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『カムカムエヴリバディ』気になる「安子」の消息と「ラジオ講座」の行方

碓井広義メディア文化評論家
「ラジオ講座」を聴く安子(『カムカムエヴリバディ』より)

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)の放送も、あと1ヶ月ほどになりました。

残りの期間で、時代的にどこまで描かれるのか、気になります。

そもそもこのドラマは、安子(上白石萌音)、娘のるい(深津絵里)、孫のひなた(川栄李奈)という3世代にわたる「100年の物語」をうたっています。

安子が生まれたのは、日本でラジオ放送が開始された、1925年(大正14年)。

1925年から物語が始まりましたから、文字通り「100年の物語」であれば、プチ近未来の2025年までが描かれる可能性があります。

もしそうなれば、「100歳の安子がアメリカから帰国!」なんていう場面も妄想してしまうのですが。

安子と「ラジオ講座」

今週は、その安子と「ラジオ講座」を思い出させるシーンがありました。

るいのお店に、外国人観光客がやってきて、これ(回転焼き)は何かと尋ねます。

その時、るいが流ちょうな英語で説明したのです。

「日本の伝統的なお菓子です。あんこが詰まっています」

これをすっと英語で言えるのは、なかなかのものです。

ひなたが「なぜ英語が出来るの?」と驚いたのも無理はありません。

るいは、小学生だったひなたがすぐに挫折した、ラジオ講座の「英語会話」を17年も聴き続けてきたことを明かします。

見ているこちらも、かつてラジオの前で楽しそうに英語講座を聴いていた安子の姿を思い出しました。

特に実在の講師、平川唯一(声・さだまさし)の温かい語りかけが、安子の励ましとなっていました。

戦時中は敵性語だった英語と親しんだことで、安子の人生は思わぬ展開を見せたわけですが…。

2025年のラジオ

放送開始から100年後となる、2025年のラジオは、そして「ラジオ講座」は、どうなっているでしょう。

気がかりなのは、昨年1月に発表された「NHK経営計画(2021-23年度)」です。

スリム化による構造改革を目指して、「保有するメディアの整理・削減」を宣言していました。

衛星波と共に、ラジオも「整理・削減」の対象となっているのです。

25年度に、ラジオを現在の3波(R1ラジオ第1/R2ラジオ第2/FM)から、2波(AM/FM)へと削減するというのです。

この場合、「R2ラジオ第2」が消える可能性が高いでしょう。

NHKは「民間放送のAMからFMへの転換の動きやリスナーへの利用実態調査の結果などを考慮」すると説明しています。

しかし、公共放送のラジオには独自の機能や役割があり、本来、民放と同様である必要はありません。

R2は、「語学講座」などの教育・生涯学習面や、防災面で有効な上に、大きなコストもかかってはいません。

改革自体が目的化された結果、BSやラジオなど扱いやすそうな部分を、整理・削減の対象とした印象が強いのです。

「ラジオ講座」の行方

ラジオ100年の歴史と、待ち受ける「ラジオ講座」の危機。

ならば、今回の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』は、消えゆく運命にあるラジオ講座への「哀悼(あいとう)」なのか。

それとも、消してしまうことへの「贖罪(しょくざい)」だったりするのでしょうか。

いや、できればそれは、歴代のラジオ講座に携わってきた人たちと無数のリスナーに対する「敬意と感謝」であってほしい。

あと1ヶ月、「皆さま(エヴリバディ)のNHK」に注目です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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