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週末、『麒麟』の駒も旅に出る!? 気鋭の女優たちが見せてくれる「今年の夏」

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

いつもとは、ちょっと違う今年の夏。CMの中で気鋭の女優たちが見せてくれる「風景」も、どこか特別な感じがします。

門脇麦さんと「蒸気機関車」

今、仕事や生活、いや社会全体が、否応なしに変わりつつあるのは事実です。とはいえ、それに順応しようと頑張りながら、ふとため息をつく人も多いのではないでしょうか。

そんな時、門脇麦さんは「スロータイムな旅」に出るのかもしれません。東武鉄道の最新CM「SL大樹 It’s SLOW time」です。

門脇さんといえば、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』で、医師・望月東庵(堺正章)の助手を務める駒を好演しています。いつも、くるくるとよく働いている駒ですから、放送が休止中の今くらい、週末に小さな旅に出るのも悪くない。

乗り込むのは東武鬼怒川線の蒸気機関車。「SL大樹」の愛称を持つ人気者です。鮮やかなブルーの客車を引っ張り、早すぎないスピードで走る。車窓の風景もゆるやかに流れる。それは、とても贅沢な時間です。

実はこの機関車、SL大樹こと「C11 207」が造られたのは、太平洋戦争が始まった1941年12月のことです。激動の昭和から令和の現在まで、80年の時代の変化を見てきました。鉄の塊なのに、どこか人間らしさが漂います。

「機関車」という詩の中で、敬愛を込めて「律儀者の大男」と表現したのは作家の中野重治です。

町と村々とを

まっしぐらに駆けぬけて行くのを見るとき

おれの心臓はとどろき

おれの両眼は泪(なみだ)ぐむ

ゆっくりだから出会える景色があり、ゆっくりだから気づく人の優しさがある。今年の夏は特にそう思う。

森七菜さんと「放送室」

学校の「放送室」といえば、忘れられないのが映画『20世紀少年』で描かれたシーンです。

中学校の放送室を占拠したケンヂが、T・レックスの「20センチュリー・ボーイ」を校内に流して大騒ぎとなります。しかも、この放送が、ある少年の運命を変えたことも後々わかってくるのでした。

オロナミンCの新作CM、舞台は高校の放送室です。汗をかきながら、必死で床掃除をしていた女子生徒は、NHK朝ドラ『エール』でヒロイン・音(二階堂ふみ)の妹で、メガネの「関内梅」を演じている森七菜さん。

彼女が、ふと窓から外を眺めます。そこには、炎天下にたった一人でグラウンド整備をする野球部員の姿がありました。

今年は、新型コロナウイルスの影響で、高校野球の「夏の甲子園」も中止になりました。しかし、少年は黙々とマウンドでトンボ(地ならしの道具)を動かしている。

突然、マイクに向かって「♪いつでもスマイルし~ようね!」と歌い出す七菜さん。ホフディランが24年前にメジャーデビューした時の曲「スマイル」です。念のためですが(笑)、ホフディランはボブ・ディランとは別物。日本の音楽グループです。

校庭に響きわたる、予期せぬ「スマイル」の熱唱。野球少年も、「あ、生徒会長」と顔を上げる。元気をもらった歌声と共に、いつかきっと思い出すに違いない、一瞬の夏。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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