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『青天を衝け』の渋沢栄一が、実際に出会った幕末・明治の「有名人」は誰?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

14日にスタートした、NHK大河ドラマ『青天を衝け』。

先日、初回を見ての感想と今後への期待を、夕刊紙の記者さんから求められました。

30分ほど話をしたのですが、もちろん記事になるのはその一部です。その時に伝えた内容を、ざっくりと記録しておこうと思います。

「意気込み」と「遊び心」の第1回

第1声は、「面白く見ました」。そりゃ、そうです。いきなりの徳川家康(北大路欣也)ですから。

まさか家康による「歴史の講義」を受けるとは思いませんでした。脚本の大森美香さん、そして演出の黒崎博さんの、これまでとは違う新たな大河を創ろうという「意気込み」と「遊び心」を感じました。

次に、速攻で主演の吉沢亮さんを出してきたこと。この人物が主人公の渋沢栄一なのだと印象づけたことです。

しかも、渋沢の登場と、彼の人生にとっての最重要人物である、一橋慶喜(草彅剛)との出会いをセットにして視聴者に見せたことも大きい。

初回の印象は、ドラマ全体の印象に繋がっています。そして初回の冒頭は、初回だけでなく、物語全体の立ち上がりでもあります。その意味で、栄一と慶喜の2人を押し出した、この冒頭は本当に上手い。

さらに、少年時代の栄一を演じる小林優仁くんも、よくぞ探してきたものだと感心するほど、いい面構えです。「強情で、知恵が早く、理知的で、勇気のある少年」だったといわれる栄一にピッタリ。

そんな小林くんの「栄一少年」と、吉沢さんの「渋沢青年」をクロスさせながら見せていく演出が見事でした。しばらくは少年時代の話が続くはずですが、見る側には吉沢さんの顔がしっかりと残っています。

「見どころ」と「期待」

このドラマの今後についてですが、いくつかの興味と期待があります。

渋沢は、一般的に「明治の実業家」としてとらえられがちですが、天保11年(1840)に生まれて、昭和6年(1931)に91歳で亡くなるまで、なんと11もの元号の時代を生きています。

まさに激動の時代を駆け抜けたわけで、これからその時代がどれだけのスケールで、どう描かれていくのかが見どころの一つになります。

次に、青年時代の渋沢は倒幕派でした。一橋家(徳川慶喜)の家臣となることで、倒すはずの幕府側、いわば体制側に入っていった。

いや、だからこそ後の渋沢があるわけですが、ドラマでは、この“渋沢の転向”を見る側にも分かるように描いてくれるはずで、大いに関心があります。

もう一つ、渋沢は「論語」読みの堅物とみられていますが、実は艶福家、つまり女好きという側面がありました。

「文春砲」のなかった時代とはいえ、今、森喜朗氏の失言問題など、女性との関わり方が社会的に注目されている中で、そのあたりをどう描いていくのか。こちらも興味深いところです。

渋沢栄一が実際に出会った「有名人」たち

最後に、幕末から明治にかけて、渋沢が実際に会ってきた歴史上の「有名人」たちと、今後、ドラマを通じて会えることへの期待があります。

たとえば、新選組の土方歳三

渋沢は、幕末の京都で一緒に「仕事」をしています。それは、「倒幕の陰謀」に関わっていた人物を捕まえるというものであり、ついこの間まで倒幕派だった渋沢にとっては複雑な心境だったはず。

土方について、後に渋沢は「なかなか思慮のある人物だった」と語っていますが、ドラマの中でどう描かれるのか、楽しみです。

また西郷隆盛とも幕末から面識がありました。

西郷が京都の相国寺にいた頃に始まり、明治政府が出来た後も繋がりは続きます。

初めて2人が差し向いで話をした時、渋沢が元々は武士でもなく、関東の農家出身と聞いて、西郷はとても驚いたそうです。

そして明治政府の中枢に入った後、渋沢は職務上や立場上で、より多くの「歴史上の人物」と接することになります。主な名前を挙げれば・・・

西郷と並んで「維新の三傑」と呼ばれる大久保利通木戸孝允をはじめ、伊藤博文、井上馨江藤新平後藤象二郎大隈重信などです。

歴史の教科書に出てくる彼らが、生身の人間として登場してくる。

何を語り、何を行ったのかが、渋沢との関係を軸としながら明らかになる。それだけでも、ちょっとワクワクしませんか。

もちろん、彼らが出てくるのは、まだ先のこと。

しばらくは、武蔵国(むさしのくに)の榛沢郡血洗島(はんざわぐん ちあらいじま)に暮らす栄一少年と、後に一橋慶喜となる七郎麻呂少年(笠松基生)、それぞれの少年時代と日本の動きを見つめていきたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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