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終るのが惜しい!『私の家政夫ナギサさん』怒涛の最終回はどうなる!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

気がつけば、今年の夏ドラマの「目玉」の一つになっていた、多部未華子主演『私の家政夫ナギサさん』(TBS系、火曜夜10時)。早くも今夜が最終回です。これまでを踏まえての「大胆予測」とは!?

アラサー女子の本音とリアル

相原メイ(多部)が幼稚園児の頃、将来の夢は「お母さんになること」でした。しかし、それを母親(草刈民代)にひどく叱られます。

「そんな夢、おやめなさい。お母さんはね、お父さんだけじゃなく、その辺の男たちよりずっとできた。でも女の子だから、お母さんにしかなっちゃダメって言われたの。メイはばかな男より、もっと上を目指しなさい。お母さんになりたいなんて、くだらないこと二度と言わないで」

大人になったメイは、製薬会社のMR(医薬情報担当者)になっています。母親の期待に応えようと、「仕事がデキる女性」を目指して頑張ってきた成果でしょう。プロジェクトのリーダーとして部下を率い、責任ある仕事をしています。

ただし、いつも疲れ切って帰宅しているので、一人暮らしのマンションは散らかり放題だし、食生活もいいかげんでした。そんなメイを心配した妹の唯(趣里)が、優秀な「家政夫」である、鴫野(しぎの)ナギサ(大森南朋)を送り込んできたのです。

当初は、自分の部屋に「おじさん」が出入りすることに対して抵抗感があったメイですが、整った室内とおいしい食事はありがたい。さらに、ナギサさんの誠実な人柄にも癒やされていきます。そう、まるで家に「お母さんがいるみたい」と思うのでした。

このメイですが、別に恋愛したくないわけでも、結婚したくないわけでも、子供を持ちたくないわけでもありません。ただ、今の生活は充実しているし、無理もしたくない。

いや、できれば仕事を含む「現在の自分」をキープしたいと思っています。その意味で、スーパー家政夫のナギサさんのサポートはベストでした。

この辺り、アラサー女子の本音とリアルを等身大で演じる多部さんが見事です。しっかり者のようでいて、少し抜けたところもある、愛すべき「普通の女性」がそこにいます。

「私たち、結婚しませんか?」

とはいえ、現在のメイは、彼女なりの窮地に立たされています。ライバル会社の田所優太(瀬戸康史)から告白され、気持ちが揺れています。

いや、それ以上の問題は、ナギサさんが社内の人事異動で現場を離れること。これまでのように、メイの部屋に来て、片付けや料理をすることが出来なくなってしまう。

前回のラストでは、思い余ったメイが、なんと「私たち、結婚しませんか?」とナギサさんに迫ってしまいました。気持ちはわかるけど(笑)、それって可能なのか。

確かに、メイは知りませんが、見る側は知っています。ナギサさんの中にも、メイに対する特別な思いがあることを。

ナギサさんがずっと抱えていた悩みというか、葛藤というか、過去を悔いたままの状態から救ってくれたのは、メイでした。ナギサさんはメイを救いながら、メイに救われてもいたのです。

「さあ、どうする、メイ!」と考えていて、ふと思い出したのが、黒木華主演の『凪のお暇(なぎのおいとま)』(TBS系)でした。

『凪のお暇』との「つながり感」

『凪のお暇』が、昨年の夏に同じ枠で放送されていたこともあるのですが、『私の家政夫ナギサさん』では毎回、番組のタイトルが同じ映像で流れるのではなく、思わぬ場所に表示されます。

たとえば、先週はナギサさんのエプロンにプリントされていました。一瞬後には、エプロンの文字は「LIFE×WORK」に戻っていましたが。このスタイルは、『凪のお暇』で使われていた表現。そんなこともあって、「つながり」を感じた次第です。

「人生のリセット」がテーマだった、あの『凪のお暇』。ラストで凪(黒木)が選んだのは、ゴン(中村倫也)と暮らすことでも、我聞(高橋一生)とヨリを戻すことでもなく、まずは「一人で生きてみよう」という第3の道でした。

いえいえ、だからメイが、ナギサさんとも、田所とも離れるだろうと言いたいわけではありません。メイは凪とは逆で、ずっと一人で「負けないぞ!」と頑張ってきたからです。誰かと「向き合う」ことを無意識に避けてきたようなところもあります。

しかし、今やメイは、人と「向き合う」ことに目覚めました。単純に、ナギサさんと田所の両方に別れを告げることはしないと思うのです。ナギサさんも、田所も、メイには「手離してはいけない人」だから。

ドラマの愉しみ「大胆予測」

ここで勝手な想像、予測をするならば(これもドラマの愉しみの一つ)、メイは田所と結婚、もしくは正式な交際を開始するけど、2人ともマンションの部屋はそのまま、隣同士のままにする。互いに「個人」としてのスペースも時間も大事に確保。

さらに、ナギサさんは管理職になることをやめて、フリーランスの家政夫になる。そして、メイの部屋も田所の部屋もしっかり片付け、食事の面倒もみてあげる。もちろん、いろんな相談にものる。つまり、ナギサさんは2人にとっての「お母さん」になる、というのはどうでしょう。

かつて、メイがナギサさんに「なぜ家政夫などしているの?」と失礼な質問をすると、「小さい頃、お母さんになりたかったのです」と驚きの答えが返ってきました。でも、それは例えではなく、本当の話でした。女性だけでなく、男性の中にもある「母性」は、このドラマの大事なテーマだったと思います。

まあ、普通に考えれば、メイと田所が一緒になるってことは、ないかも。「いい人」なんですけどね、田所さん。ていうか、このドラマに「悪い人」は一人も出てこなかったんだ(笑)。

実際のメイは、誰と、どう「向き合う」ことを選択していくのか。注目の、そして怒涛の最終回です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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