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国民的ドラマ『半沢直樹』の快進撃を支える、3つの「見どころ」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

7月後半、ついにスタートした日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)。4月に始まるはずでしたが、新型コロナウイルスの影響で大幅にずれ込みました。しかも第1シーズンの放送が2013年ですから、なんと7年ぶりの続編です。

ただし今回の第2シーズン、設定としては7年前と「地続き」であり、13年という「空白」を前提に続編を始めた『ハケンの品格』(日本テレビ系)とは異なっています。いわば、見る側も半沢と一緒に7年前に戻る感じでしょうか。

前作の最後では、大きな成果をあげたはずの半沢直樹(堺雅人)が、「東京中央銀行」から子会社へと左遷されてしまいました。人事は非情なり。今回は、その「東京セントラル証券」が舞台です。

物語の発端、大手IT企業「電脳雑伎集団」が、ライバルである「東京スパイラル」の買収を企みます。最初に相談を持ちかけたのは、銀行ではなく半沢のいる証券会社でした。

ところが途中で、東京中央銀行の一派が、この案件を横取りしようと仕掛けてきます。買収のアドバイザー契約は巨大な利益をもたらし、同時に半沢をつぶすこともできるからです。新シリーズの「第1の見どころ」が、親会社である東京中央銀行との確執、いや壮絶なバトルでしょう。

反撃のために半沢が組んだのは、証券会社の生え抜き社員である森山雅弘(賀来賢人)でした。森山は、銀行からやって来る天下りや落ちこぼれを、「楽をして禄(ろく)を食(は)む」連中として敵視しています。

今回の原作である、池井戸潤さんの小説『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』では、森山が嫌っていたのは「ロスジェネ世代」と呼ばれる先輩たちでした。しかし、ドラマでは「親会社から来た連中」に的を絞ることで、対立構造をわかりやすくしています。

最初は、半沢のことも「元銀行」の一人に過ぎないと思っていた森山ですが、信頼するに足る上司であると分かってきます。半沢もまた森山の能力を評価し、一緒に戦うことにしたのです。

この森山や浜村瞳(今田美桜)といった若手社員の存在が「第2の見どころ」です。前作にも登場した渡真利忍(及川光博)のような同期の仲間だけでなく、世代や立場を超えた「共闘」がドラマの山場を作っていくのです。

中でも、森山を演じる賀来賢人さんは、一昨年秋のドラマ「今日から俺は!!」(日本テレビ系、現在「劇場版」を公開中)で演じた、「金髪のツッパリ高校生」とはまるで別人。役者としての振れ幅の大きさに驚かされます。

森山が、かつての友人で、スパイラルの社長となった瀬名洋介(尾上松也)と対峙する重要な場面でも、賀来さんは的確な演技を見せていました。

加えて、お馴染(なじ)みの大和田常務、じゃなくて大和田取締役(香川照之)はもちろん、証券営業部の伊佐山部長(市川猿之助)、三笠副頭取(古田新太)、そして金融庁の黒崎検査官(片岡愛之助)など、濃い味付けのキャラクターと異能俳優たちの一体感が、第1シーズン以上にすさまじい。これが「第3の見どころ」です。

また物語の中で明かされる企業買収の仕組み、特に銀行や証券会社の動きが分かりやすく絵解きされ、誰もが興味深く見ることができる。「組織対組織」「組織対個人」の暗闘を背景に、企業の中にいる人間の生態が巧みに描かれていきます。

そして何より、「正しいことを正しいと言えること」「世の中の常識と組織の常識を一致させること」を愚直に目指す、半沢直樹という男の姿が清々(すがすが)しい。それこそが、現在のような「コロナ閉塞(へいそく)社会」における、国民的ドラマ『半沢直樹』最大の魅力かもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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