綾野剛×星野源『MIU404』 野木亜紀子「オリジナル脚本」の醍醐味

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「走る刑事」の復活

走る。走る。ほんと、毎回よく走るなあ、この刑事。かつて警察小説の傑作の一つに『刑事マルティン・ベック 笑う警官』ってのがあったけど、こっちは「笑う警官」ならぬ、「走る刑事」だ。

「走る刑事」といえば、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)を思い出します。あの七曲署の若手刑事たち、ジーパン(松田優作)も、テキサス(勝野洋)も、よく走っていた。というか、走ってばかりいた。

新たな「走る刑事」の名は、伊吹藍(綾野剛)。綾野さん本人が、中学、高校と陸上部の有力選手だったことが存分に生かされています。

そして、コンビを組んでいる相手が志摩一未(星野源)。アイとカズミって、なぜかユニセックス風な名前ですが、2人は警視庁刑事部の「第4機動捜査隊」に所属するチームです。

そのコールサインが「MIU(機動捜査隊の略)404」で、それがそのまま、金曜ドラマ『MIU404(ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系、金曜よる10時)というミュウな、いや妙なタイトルになっている。

先週10日の第3話でも、伊吹は容疑者を追って走っていました。その相手は元気な高校生たち。しかも元・陸上部だから、まさに逃げ足も速い。伊吹もしっかりしたフォームで、自慢の健脚を見せてくれました。いえ、志摩は走りません。自転車です。

裏テーマは令和日本の「社会病理」

伊吹藍と志摩一未。この2人、キャラクターが全く異なります。野生のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。刑事としてのキャリアも、捜査の手法も、信念といった面でも似た要素はない。いや、だからこそ、両者が出会ったことで、物語にも「化学反応」が起きているのです。

例えば第2話。殺人容疑の男(松下洸平)が通りかかった夫婦の車に乗り込み、逃走しました。その車を見つけた伊吹たちは追尾し、下車した男を確保しようとします。

しかし、夫婦に邪魔されて取り逃がしてしまう。男は本当に犯人なのか、違うのか。夫婦はなぜ彼を助けたのか。見る側は疑問を抱きます。やがて、それぞれが背負う重い過去と現在が少しずつ明らかになっていきました。

また前述の第3話では、仲間の女子生徒が警察に「黒い帽子の怪しい男に追われている」と公衆電話から110番通報。これ、いわばイタズラ通報で、警察官が駆けつけると、元陸上部の男子たちがリレースタイルで逃走する。逃げきれたら、自分たちの勝ち、というわけで、まあ、一種のゲームです。

なぜ彼らはそんなことを続けてきたのか。背景には陸上部の「廃部」があり、その廃部には先輩たちの「薬物問題」が関係していました。具体的には、「ドーナツEP」と呼ばれる、トローチ状の薬物です。

しかも学校側は、評判が落ちることを恐れて、この薬物問題を隠蔽し、また封印する意味で陸上部を潰(つぶ)しました。そういえば、警察が動いたことを知ると、校長は即、陸上部関係の文書を処分していたなあ。まるで、どこかのお役所みたいだ。

このドラマ、主眼を、いわゆる刑事ドラマ的な「謎解き」や「サスペンス性」に置いていません。描こうとしているのは、事件という亀裂から垣間見ることのできる、一種の「社会病理」です。

しかも、それは伊吹や志摩の内部にも巣食(すく)っている、いわば「魔物」かもしれない。正義もまた、さまざまな相貌(そうぼう)を持つのです。

志摩は「他人も自分も信じない」と言う。「オレは(人を)信じてあげたいんだよね」と伊吹。だが、そんな言葉も額面通りに受け取れないのが「野木ドラマ」です。

野木亜紀子の「オリジナル脚本」

脚本は、『アンナチュラル』(TBS系)などの野木亜紀子さんのオリジナル。

ドラマのシナリオは大きく2種類に分けられます。一つは、小説や漫画といった原作があるもの。そしてもう一つが、原作なしのオリジナルです。

前者は「脚色」と呼ばれ、本来は、ストーリーや登場人物のキャラクターをゼロから作り上げる「脚本」とは異なるものだ。米アカデミー賞などでは「脚色賞」と「脚本賞」はきちんと区分されます。しかし日本のドラマでは、どちらも「脚本」と表示されることが多い。

『半沢直樹』シリーズ(TBS系)がそうであるように、原作を持つドラマの面白さも十分認めた上で、オリジナルドラマならではの醍醐味(だいごみ)が存在する。それは「先が読めないこと」です。

中でも野木亜紀子さんが手掛けるオリジナルドラマは、物語の展開を「予測する楽しみ」と、いい意味で「裏切られる楽しみ」、その両方を堪能できる。

しかも演出は塚原あゆ子さん。プロデューサーは新井順子さん。つまり、野木さんも含め『アンナチュラル』と同じ制作チームだ。

『アンナチュラル』が「新感覚の医学サスペンス」だったように、『MIU404』もまた「新感覚の刑事ドラマ」かもしれません。オリジナル脚本の醍醐味がそこにあります。