Yahoo!ニュース

「15秒のドラマ」でも輝いている女優たち

碓井広義メディア文化評論家
寒椿 2022(筆者撮影)

さまざまな「ストーリー」と「キャラクター」が設定される、テレビCM。

中には、「15秒のドラマ」と呼びたくなる作品も少なくありません。

2021年に、この極小ドラマでも輝いていた女優さんたちを挙げてみました。

江口のりこさん

かつて「全国こども電話相談室」というラジオ番組がありました。前の東京オリンピックが開かれた1964年に始まり、44年も続いた長寿番組です。

小学生の女の子が電話で江口のりこさんに質問する、「日清もちっと生パスタ」のCMを見た時、この電話相談室を懐かしく思い出しました。

お餅なのか、パスタなのか。そう問われた江口さんは、「冷凍の生パスタです」と穏やかに答えます。ところが、「よく見るやつですね」と言われた途端、スイッチが入ってしまう。

「いいえ、全く違います! 日清食品だからたどり着いた、もちっとの中のもちっと!」などと怒涛の解説が止まらない。その生真面目かつ真剣な表情に、つい吹き出しそうになりました。

日曜劇場「半沢直樹」(TBS系、2020年)の国土交通省大臣も、「俺の家の話」(同、21年)の主人公の妹も、予測不能で目が離せない存在でした。

特に昨年は、「ソロ活女子のススメ」(テレビ東京系)や「SUPER RICH」(フジテレビ系)で、堂々の主演も務めた江口さん。

生パスタの魅力を説いていたのは、まさに”旬の女優”だったのです。

江口のりこさん(CMより)
江口のりこさん(CMより)

小池栄子さん

俳優の永山瑛太さんは三人兄弟の真ん中です。兄の竜弥さんは俳優で写真家。弟の絢斗さんも俳優をしています。

そんな瑛太さんに、姉や妹はいないのですが、小池栄子さんが実の姉だと言われても信じてしまいそうです。それくらい、サントリー「-196 ザ・まるごとレモン」のCMでの姉弟役が似合っていました。

瑛太さんに「姉ちゃん、最近驚いたことある?」と聞かれ、「ああ?」と気のない返事の小池さん。

「これ、飲んでみ」とグラスを渡され、一口飲んだ途端に衝撃を受ける。

「なんぞ、これ!」と絶叫する姉。思わずニンマリする弟。普段は強い姉の言いなりであろう弟が、珍しく主導権を握った貴重な瞬間です。

このCMに誘発され、実際に飲んでみました。ウオッカとレモンのバランスが絶妙で、小池さんの驚きも当然かも。つい「なんぞ……」と言いかけてしまう。

”家飲み”が日常化してずいぶん経ちました。

飲み過ぎに注意は必要ですが、終電を気にしなくていいだけでなく、家族とのコミュニケーションという意味でも悪くないかなと思ったりするCMでした。

2022年の小池さんは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、主人公・北条義時(小栗旬)の姉であり、頼朝の妻である北条政子を演じます。

永山瑛太さんと小池栄子さん(CMより)
永山瑛太さんと小池栄子さん(CMより)

宮崎美子さん

CMの第1の舞台は1971年、銀座の歩行者天国です。デート中の女子中学生(宮崎美子さん!)の前に、日本に上陸したばかりのハンバーガー、しかもビッグマックが置かれます。

でも彼女は手をつけず、気まずいままデートは終わってしまいました。

そして、第2の舞台は半世紀後。かわいい婦人(宮崎さんの2役)が、71年当時の思い出話を孫にしています。

ビッグマックを食べなかったのは、「だって恥ずかしいじゃない。好きな人の前で、こんなでっかいの」。

しかし、じいじい(村上ショージさん)の前なら、「ぜんっぜん平気! 何でだろ?」と笑います。

そこで孫の少年は気づくんですね。ビッグマックがもう少し小さかったら、自分はここにいなかったのだと。

このCMにはいくつもの驚きがありました。

まず、少女を演じて違和感のない宮崎さん。大学4年生だった80年にカメラのCMでブレークした時と同じ髪型が心憎い。

この時のCMソング「いまの君はピカピカに光って」(作詞:糸井重里、作曲・編曲:鈴木慶一、歌:斉藤哲夫)は、今も完全に歌えます(笑)。

さらに、時代の再現性の高さです。銀座1号店はもちろん、街並みや行き交う人のファッションも含め、70年代の空気に満ちていました。

ずっと変わらず愛される場所。50周年にふさわしいメッセージです。

そんな宮崎さん、2021年のドラマでは日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」(TBS系)の記者、椎名実梨(杏)の母・和子をはじめ、何人もの温かい”おかあさん”を見せてくれました。

宮崎美子さん(CMより)
宮崎美子さん(CMより)

木村多江さん&門脇麦さん

女優の木村多江さんと門脇麦さん。どちらも誰もが認める名脇役です。まるで合わせ鏡のように機能して主役を輝かせ、同時に自身も輝いてみせる。

共通するのは演技力だけではありません。自身を客観視し、全体を俯瞰(ふかん)する力です。そのうえで、脇役への期待に応えつつ、期待以上の演技を披露してくれる。

そんな2人が、リクルートのシフト(勤務予定)管理サービス「Airシフト」の新作CMで共演していました。

残業でしょうか。木村さんが、アルバイトで働くスタッフのシフトで苦戦しています。個々の勤務希望日時を基に調整するのは、想像以上に大変な作業なのです。

そこに現れた門脇さん。手伝いたいけど、それは出来ない。シフトの決定は店長など限られた人が行うからです。

それならとばかりに、黄色いポンポンで応援する門脇さん。嬉しいような困ったような表情の木村さん。そんな2人の対比が、すこぶるおかしい。

助演女優は英語で「サポーティング・アクトレス」。シフト作成をサポートするCMにこれほどふさわしく、贅沢(ぜいたく)な配役はありません。

2021年の木村さん。テレビドラマで印象深いのが、NHKよるドラ「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」です。演じていた姉、江里子さんが素敵でした。

そして門脇さんは今年1月、フジテレビ系の月9枠「ミステリと言う勿(なか)れ」でスタートです。

木村多江さんと門脇麦さん(CMより)
木村多江さんと門脇麦さん(CMより)

2022年には、どんな「15秒のドラマ」が登場するのか、楽しみです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事