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記憶に残る「CM」で振り返る2021年

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

今年も、膨大な本数が放送されたテレビCM。時には、それを見て季節を感じることもありました。

記憶に残っているCMで、2021年を振り返る。その「ビール」編です。

2021春

アサヒスーパードライ「春、待ってるよ」篇

コロナ禍が続く中、2度目の春を迎えた2021年。以前のようなお花見は出来ませんでしたが、花咲く季節の到来はやはり待ち遠しいものです。

それはアサヒスーパードライのCMに登場した、元乃木坂46の白石麻衣さんと西野七瀬さんも同様でした。

グループを離れ、自分の道を歩む者同士。本当は仕事や恋のことを会って話したいところですが、今はSNSで励まし合っている。

「会いたいね」「今はガマン、ガマン」「もうすぐ会えるよね」「きっと会えるよ」といった言葉が飛び交います。

そんな2人を見ていると、「元気でいるかな」と相手の姿を想像することで、会えない分だけ、互いを思う気持ちがより強くなっていくような気がします。

近くにいることだけが、そばにいることじゃない。遠くにいても寄り添うことは可能かもしれない。白石さんと西野さんの明るい笑顔がその証拠です。

会えないけど、離れた所にいるけど、同時に空を見上げて、乾杯! 

西野七瀬さん(CMより)
西野七瀬さん(CMより)

2021夏から秋

キリンビール「スプリングバレー感動体験」篇

いわゆる「家飲み需要」の影響でしょうか。以前よりもビールのCMを頻繁に目にするような気がします。

俳優やタレントがそのビールを飲み、「うまい!」「おいしい!」と口にする。もちろん、それなりのリアル感はありますが、似たパターンが目立つのも事実です。

その意味で、キリンビールのCM「スプリングバレー感動体験」篇は、ひと味違いました。

登場したのは長谷川博己さんと染谷将太さん。この2人が並ぶだけで、昨年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』を連想してしまします。

現代にタイムスリップしてきた明智光秀と織田信長が、笑顔でビアグラスを手にしているみたいで愉快なんですね。

しかも長谷川さんは、自慢のクラフトビールについてのウンチクを語り続けて、なかなか染谷さんに「最初のひと口」を許さない。

もしも相手が信長だったら、「光秀!早く飲ませろ!」と激怒しているところでしょう。

ドラマとCMのイメージが重なり、見る側は「複層の物語と関係性」を楽しむことができました。

いつか2人が共演する、緊迫の現代劇も見てみたいものです。

長谷川博己さんと染谷将太さん(CMより)
長谷川博己さんと染谷将太さん(CMより)

2021冬

アサヒ生ビール「年末もおつかれ生です」篇

気がつけば、もう年末。

やり残したことは山積みですが、「よく頑張った!」と自分をホメたい気分もあったりします。

もしもこんな時、新垣結衣さんがねぎらってくれたら、かなり嬉しい。アサヒ生ビールの新CMは、そんな1本です。

新垣さんが「人と人に距離ができやすい時代、温もりの大切さを感じた1年」と語りかける。

リモートワークも悪くないが、どこか孤立感があるのは確かです。

無理をしているつもりはないけど、オフィスで同僚と交わす何気ない会話や、行きつけだった店のざわめきが時々恋しくなったりして。

1986年に登場し、多くのファンがいた生ビール。そのマイルドな味わいが復活しました。

しかも、「日本の皆さん、おつかれ生です」というガッキーの笑顔とセットです。これは年末のご褒美でしょう。

バックに流れる曲は、竹内まりやさんの「元気を出して」。

37年前、薬師丸ひろ子さんに提供しただけでなく、自身のカバー曲としてもヒットしました。

失恋した友人を、やさしく励ます女の子の言葉が時代を超えてあたたかい。

2022年が、温もりのある1年となりますように。

新垣結衣さん(CMより)
新垣結衣さん(CMより)

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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