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今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「宮藤官九郎」

碓井広義メディア文化評論家
三陸鉄道リアス線(写真:イメージマート)

今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。

たとえば、宮藤官九郎さんです。

石田衣良原作の連続ドラマデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』(2000年、TBS系)で注目され、オリジナル作品『木更津キャッツアイ』(02年、同)で人気脚本家となりました。

朝ドラのヒロインをアイドルにした!

その後、『タイガー&ドラゴン』(05年、同)などのヒットが続きますが、代表作といえば、やはり13年のNHK朝ドラ『あまちゃん』でしょう。

物語の時間設定は08年から12年。主な舞台は11年の地震と津波で被害を受けた東北。

『あまちゃん』は、東日本大震災を初めて本格的に描いた連続ドラマでした。

フィクションであるドラマとはいえ、現実の場所と出来事をどう取り込むか。

脚本作りは難しかったはずですが、宮藤さんは笑いとユーモアに満ちた、アイドル物語に仕立てました。これが最大の功績です。

主人公の天野アキ(能年玲奈、現在はのん)が目指したアイドルは、過去のヒロインたちのような法律家、造園家、編集者とはタイプが異なります。

朝ドラから最も遠いと思われる職業だったかもしれません。

しかし、アイドルを「人を元気にする仕事」と考えれば、当時の朝ドラにこれほどふさわしい職業はない。

そこに「町おこし」の発想が加わり、「地元アイドル」という秀逸なヒロインが誕生したのです。

介護に笑いを持ち込んだ!

21年、宮藤さんが手掛けたのは『俺の家の話』(TBS系)でした。

観山(みやま)寿三郎(西田敏行)は能楽の人間国宝。脳梗塞(のうこうそく)で倒れて、車いす生活となります。

プロレスラーだった長男の寿一(長瀬智也)が、介護のために実家に戻ってきました。

ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)と共に父の面倒をみるのですが、ふと目を離すこともあります。トラブルが発生するのはそんな時です。

「最近は調子がよかったから、まさか」と言い訳する寿一。「介護にまさかはないんです!」とさくらが叱っていました。

誰もが介護したり、介護されたりする時代に、つい目を背けているのが介護問題です。

宮藤さんは、「要介護」や「要支援」の規定から、「シルバーカー(高齢者用手押し車)」を利用する者の心理までを、ごく当たり前のこと、そして笑える「日常」として見せてくれたのです。

おかげで『俺の家の話』は、異色の「ホームドラマ」であると同時に、秀逸な「介護ドラマ」となりました。

そして、次回作は・・・

現在、宮藤さんはNetflixのオリジナル作品『離婚しようよ』に挑んでいます。この作品、なんと大石静さんとの共同脚本で、配信予定は23年。

制約の少ない配信ドラマで、一体どんな暴れ方をするのか、早く見たいものです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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