな人はたくさんいます。私も、テレビに出演したときに、あるお笑い芸人さんの楽屋をディレクターと共に訪問したことがありますが、コンビの二人で静かにしている中、ディレクターさんが非常に気を使いながら小さくドアをノックしていていました。

はちゃめちゃな落語で客を大爆笑させた天才落語家桂枝雀さん(2代目)も、自殺しています。桂枝雀さんは、うつ病でした。桂三木助さん (4代目)も春風亭小朝と並び評される、二枚目のかっこいい落語家でしたが、胃の摘出手術、大きな怪我などもあり、次第に講座の遅刻など奇行が目立つようになり、自殺しています。うつ病など、なんらかの心理的な病があったとの見方もあります。

漫才師のポール牧さんも、僧侶でもあり、しっかりした死生観をお持ちだったはずなのですが、自殺されています。

■自殺をする人はどんな人か

面白おかしいお笑い芸人も自殺します。すばらしい宗教家、思想家、小説家も自殺します。強そうなスポーツ選手、政治家も自殺します。多くの有名人の自殺がありました。まじめで神経質そうな人も、教養豊かな人も、乱暴なほどたくましい人も、自殺します。もっとも自殺しそうにない人がしてしまうのが、自殺です。

自殺する人は、弱い人、無責任な人、命を大切にしない人などと言われることがありますが、決してそんなことはありません。多くの人は、むしろ責任感のあるまじめな頑張り屋で、命や人生を深く考える人たちです。ユーモアの精神あふれる人もいます。ただ、多くの場合、何らかの心の不調をきたしている場合が多いようです。

周囲に迷惑をかけず、世のため人のために一生懸命生きようと思うのが、正しい人間の姿でしょう。ただ、この心のメカニズムが誤作動を起こすことがあります。何かの原因で人生がうまくいかない、周囲に迷惑がかかると感じたとき、私が死ぬことが、私にとってもみんなにとって最善だと感じてしまうようです。

■牧伸二さん自殺報道と自殺予防

今回の牧伸二さんの死去に関しては、「入水自殺らしい」ということ以外、ほとんど情報がありません。これまでの多くの事例から判断すれば、特に大きな悩みがないのであれば、本人も周囲も気づかないままうつ病になっていた可能性も考えられるでしょう。

「死にたい思い」というのも、うつ病の症状の一つなのです(うつ病の人との接し方を学ぶことは、自殺予防にとって、とても大切です)。

牧伸二さんは、すばらしい芸人でした。そのことは、何も変わりません。しかし同時に、今回の死はとても残念な死でした。

大きな自殺報道は、次の自殺を誘発しかねません。自殺予防の研究によれば、特に故人と似た環境の人が要注意です。たとえば、「いじめ自殺」などと安易でセンセーショナルな報道をしてしまえば、同じような悩みを持つ思春期の子どもたちを危険にさらすことになります。

有名人の死は、大きな影響を与えます。死亡された現場や自殺方法などの詳細を報道することは控えなくてはなりません。大きな自殺報道をするときには、自殺防止情報も必ず添えなくてはなりません。死者を鞭打ってはいけませんが、自死を美化してもいけません。

高齢期は自殺が起きやすい年代です。仕事、家族、財産、友人を失ったり、事件事故天災などで、自宅や思い出を失ったときなどは、特に要注意です。高齢者の多くは、精神科に行くことに大ききな抵抗感を持ち、人様に迷惑をかけないことを大切な価値観としています。だから、今まで元気に農作業をしていた高齢者などが、働けなくなったときは、気をつけなくてはなりません。

牧伸二さんのように、高齢になっても活躍し続けている人ですら、心の中には悩みがあったのかもしれません。どんな名選手、名人も、いつか衰えます。若いころが輝いていた人ほど、辛い思いをするかもしれません。

「新潟いのちの電話」の講演会でお聞きした話です。新潟県も、自殺率、特に高齢者の自殺率の高い地域です。「まじめな努力家」が県民性です。でも、こんなふうに語られていました。「年を取ったら、だらしなくなってもよい」

あるお年よりは、話を聞いて、とても心が楽になったと語っていました。今まで、しっかりしなさいという教育ばかり受けてきたからです。若者、中年、高齢期。それぞれの悩みがあり、失敗があります。でも、それでもみんなでそれなりに生きていきたいと思います。自殺は、止められる死であり、止めるべき死なのです。

本当に自殺の危険性が高いときには、医療機関を活用しましょう。何かいつもと違うと感じたら、カウンセリングマインドをもって話を聞きましょう。死にたい、消えたいと語る人にお説教や正論はあまり効果的ではありません。話を聞き、そして「あなたが死んだら私は悲しい」というメッセージを送りましょう。

牧伸二さんのご冥福をお祈りいたします。

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  • 『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』碓井真史著 いのちのことば社

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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