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上白石萌音主演『ボス恋』は、ヒット作『恋つづ』の見事な進化形

碓井広義メディア文化評論家
キミは潤之介か!(写真:アフロ)

第4話まで放送された、上白石萌音主演『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)。すでに見る側の気持ちもがっちり掴んだようですが、その背景にあるのが萌音さんの前作『恋はつづくよどこまでも』の存在です。

『ボス恋』と『恋つづ』の連続感

早いもので、もう第4話まで放送された『オー!マイ・ボス!恋は別冊で(ボス恋)』(TBS系)。すでに見る側の気持ちもがっちり掴んだようです。

何より全体が明るいこと、そして軽快なテンポがいい。

また、ラブコメとしての「骨格」がしっかりしていることに加え、ヒロインである鈴木奈未の愛すべきキャラクターと、それを演じる上白石萌音さんとの相性も抜群です。

このドラマを見ていると、どこか萌音さんの前作である『恋はつづくよどこまでも(恋つづ)』(同)のイメージと重なるような気がします。

もちろん『恋つづ』の続編ではありませんし、別の作品であることは承知の上です。

しかし、『恋つづ』の佐倉七瀬と『ボス恋』の鈴木奈未には、「上白石萌音シリーズ」とでも呼びたくなるような連続感を覚えるのです。

主要人物の「ドSキャラ」

この「イメージの重なり」ということで言うと、まず、主要人物の「ドSキャラ」があります。

『恋つづ』の天堂浬(てんどうかいり、佐藤健)は、「ドSドクター」でした。『ボス恋』の宝来麗子(菜々緒)は、ご存じのように「ドS編集長」です。

ドSキャラを設定することで、ヒロインへの「共感・応援」が広がります。また立ちはだかる壁を乗り越えることで、「成長物語」という要素も生まれます。

天堂が「魔王」なら、麗子は「悪魔」。こういう分かりやすいキャッチフレーズも効いています。

ただし、魔王も悪魔も単なる「ドS」ではない。そう見えるのは、仕事に対する厳しさであり、高い「プロ意識」から来ているという点も共通しています。

「恋のライバル」の存在

次に挙げたいのが「恋のライバル」の存在でしょうか。

ラブコメでの恋は、そう簡単に成就してはいけません。ヒロインと同じように、相手を思っている女性が出てきます。

『恋つづ』においては、天堂の亡くなった恋人・若林みのり(蓮佛美沙子)の双子の妹で、医師の若林みおり(同)でした。

『ボス恋』では、宝来潤之介(玉森裕太)の初恋の相手で、今や世界的なヴァイオリニストになった蓮見理緒(倉科カナ)がそれに当たるようですね。理緒、波乱の帰国です。

「別の男性」の出現

イメージの重なりの3番目は、ヒロインを好きになる「別の男性」の出現になります。

自分が思っている相手ではなく、他の男性がヒロインを好きになる。『恋つづ』で、天堂と同期の医師だった来生晃一(毎熊克哉)がそうでした。

七瀬の片思いを応援するために、彼女に気があるようなフリをする「シュークリーム作戦」なんかやってるうちに、ほんとに好きになってしまった。

それと七瀬を好きになった人物としては、患者のイケメン御曹司(清原翔)もいましたね。嫉妬する天堂が可愛かった(笑)。

『ボス恋』の場合、同じ「MIYAVI」編集部の中沢涼太(間宮祥太朗)が、最近は奈未と潤之介の進展具合が気になって仕方ない様子。どこかで「名乗り」を挙げそうな気配です。

「ヒロインを好きな男性」を思う女性

さらに、この「ヒロインを好きになる別の男性」を思っている女性が出てきます。

『恋つづ』の来生医師に対しては、看護師の酒井結華(吉川愛)。『ボス恋』の中沢を好きらしいのが、編集アシスタントの和泉遥(久保田紗友)。

どちらもヒロインとは同僚であり、同じ職場内なので何かと微妙な場面があったりするわけで、物語に奥行きが生まれます。

『恋つづ』の進化形としての『ボス恋』

こうして比べてみると、今回の『ボス恋』が、ヒット作である『恋つづ』の「構造」を巧みにトレースしていることが分かります。

また萌音さん演じる「ヒロインの人物像」も、『恋つづ』と隔絶するような、ショックの大きなジャンプをしていません。

たとえば、「地方出身女子」を演じさせたら、今や日本一の女優である萌音さん。七瀬が鹿児島出身、奈未が熊本出身と、しっかり踏襲しています。

また、超が付く「恋愛初心者」役も、萌音さんが得意とするところです。

『恋つづ』のさり気ない延長上、もしくはバリエーションにも見えるヒロイン像。そういえば、佐倉七瀬も、鈴木奈未も、イニシャルはどちらも同じ「N.S」ですね。一種の「隠し記号」かもしれません。

『ボス恋』は、萌音さんという素材を生かすという意味で、まさに「上白石萌音シリーズ」の雰囲気なのです。

その分、ヒロインが好きになる相手には、ぐっと変化をつけました。

何てったって、佐藤健さんの「魔王」から、玉森裕太さんの「子犬」ですから。あの子犬の着ぐるみ姿の愛らしさなんて、もはや「反則」でしょう。

というわけで、『恋つづ』の見事な「進化形」である『ボス恋』。これから、まだまだ見る側を「オー!」と言わせてくれそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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