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日曜劇場『オールドルーキー』は、綾野剛の「新境地」となるか?

碓井広義メディア文化評論家
主人公・新町亮太郎と仕事仲間&家族(番組サイトより)

早々と6月26日に始まった、日曜劇場『オールドルーキー』。

主人公は、37歳の元サッカー日本代表選手、新町亮太郎(綾野剛)です。

J3の「ジェンマ八王子」に所属し、代表への返り咲きを目指していました。

元ヒーローが普通の人に

しかし突然、チームは解散となり、思いもしなかった現役引退へと追い込まれます。

このドラマは、かつて「ヒーロー」だった男が、「普通の人」へと転身していく物語だと言えるでしょう。

引退したスポーツ選手と聞けば、6月まで放送されていた『未来への10カウント』(テレビ朝日系)を思い出します。

木村拓哉さんが演じていたのは、世捨て人のように生きていた元ボクサー。

高校ボクシング部のコーチとして生徒たちを鍛えるうちに、自身も生きがいを見つけ、心の再生へと向かっていきました。 

表舞台から裏方へ

新町の自分探しも容易ではありません。

26日の初回では、ハローワークに通い、いくつかの一般的な仕事にトライしていましたが、いずれも無理がありました。

初めて知る、世間の厳しい現実。新町の場合、その転職を阻むものの一つが、忘れられない、自身の“過去の栄光”です。

結局、受け入れてくれたのが「スポーツマネジメント」の専門会社でした。

対象は現役のスポーツ選手。競技面ではトレーニング環境を整え、ビジネス面ではイベントや宣伝活動、CM契約などをフォローする仕事です。

長年身を置くスポーツの世界とはいえ、新町にしてみれば、表舞台から裏方への大転換です。

「アスリート的特性」と「愛すべき情けなさ」

主演の綾野さんは、このところ、ハードボイルドな作品で存在感を示していました。

さまざまな社会問題を背景とした事件を追う、警視庁機動捜査隊員を演じた『MIU404(ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系)。

司法の手が届かない場所にいて悪事を働く者たちを、謎の集団が罰した『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)などです。

今回、綾野さんは、元一流選手ならではの「アスリート的特性」と、普通の人としての「愛すべき情けなさ」の両方を、絶妙のバランスで演じています。

それを支えているのが、NHKの大河ドラマ『龍馬伝』や連続テレビ小説『まんぷく』などを手掛けてきたベテラン、福田靖さんのオリジナル脚本です。

「スポーツビジネスドラマ」で「家族ドラマ」

現代社会は、かつてのように終身雇用が一般的だった時代とは大きく異なります。2度目、3度目の転職も珍しいことではありません。

その意味で、主人公が「第二の人生」を模索していくというテーマには、普遍性と広がりがあります。

さらに新しい仕事や人間関係は、当人だけでなく家族にも影響を与えていきます。

これまでにない「スポーツビジネスドラマ」であると同時に、主人公を支える「家族のドラマ」でもある、この作品。

綾野さんの「新境地」となる可能性は十分ありそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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