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今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「野木亜紀子」

碓井広義メディア文化評論家
最強コンビの伊吹と志摩(Paravi WEBサイトより)

今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。

宮藤官九郎さん、坂元裕二さんに続いて、野木亜紀子さんを挙げたいと思います。

ドラマの可能性を広げた『アンナチュラル』

2016年放送の『重版出来(じゅうはんしゅったい)!』(TBS系)や『逃げるは恥だが役に立つ』(同)がヒットした野木さん。

とはいえ、どちらも同名漫画という原作がありました。

その意味で、野木さんの本領が発揮されたと言えるのが、オリジナル脚本の『アンナチュラル』(18年、同)です。

物語の舞台は「不自然死究明研究所」。

警察や自治体が持ち込む、死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探る研究所でした。

執刀するのは、三澄ミコト(石原さとみ)や中堂系(なかどうけい、井浦新)たち法医解剖医です。

野木さんは、単なる謎解きのサスペンスドラマとは一線を画し、遺(のこ)された者たちがいかに生き続けるかを問い掛けました。

自殺系サイトや長時間労働、いじめ等の今日的な問題を織り交ぜつつ、解剖医たち自身が「生きるとは何か」という根源的な問いに向き合うプロセスを、卓抜な構成力で描ききったのです。

「ドラマというのは、ここまでできるんだ」という、いわばドラマの可能性を広げた1本と言えるでしょう。

「社会病理」の闇に迫った『MIU404』

また、斬新な刑事ドラマだったのが、20年の『MIU404』(同)です。

タイトルは、第4機動捜査隊に所属する、伊吹藍(いぶきあい、綾野剛)と志摩一未(しまかずみ、星野源)のチームを指すコールサインでした。

事件発生後、すぐに展開される「初動捜査」という短期決戦が彼らの任務です。

野性のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。対照的でありながら、内部に葛藤を抱えることでは共通する、魅力的なキャラクターでした。

扱われる事件はさまざまでしたが、このドラマの「核」は、一種の「社会病理」を描くことにありました。

たとえば、外国人による「コンビニ強盗事件」では、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていました。

とはいえ、2人の主人公は単純な「正義の味方」ではありません。社会病理は彼らの内部にも巣くっている、いわば「魔物」かもしれないのです。

「他人も自分も信じない」と言う志摩。「オレは(人を)信じてあげたいんだよね」と伊吹。

しかし、そんな言葉も、額面通りに受け取れないのが「野木ドラマ」の面白さです。

プロデューサーが新井順子さん、演出は塚原あゆ子さん、そして脚本の野木さん。『アンナチュラル』の最強トリオが放った、剛速球にして変化球でした。

そして、次回作は・・・

今年の初夏には、野木さんが脚本を担当した、アニメーション映画『犬王』(湯浅政明監督)が公開される予定です。

それはそれで注目ですが、やはりドラマが観たい。

21年に新作が観られなかった分、今後、野木さんが提示してくれるはずの、新たな「ドラマ世界」への期待が大きくなるのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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